後日譚343.多弁な義父たちは参考にしたい
甘味を堪能したラオ、ルウ、シア、ロイの四人組は、内壁を回る際に魔道具『浮遊台車』を用いた移動サービスを受け、ぐるりと内壁を見て回る事になった。
食事中には手配が終わっていたのだが、二メートルを超える男女が三人もいたので、急遽もう一台追加でやってきて三台の浮遊台車が彼女たちの前にあった。
ラオとルウは一人ずつ台車に慣れた様子で座った。それを見てロイも腰を下ろしたが、シアはもう一台捕まえられないかきょろきょろしていた。
「ほら、シア。一緒に座ろう。そうしたら料金も安く済むだろう?」
「……………………仕方ないね」
荷物を運んでいる子たちばかり忙しなく行き交うため捕まえるのを諦めたのだろう。シアはとぼとぼとロイが乗っている浮遊台車に乗る事にした。
ロイが足を開いて座っているのでその間にシアがすっぽりと収まったところで浮遊台車が浮き、後ろから奴隷の首輪をつけた少女が押し始める。
周りの視線が気になる様子のシアに対して、背後から首輪をつけた少女が話しかけた。
「お客さん狭くないですか?」
「問題ないよ」
「そうですか、よかった。シズト様の御子様のお誕生日が近いのでほとんどの子がいろんなお店に駆り出されてて空いてる子たちはあんまりいなくて……。申し訳ないです」
「気にしなさんな」
「シズトくんの子どもたちの誕生日は全員毎回祝っているのかい?」
「そうですね。お披露目は三歳からなんだそうですけど、それでも一週間くらい前から各地から人がやってくるんです。特に商人さんが多いですね。シズト様の時のようにシズト様が主催した大会は開かれないんですけど、商人や冒険者たちの間で勝手に大会が開かれたり、オークションが開催されて珍しい品々を手に入れたりする事もできるんです」
「お祭り騒ぎみたいで面白いねぇ。僕たちがやってきたのはどうやらいいタイミングだったみたいだよ」
「三人がそうなるように招いただけだろう」
シアがいつも以上に言葉がきつくても夫婦だからかロイは気にした様子もない。二人乗りという状況を楽しむように、シアを後ろから抱きしめて上機嫌な彼だったが、後ろからの視線には気づいていなかった。
気になる店があればそこで止まり、買い食いしてはまた浮遊台車で町を回る。それを繰り返していると元々いた場所周辺に戻ってきた。
「……ここら辺は今までの建物とちょっと違うね? 何をするところなんだい?」
「この周辺は私たち奴隷が勉強をするところです。慈悲深い私たちのご主人様が、私たちが奴隷から解放された際に困らないようにと作ってくれた場所で、文字の読み書きから計算まで一通り学べます。意欲さえあればそこから専門的な分野まで教わる事もできるんですよ」
「へー、面白い試みだねぇ。文字が読めれば君みたいにギルドの受付嬢にだってなれるもんね。僕たちの村でもやってみるのも面白そうだ」
「どうだろうね」
「町長なら許してくれるんじゃないかな?」
「学をつければそれだけ都会に出てく者も増える。領民が減れば領主は良い顔をしないだろうねぇ」
「そうかなぁ。育った子が町を大きくしてくれる可能性だってあるんじゃないかな」
「あんな辺鄙な所をわざわざ大きくしてどうするのさ。……ま、そこら辺はアタシたちが考える事じゃあないし、町長に打診だけしてみてもいいかもしれないけどね」
何だかんだ言いつつもロイを止めるつもりがないシアは、その後に「何をしているのか見てみようよ」というロイと共に研修所の窓から中の様子を一緒に覗き込んでいた。
そんな事をしていれば指導役の者の目にも止まるのだが、すぐそばにラオとルウの二人の姿を見つけると注意する事もない。むしろ、部屋の後ろの方で見学したらどうかと提案されるほどだった。
「冒険者としての知恵をああやって惜しみなく伝授するなんてね」
「反対なのかい?」
「いや、いいんじゃないかな? 彼らはもう引退したから必要ない知識や技術だし、教わった子たちが稼げば武器や防具にもお金を回せて生存率も上がるだろうし。そうしたらダンジョンの外の魔物の問題も少しは改善されるかもしれない」
「……まあ、そうかもね」
「先輩からお金をもらったり下働きしたりして学ぶ事だって思い込んでたけど、町に戻ったら教えるのもいいかもしれないなぁ」
授業が終わり、ぞろぞろと部屋から出て行く奴隷たちの後を追うように歩きながら話をしていたロイとシアだったが、後ろから声がかけられた。二人の様子を静かに見守っていたルウだ。
「ねえ、お父さん、お母さん。町の話はそこまでにしておかない? もうそろそろ日が暮れるし、そろそろ戻らないと夕食の時間に間に合わないかもしれないわ」
「それは急いで帰らないと。ああ、でもお酒とデザートをもう少し買った方が良いかな?」
「貯蔵しているのがあるし、バーンくんたちにお願いすれば作ってくれるわよ、きっと。ほらほら、浮遊台車に乗って乗って」
「……よくよく考えたんだけど、アンタたち二人のどっちかにアタシが乗っても問題ないんじゃないかい?」
「私たちのは少し小さめの台車だから無理よ」
「そうは見えないけどねぇ」
「ほら、お母さんも恥ずかしがらずに乗って乗って」
ブツブツと文句を言いつつも、再びシアはロイの足と足の間に腰を下ろした。
そして、夕日に染まる町の中を、顔を再び赤くしたシアを乗せて浮遊台車は世界樹の方へと爆走するのだった。