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後日譚342.元訳アリ冒険者たちは奢った

「町というより、都市じゃないかな?」


 畑を歩いていたロイは薄々と感じていた事をファマリアへと足を踏み入れて改めて思った。

 彼らの眼前に広がるのは、奴隷たちのために建てられた集合住宅群だ。それが通りにずらりと並んでいて、遠くに見える壁まで続いていた。

 その建物の前では露天商が店を開いていて、奴隷の証である首輪をつけた者たちが自由に買い物を楽しんでいた。

 そんな光景は他の所ではめったに見られる物ではないのだが、その点に両親が触れていないのはラオとルウが奴隷たちの扱いが全く違う事をしっかりと言い聞かせていたからだった。両親に限ってそんな事はないだろうが、他の街と同様の扱いを奴隷にしたらエルフやら町の子たちやら冒険者やらが飛んできて簀巻きにされ運ばれてしまうからだ。

 だから二人とも奴隷が自分たちの財布から自由にお金を出して物を買っているのを見ても何とも思わないし、奴隷だらけの町でも眉を顰める事もなかった。

 だが、シズトにつられてファマリアの事を『町』と二人に伝えていたため、想像と乖離してしまっていたのだろう。

 肩を竦めてラオが「まあ、見ての通りだわな」と言うと、シアが「世界樹を擁する町が小規模で収まるわけがないか」と呟いた。


「ほらほら、二人とも。こんなところでボーッとしてたら時間が足らないわよ。町を見て回るんでしょう? 早く行きましょ?」

「……そうだね。領都か王都にでも来たと思えばいいか。ちょっと誤算だったのは今日一日で見て回る事が出来そうにない事、かな?」

「丁度いいんじゃないかい? どうせ家を数日留守にするって町の奴らには伝えたんだ。このくらい大きな都市なんだ。泊まるところくらいはあるだろ?」

「別館に客室があるわ! 宿屋も壁の向こう側にあるけれど、どっちが良いかしら?」

「どっちでもいいさ」

「ご飯が美味しいのは間違いなく客室ね!」

「どうせなら美味しいご飯を食べたいところだけど、急にいっても大丈夫なのかい?」

「用意だけしてあって使っていないから問題ないと思うけれど…………念のために伝えておくわ。すぐに戻るわね」


 そういうやいなや、ルウはその場から忽然と姿を消した。普段よりも多少おしゃれをしていた彼女だったが、ワンピースでも問題なく加護を用いた高速移動をする事ができるようで、数分とかからずに戻ってきた。


「二人くらいなら言われなくても問題ないって。どっちになって問題ないって事だったわ」

「それならお言葉に甘えて泊まらせてもらおうじゃないか。なあ、シア」

「好きにしな」


 泊まる場所が決まったら早速町の案内が始まった。

 ファマリアの区画整理は既に終わっており、内壁の内側は新しい『居住区』となっていた。

 ただ、居住区と言いつつも集合住宅だけがあるわけではない。通りでは露天商が屋台を開いているし、シズトの奴隷たちがメインターゲットの冒険者ギルドや、公衆浴場、飲食店は移動させられる事もなかった。

 通り沿いの屋台で料理を買っては歩きながら食べていた一行だったが、シアがぽつりと「屋台にしては高いね」と呟いた。

 ロイとルウはなにやらずっと雑談をしていたため、それに答えたのはラオだった。


「ターゲットが金持ちだからな」

「奴隷が金持ちってのがピンとこないわ」

「そりゃそうだろうなぁ。下手したら駆け出しの冒険者より裕福だしな。衣食住の保証がされたうえで小遣いまでもらえるんだ。奴隷にしてほしいって輩もいたって聞いた事がある」

「好き好んで奴隷になりたがる馬鹿の気が知れない、と言いたいところだけど……あの子たちの表情を見ているとまあ分からなくもない気もするね」


 シアの視線の先にはみんなでお金を出し合って商品を買った女の子たちが幸せそうにクレープと呼ばれる勇者から伝わった食べ物を食べていた。甘味であるため他の店よりもさらに高いが甘いもの好きの子たちがずらりと店先に並んでいる。

 どの子も似たような汚れ一つない真っ白なワンピースを着ているが、中には全く違う服を着ている子もいた。


「ねえ、ラオちゃんたちはお酒飲む? 裏道に入ったところに酒場があるってお父さんが見つけたんだけど」

「おふくろはどっちかって言うと甘いもんだろ」

「別になんだっていいよ」

「お金、多めに持ってきたんだけど足りるかな。ギルドがさっきあったし、ちょっとお金を下ろしてこようか」

「必要ないわ! 今日は私たちがおもてなしをする日なんだから。お金の事は気にしないで! これでもちゃんと稼いでるんだから」

「その上、『小遣い』を貰ってっからな」


 最近は危険な依頼を受けておらず、腕が鈍らない程度にしか活動していないため、小遣いの方がむしろ多い。「僕はあんまり使わないから」とシズトが稼いだお金の内、余ったお金を嫁全員に平等に分配するため、要らないと言っても勝手に増えていくのだ。


「そうかい? それじゃあ二人のお言葉に甘えて奢ってもらおうかな。ああ、でもどこから行くかが問題だね。これだけお店が多いとお金は足りても時間が足りないだろうし……。シアは町を見て回りたいんだろう? 酒場に入ったら絶対そこで長居するだろうから甘い物にしようか」

「それもそうね。お酒はどこかで買って、夜に飲めばいいと思うわ」

「むしろ買わなくても腐るほどあるだろ」

「あそこからくすねたらシンシーラちゃんが怒るんじゃないかしら?」

「一言伝えときゃ大丈夫じゃねぇか?」


 そんな話をしながら一行は行列のできるお店の最後尾に並んだ。

 シズトはいないが、シズトの嫁である二人の顔は当然のように割れている。結局、譲られる形でほとんど待ち時間もなくお店に入る事が出来た。

 自分に厳しいシアが「なんだか悪いね」と言いつつも、クレープを真剣な表情で吟味しているのを三人は温かい目で見守るのだった

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