後日譚338.事なかれ主義者はとりあえず撮った
転移陣で帰るとまだお昼の時間には程遠かった。
「この後はいかがなさいますか?」
「明日の予定を繰り上げて他の所に回るのもありかもしれないけど、向こうの都合もあるだろうからファマリアでものんびり見て回ろうかな」
「かしこまりました。それではお供いたします」
「うん、よろしく」
転移陣が起動したから集まってきていたドライアドたちも、今日は正装を着ていないので散り散りに分かれて行ったので僕たちも町へと向かう事にした。
途中、水やりを楽しそうにしている育生とその様子を温かい眼差しで見守っているドラゴニアの王妃様がいたけれど会釈だけにしておいた。
「とりあえず北区から回ろうと思うんだけど、どう思う?」
「良いお考えかと存じます」
「ほんとに? ジュリウスって基本的にそう答えるよね」
「そんな事は御座いませんよ」
「ほんとかなぁ」
「本当です。……それより、これから向かう北区についての状況はお聞きしますか?」
「んー、そうだねぇ。見れば分かるだろうけど、移動中に話だけでも聞いておこうかな」
ジュリウスは基本的に気配を消してるからいてもいなくても沈黙が辛い、とかはないんだけど、せっかくなら喋りながら移動したい。レモンちゃんとも喋ってはいるんだけど、会話が一方通行だから…………。
レモンちゃんが喋る事ができるようになるのはいつ頃なのかな、なんて思考が少しそれてしまったけれどジュリウスが咳払いをしたので戻って来れた。
「北区は基本的には全て取り壊しますが、一日にできる作業量はおおよそ決まっているので内側から順番に取り壊し、新しい建物を立てていく予定のはずです」
「わざわざ壊すのはもう少し階層を増やすため、だっけ?」
「そうですね。外に拡張する事で大勢の奴隷の寝床を用意していましたが、いままでの人数を内壁区の北側だけですべてをカバーはできませんから」
一体何人くらい町で暮らしているんだろうか。その内、シグニール大陸から奴隷がいなくなったりして……。
そんな事を思いつつ話をしていると畑を抜けて町に入った。
ファマリアは子どもたちとの散歩のために最近はよく足を踏み入れるんだけど、いつも以上に賑やかで慌ただしい雰囲気だった。
魔道具『浮遊台車』を駆使して行き来している子たちが資材を乗せて行き来しているのはいつも通りだったけれど、通りには魔法使い然とした格好の人たちがたくさんいた。
「あの人たちはドタウィッチの人たち?」
「いえ、クレストラ大陸のクロトーネからやって来た者たちですね。結界魔法をしっかりと張った上であのようにゴーレムで建物を解体しているようです」
「解体っていうか、破壊って感じだね」
思いっきりゴーレムを使って建物を壊すのはなんだ悪い事をしている感じがするけれど楽しそうだ。
盛大に破片が飛んで行っているけれど、ジュリウスが言った通り見えない壁にぶつかって敷地内から出てくる事はなかった。
「『加工』の加護があれば再利用できる物もあったのに……なんだかもったいないね」
「そうですね。ただ、シズト様が授かっていた加護程ではありませんが、ドワーフや我々エルフが再利用できる物は再利用させてもらう予定です」
「そっか。……あの子たちは何してるのかな?」
「あそこで暮らしていた者たちかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。魔法を用いた解体は普通じゃ見る事はできませんから見物でもしているのでしょう」
「どうして普通は見れないの?」
「解体作業は魔法じゃなくてもできますから。建築にも言える事ですが、基本的に魔法は外敵から身を守る手段として使われる事が多いです。魔法建築士は一定の需要があるので前線から退いた魔法使いがなる事もありますが、魔法を用いる解体師は専業でやっている者なんていません。今回のように急ぎの仕事であれば魔法を使える者たちが小遣い稼ぎとしてやってきて働く程度ですから貴重といえば貴重な作業風景ですね」
「へー。…………カメラで撮っとこ」
町の子たちと同じようにしばらくの間、解体の風景を眺めていたらいつの間にか見物人がたくさん増えていたので僕たちは移動する事にした。移動手段は浮遊台車でもよかったけど人を乗せている子がほとんどいなくて忙しそうだったからジュリウスにお願いした。
レモンちゃんを抱きかかえるような形で浮遊台車に座り、ジュリウスに押してもらって移動した先は工房が集中していた東区だ。
普段であれば他の地区同様、町の子たちが通りをたくさん行き交っているはずなんだけど、今はその数が極端に少なかった。それはきっと、今行われている作業のせいだろう。
「家ごと運ぶんだ……………」
「ドタウィッチの魔法生物部隊ですね。あのように土魔法の応用で建物を土地ごと持ち運びできるようにして移動するんです。工房も貸家ですが、中は自由に改良していいと伝えていた結果、それぞれが使いやすいように改造している所が殆どでした。同じような設備を作ってもそれまでの改良したものまで真似する事は難しいのでいっその事、建物ごと運んでしまおう、という事のようです」
「……魔法をかけて家を勝手に動かしたりはしないんだ」
「可能ではありますが、一度そうしてしまうと今後その家は『魔法の家』となって勝手に動き出す事もあり得るので……」
「なるほど。……それにしても、なんであんなに厳重な警備なの?」
「お忘れかもしれませんが、ここは不毛の大地です。その地面を持ち上げるという事はアンデッドが出てくるかもしれない、という事で警備を厳重にしています。ただ、シズト様がお作りになられた魔道具の結界内での移動になるので要らない心配だったようですね。こちらもあまり見られない移動方法ですが、カメラで記録しますか?」
「そうだね。子どもたちが大きくなったら見たがるかもしれないし、撮っとこ」