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後日譚340.事なかれ主義者は遊びに付き合った

 西区は元々、外から来た人たち向けの区画だった。冒険者ギルドをはじめ、商業ギルドなどの施設もあったし、冒険者や商人たちが寝泊まりするための宿屋も軒を連ねていた。昼も夜も活気のある区画だった。

 だが、今はその多くの店舗が空き店舗である。順番に解体されていくらしい。

 宿屋は基本的にこちらで用意したもので運営してもらっていたらしく、移転先に同じような物を作るのは容易だったそうだ。図面をしっかり保管しておいたから、との事だったけど魔法建築士の存在と、たくさんの健在を省スペースで保管する事ができるアイテムバッグの影響が大きいんだろう、たぶん。


「……他のギルドが壁の向こう側に移転させられてるのに、冒険者ギルドだけは残したんだ?」

「はい。外からの冒険者が依頼を受けるためにやってくる事もありましたが、ここで依頼を受ける半数以上がシズト様の奴隷でしたから。初期の頃は小遣い稼ぎでファマリアの周辺に落ちているアンデッドの魔石を拾い集める者もいましたが、その役目は冒険者見習の子たちがする事になったため、利便性を考えてここに残す事になったようです」

「へー……外からやってきた人たちは内壁の向こう側にある支店で対応するの?」

「そう聞いております。彼ら向けの依頼のほとんどが護衛依頼ですから、あちらでも問題ないでしょう」

「なるほどねぇ。まあ、ファマリアの周りじゃ魔物はフェンリルがやっつけちゃうからそうなるか」

「そうですね。……他の所と比較しても工事は変わり映えしないと思いますが、一通り見て回りますか?」

「うん、お願い」


 僕がそういうと、ジュリウスは「かしこまりました」と答えて浮遊台車をゆっくりと走らせる。

 僕は荷物として乗っているだけなので特にやる事もないからボーッと町の様子を見回したけれど、確かにジュリウスが言う通り解体工事も建築現場も変わり映えしない。

 解体は魔法を用いた物だけではなく、少々違うのは人力で行っている所もあるくらいだろうか? むしろこっちがメジャーらしいけど、他の区画ではあまり見なかったのでとりあえず手に持っていた魔動カメラで記録した。


「解体するのは良いんだけど、移転先の建築は間に合うのかな? 宿屋が多いし、間に合わなかったらお店開けないよね?」

「間に合わないでしょうね。営業をしばらくお休みする事になりますが、それ相応の退去費用を支払っているので今の所、不平不満はでていないはずです」

「…………他所からやってきた人たちは今ある施設で受け入れる事ができるの?」

「難しいでしょうね。既存の施設だけでは足りない場合、空き地で野営をしてもらうという話も出ていました」


 町の中で野営かぁ。想像し辛いけど、ホムラたちがそれで大丈夫だと思っているのなら僕が口を出す事でもないかな。

 そんな事を思いながら通りの様子を見ていると、ふと上空から迫ってくる人物がいた。


「こんな所で何をしてるデスか?」

「それはこっちのセリフなんだけど…………歌羽は?」

「今日は連れてきてないデスよ。羽休めデス!」


 バサバサと羽音を響かせながら浮遊台車の上に降り立ったのは翼人族の女性であるパメラだ。

 レモンちゃんが気を使ったのか、それとも場所を取られるかもと思ったのかは分からないけど肩の上に移動したので、パメラは僕の足と足の間にその小さなお尻を下ろした。漆黒の翼が僕の体をくすぐるけどパメラはお構いなしに密着してきた。


「筋トレも毎日すればいいという訳ではないのデス!」

「…………誰かにそう言われたの?」

「スザンナに言われたデス」

「ああ、なるほど」


 スザンナは歌羽の乳母である翼人族の女性だ。乳母の方々とはあんまり話した事はないけれど、スザンナはよくパメラを廊下に連れ出し、叱っているそうだ。だいたいパメラが悪いけど、その話だけ聞いてると気の強そうな女性だなぁ、って印象がある。

 実際は物静かで大人しい女性だったんだけど、そういう人ほど怒ると怖いんだろう。たぶん。


「だから今日は一人でお出かけしたデス! でもお店あんまりやってないデス。つまらないデスよ。帰って一緒に遊ぶデス!」

「え、今から?」

「今からデス!」

「まあ、珍しそうなものは全部録画したと思うけど……」


 冒険者ギルドの様子とかチラッと見てもいいかなって思ったけど、まあそれはいつでもできるか。

 退屈過ぎてストレスが溜まっても子どもに当たる事はないって分かってるけど、ストレス発散させるのも夫の務めだろう。

 ジュリウスを見上げると彼は何も聞いてくる事はなく「かしこまりました」とだけ言って進路を屋敷へと変えるのだった。

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