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後日譚347.事なかれ主義者は積極的に取りに行った

 チャム様経由で蘭加と静流に加護を使わせてほしいとお願いされたけど、とりあえず誕生日パーティーをする事になった。

 最初はプレゼントを渡すところからだったけれど、僕が用意したのは例年渡しているリュックと、それぞれの足に合わせたオーダーメイドの靴だ。

 他の子よりも圧倒的に外に出かける事が多い二人のために作ってもらった。『付与』が使えたら歩く度に音が鳴るようにしたり、足の大きさに合わせて靴のサイズが変わる物にしたりしたんだけど今はもうそれらはできなくなってしまった。

 高ランクの魔物の皮を使って作られたしっかりとした靴だけど、きっとすぐに履けなくなるんだろうな。

 他の皆が順番に蘭加と静流にあげている様子を見ながらそんな事を考えていると、僕の隣にラオさんとルウさんが腰かけた。


「二人はプレゼント渡さないの?」

「私たちのは今すぐ渡しても意味がない物だからいいのよ」

「間違って飲んでも問題だしな」

「飲むと問題になる物って……お酒? シンシーラじゃないんだし、子どもにお酒あげても喜ばないんじゃないかなぁ」

「大きくなったら一緒に飲むためにとってあるのよ。その年に作られたワインの中で私たちが選んだ物を貯めておいて、成人したらまとめて渡すの」

「酒だったら一緒に飲む事もできるし、金に困ったら売る事もできるからな」

「いい物だったら貴族が高値で買ってくれるでしょうし、そうでなくてもドワーフだったらそこそこのお金で買ってくれるから」

「なるほどなぁ。……僕もそういうのにすればよかったかな。残る物が良いかなって思ってリュックは毎年贈る事にしてるんだけど……」

「あれはあれでいいんじゃないかしら? 実用的だし、使わなくなったら素材を再利用してもいいし」

「……状況によっては高値を出す物好きもいるかもしれないしな」

「そんなにいい素材なんだ?」

「まあ、それもあるな」


 どういう事? とラオさんに尋ねようとしたタイミングで、彼女は立ち上がって自分の娘である蘭加の方に歩いて行く。他のお嫁さんたちはだいぶ慣れたからプレゼントを受け取る事が出来たけど、僕たちの真似をしたくて作物を持ってきたドライアドたちの対応は彼女の手に余るからだろう。


「シズルの方もプレゼントを受け取り終わったみたいだし、そろそろご飯にしましょうか」

「そうだね」


 一番目立つお誕生席には二人に座ってもらった。二人の斜め前の席にはそれぞれの母親が座っている。

 僕の座る場所がないな。敷物の方はまだ行くのは早いし……なんて事を考えながらどこに座ろうかと視線を彷徨わせていると、レヴィさんが二人の間に椅子を動かしている所だった。


「ここに座るのですわ!」

「それじゃあ僕が誕生日みたいにならない?」

「両親が平等に近くに座るのならこれが一番だと思うのですわ!」

「それもそうね」

「いいんじゃねぇか?」


 他の人も異論がないようなので僕は世界樹に背を向ける形で座った。

 向かい側には誰も座っておらず、おそらくジュリウスが捜査しているであろう魔道具『ドローンゴーレム』が映像を記録するために滞空していた。普段だったらアレを使わずにジュリウスが『魔動カメラ』で録画しているんだけど、今回は人見知りが激しくて恥ずかしがりやな蘭加がいるので配慮してくれたのだろう。

 二人のために作られた小さなケーキにささっていた日本のろうそくに火が灯されてから、おそらく勇者が伝えた誕生日を祝う歌をみんなで歌った。何度もやっているからか、それともレヴィさんが仕込んだのかは分からないけど、敷物で遊んでいたドライアドたちも歌ったのでなかなか賑やかな合唱だった。


「二人ともおめでとう。ふーってできるかな?」


 元気よく「できるよ!」と静流が返事をして火を消したのを見て、もじもじしていた蘭加も同じように息を吹きかけてろうそくの火を消した。宴の始まりである。ラオさんもルウさんも元々平民なのでこのパーティーにはマナーも何もない。自由に料理をとってその場で食べてもいいし、ドライアドたちに占領されつつある敷物に移動して食事をしてもいい。


「二人の分はとってあるから、のんびり食べて良いからね」


 そんな事を言いながら、僕はドラゴンの肉の塊を少し貰うために席を立つ。

 僕が席を立つと静流も席を立とうとしたのでルウさんが抱き上げていた。早速履いた真新しい靴が机よりも上にあるけれど、机も椅子も二人にとっては大きいから仕方がない。


「静流、何か食べたい物があったらパパがとってあげるから言ってね?」

「お肉!」

「おいしそうだよね。どのくらいがいいかな?」

「いっぱい! たくさんたべる!」


 ルウさんにピトッとくっつきながら静流が元気に主張する。……栄養バランスの事を考えたら野菜も乗せた方が良い様な気もするけれど、本人の食べたい物をまずは食べさせよう。

 静流用のお皿が薄く切られたドラゴンのに下ったり、なんかの魔物の唐揚げだったりでいっぱいになったところで彼女は満足したようだ。ルウさんに連れられて元の場所に戻った。


「蘭加はなにか食べたい物あるかな?」

「えっとね……。……あれ」


 自分用の小さなケーキを半分ほど食べ進めていた蘭加が指差した先にはいろいろな料理が並んでいる。

 そりゃお誕生日席から机の向こうの方を指したらそうなる。そうなるけど、なんとなく彼女が差している物は分かった。


「ん? あのなんか山みたいになってるシュークリーム?」

「うん」

「大きなケーキもあるけどそっちはいいの?」

「うん」

「どのくらいほしい?」

「いっこ」

「分かった。じゃあ取ってくるね」


 蘭加は甘い物が好きらしい。甘い物、美味しいもんね。でも静流と違うのは山盛りではなく一個ずつ選ぶ事だろうか? 蘭加が食べ終わる度に僕はお嫁さんたちがたくさんいる方には行こうとしない蘭加の代わりに机の周りを行ったり来たりするのだった。

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