後日譚346.事なかれ主義者は久しぶりに呼び出された
誕生日パーティーとは言うものの、飾りつけとかは特にない。だって外だから。
世界樹をクリスマスツリーみたいにデコレーションするのは大変骨が折れそうな作業だし、そこら辺の植物に手を加えたらドライアドたちから抗議されるだろうから、というのも理由の一つだけど、とにかく飾りつけは特にしていない。
していないけれど、最近は大きな誕生日ケーキを用意する事になっている。
後なんかシュークリームが山のように積まれてるやつとか、でっかいドラゴンの肉の塊だとか――とにかく、見た目でインパクトが強い料理が机に並んでいる。
パーティーならば、当然お酒も各種取り揃えられているが、子どもたちが誤って飲まないようにそれは以前なんかのタイミングで作った魔道具『クーラーボックス』の中にしっかりと保管されている。
それらを世界樹の根元で丸くなって虎視眈々と狙っている魔物がいるので、ドライアドたちに警備を頼み、僕たちは誕生日パーティーの前に祠の前でお祈りをするため集まっていた。
「ほら、ランカ。神様にご挨拶するんだから、隠れてないでパパの所に行きな」
「う~……」
「シズルちゃん、ランカちゃんと一緒にパパの所に連れて行ってあげて?」
「わかった! ランカちゃん、いっしょにいこ? はずかしくないよ?」
「はずかしい……」
ラオさんの足にぴったりとくっついているのがランカで、そんな蘭加にくっついているのが静流だ。
蘭加は僕に似て黒い髪に黒い瞳だったけど、静流はルウさんに似て目も髪も真っ赤に燃えるような赤色だった。
二人とも今日は可愛らしいフリフリのドレスを着ているけど、その母親たちはいつも通りタンクトップに短パンという姿だった。二人がそれでいいのなら僕がとやかく言う事ではない。
「……ねえ、ちょっと蘭加と静流を運びたいからみんな離れてもらっていい?」
「えー」
「なんで~」
「別にいいじゃん」
「レーモレーモ!」
「いや、普通に抱っこする時に邪魔だし……なにより蘭加が恥ずかしがるからさ」
「もー、しょうがないなぁ」
「お祈り終わったらまたくっつくからね!」
「ちょっとの間離れるだけだからね?」
「ありがと。……レモンちゃんも降りてくれないかな?」
「…………」
はい、いつもの無言の抵抗ですね。
まあ、レモンちゃんは他の子たちと比べると蘭加も慣れているからまあいいか。
僕の真っ白な服にしがみ付くようにくっついていたドライアドたちが離れたところで僕は静流に引っ張られても抵抗を続けている蘭加の元へと向かった。
しゃがみ込んで丸まり抵抗をしていた蘭加は持ち上げやすかったし、ドライアドたちと比べると背中に引っ付いてきた静流は軽かった。
「はい、じゃあみんな定位置に着いた所でお祈りをしようか」
地面に下ろした後、蘭加は丸まったまま動かなかったけど、その状態でもきっとお祈りはできるだろう、なんて思いつつ僕も皆と同様に目を瞑って手を合わせる。
無難にまた一年、元気に過ごせるようにと祈ろうかな、なんて事を考えていたら周りの喧騒が消えている事に気が付いた。
「久しぶりですね、チャム様」
「……なんだかすごくなれている様子でむかつく」
目を開くと見覚えのある真っ白な空間にいた。目の前には下半身が蛇の男の子がいて、半目で僕を見ていた。新しい加護を授けてくれた神様だけど、元々持っていた加護を手放す原因にもなったチャム様だ。『天気祈願』を使いながら『まじないの神様』としてせっせと布教活動をしている所だけど、見た目に変化は見られない。
「まあ、こうして呼び出されるの実際慣れてますし」
「普通は神々と面と向かって会話をする事なんてそうそうないからね? そこんところ勘違いしちゃだめだよ」
「そうなんですか? 加護を授けられている相手でも?」
「そりゃそうでしょ。どれだけ加護を授けていると思っているのさ。それに、君たち転移者とはいろいろ違うからね」
「へー」
「…………興味なさそうだね。本題に入ろうか」
「お願いします」
僕たち転移者と神々の関係性について気になるところではあるんだけど、なによりも優先すべきは蘭加と静流の誕生日パーティーだ。パーティーの前に蘭加を無理矢理お祈りに参加させている所だし、出来れば早く向こうに戻りたい。
なんて事を口に出さなくても、考えは向こうに筒抜けなのだろう。チャム様は苦笑を浮かべていた。
「今回こうして呼んだのは、君の子どもに関して伝えてほしいと言われた事があったからだよ。『生育』は使っているのに『付与』や『加工』は全然使ってくれないから使うように伝えてほしいってさ。特に『加工』の加護を授けた神様がうるさくってね。なんとかしてくんない?」
「何とかしてって言われても、『生育』は本人の気持ちとマッチしてたから頻繁に使われているだけで、他の加護は自動的に発動するような物でもないですし、難しいんじゃないですかね?」
「そこを何とかするのが父親の勤めでしょ。それじゃ、よろしくね」
言いたい事が言い終わったのか、視界が一気に変わって見覚えのある祠が目の前にあった。喧騒も戻ってきたし、すぐ近くで静流と蘭加がこっちを見上げていた。
「パパ、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫だよ。お祈りも終わった移動しようか」
安心した様子の二人を小脇に抱えて一緒にパーティー会場へと向かう。
キャーキャーと楽しそうな声を近くで聞きながら、僕はどうやって二人に加護を使わせるべきか考えるのだった。