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後日譚344.多弁な義父たちは再び町へ赴いた

 ファマリアを訪れたロイとシアは、町と呼称するには大きすぎるファマリアのすべてを見て回る事は出来なかったので泊まる事になった。転移陣があるので日帰りでもよかったが、その方がシズトの事を知る事ができるので厚意に甘えて別館に用意されていた客間で寝泊まりする事となった。

 日が暮れる頃に世界樹の根元に戻ってきたロイとシアは、出迎えてくれたシズトと少し談笑した後、別館へと向かった。


「明日も仕事って言ってたし、少しくらい立ち話しても良かったんじゃないか?」

「アンタの『少し』は全然『少し』じゃないから駄目だ。それに、あの子の嫁はラオとルウだけじゃないんだよ。邪魔しちゃ悪いだろ」

「……ああ、それもそうだったね。複数の女性を娶るのはそれはそれで大変なんだねぇ」


 そんなやり取りを二人でしながらメイド服を着たエルフの女性ジュリーンに案内された別館の部屋に荷物を置いたところで「お食事はどうなされますか?」と尋ねられた。


「既に準備ができておりますが、こちらにお運び致しましょうか?」

「そうだね。お言葉に甘えてそうさせてもらうのもアリだけど……。あなたたちもこれから食事なのかな?」

「はい」

「お邪魔じゃなければ一緒に食事をしてもいいかな? シズトくんは娘の二人以外からはどの様に見えるのか聞いてみたくてね」

「お客様方がお気になさらないのであれば構いませんよ。食堂はまでご案内いたします」


 食堂に移動すると既に別館で暮らしている者のほとんどが集まっていた。

 食事をする前に軽く自己紹介が行われ、「いただきます」という食前の挨拶と共に各々が食事を始める。

 シアは黙々と食べているが周囲の様子をそれとなく窺い、ロイは積極的に同卓した者たちとコミュニケーションをとっている。


「野菜がすごくおいしいのは世界樹の影響もあるのかなと思っていたけれど、あの小さな子たちが世話をしているからなのか」

「シズト様の魔道具のおかげもあるけど、やっぱりドライアドたちが育てている物はどれも美味しいわ。野菜嫌いだったアンジェラも美味しい美味しいってたくさん食べてくれるの」

「もう、お母さん! いつの話してるの!」

「アンジェラも嫌いなものがあったのね」

「食べさせるのに苦労したわ」

「今は何でも食べるもん!」

「どこの子どもも変わらないのかぁ。うちの娘たちも嫌いな物はどれだけ細かくしてもすぐ気づいたし……」


 主にロイと話をしているのは社交的なジュリーンとアンジェラ、シルヴェラの三人だった。

 アンジェラの父親であるアンディーはあまり多くを語らないが、同じく黙々と飲み食いしていたシアの事を気にかけており、グラスが空いたら新しい酒を勧めている。

 夜は活動的なダークエルフのダーリアは、悪戯好きなエルフの少女リーヴィアと何やら話をしていて大人の話には加わっていなかった。

 バーンという人族の少年と彼を慕う女の子たちは早めに食事をしていた事もあり、この場にはいない。部屋でゆっくり過ごしているとの事で、彼らから話を聞けない事を残念に思ったロイだったが、結局夜遅くまで飲みながら交流を深めるのだった。




 翌朝、いつも通り朝早くに目が覚めたロイとシアは、朝食は断ってそのまま外に出た。

 朝日が昇る少し前だというのに金色の髪の女性は侍女を連れてせっせと土いじりに励んでいる。


「……流石に気軽に話しかけるわけにはいかないよね」

「当たり前じゃないか」


 この国の第一王女であるレヴィア・フォン・ドラゴニアは娘たちと同じくシズトと結婚しているが、それはそれ、これはこれ。おいそれと話しかけられるほど常識知らずではない二人は、会釈するに留めて畑を見て回った。


「お父さん、お母さん、お待たせ!」

「おはよう、ルウ、ラオ。昨日はよく眠れたかい?」

「よく眠れたわ。子どもたちと一緒の部屋で寝てるわけじゃないから」

「そういえばお世話をしてくれる人が常駐しているんだったね」

「楽できるところは楽しよう、って話になったからそうしてるの。まあ、最近は夜泣きもあんまりしなくなったって聞いてるからそんなに手はかからないかもしれないけど……」

「もうすぐ二歳だったよね? 自分の気持ちを出してくる頃だろうから起きてる時の方が大変かもしれないねぇ」


 ロイとルウが二人で立ち話を始めている近くで、ラオとシアは今日の予定を確認していた。


「あの壁の向こう側に今日は行くんだったね?」

「ああ。壁の向こうは余所から来た奴らもいるからトラブルも起こるかもしれん。昨日よりは警戒した方が良いかもな」

「分かったよ。……所で、今日もあの魔道具に乗るのかい?」

「そのつもりだ。じゃないと到底一日じゃ回り切れんからな。あんまり向こうを空ける訳にもいかんだろ?」

「別に問題ないだろ。大した事はしてないし。むしろ遠出をしていたって言い訳になるんじゃないかい?」

「そうだとしても、浮遊台車を使うのは変わらんぞ。もう手配しちゃってるし」

「四台あるんだろうね?」

「いや、昨日と同じ数だ」

「そうかい。……よくよく考えたんだけど、ラオかルウと一緒に大きい方に乗れば問題ないんじゃないか?」

「いや、親父が譲らんだろ」

「そこはほら、アタシが言えば何とかなる気がするんだけどねぇ」

「アタシは加勢しないからな」

「そう言わずにちょっとくらい援護してくれよ。一緒に乗るの、思った以上に恥ずかしいんだよ?」

「分からなくもねぇけど、トラブルを避けるためにもおんなじ所に集まっておいた方が良いんじゃねぇか?」

「そうかもしれんけど……――」


 話をしながらラオは浮遊台車を待機させている所に移動し始めると、その隣をシアが歩き、少し遅れて移動し始めた事に気付いたロイとルウがその後を追った。

 結局、畑を抜ける時までに説得をできなかったシアは、昨日と同じくロイの足と足の間に大人しく腰を下ろすのだった。

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