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後日譚335.見習いメイドのある日の日常⑥

 まだ生後一年経っていない子たちの部屋を後にしたアンジェラは、他の子たちの部屋をのぞいて仕事がない事を確認して回り、最後に二階にある畳が敷かれた広い部屋を訪れていた。

 そこは昼間、子どもたちとドライアドたちの声でとても賑やかだが、夜はとても静かだ。

 夜中になれば夜泣きをした子を連れて乳母がやってくる事もあるが、今は誰もいない。


「またパメラちゃん遊び道具だしっぱにして戻っちゃったのかな」


 乳母たちであれば片付けて帰るのだが、パメラはそのままにして部屋を後にする事が多い。

 夕食ギリギリまで遊んでいたのだろうな、と散らばっていた玩具を片付けようと部屋の明かりをつけると、開いていた窓からドライアドたちがアンジェラの方を見ている事に気が付いた。


「人間さん、なにしてるの?」

「遊ぶの?」

「片づけをしに来たんだよ。あとは軽く掃除をしようかなって」


 夕ご飯の時間はシズトが食べる時間とは少しずらされている。埃一つ落ちていない部屋だが、窓から出入りする者たちが多いから窓際は砂が落ちている事もよくあった。

 砂を落とす側である真っ黒な肌のドライアドたちは「そうなんだ~」と言うと、足元を気にせずに入ってきた。


「どうせ掃除するから別にいいけど……せめて足の裏に着いた砂を払ってから入って欲しいかなぁ」


 そんなアンジェラの独白を気にした様子もなくドライアドたちは散らばっていた遊び道具を一カ所に集め始めた。

 アンジェラは自分からお願いしたところで言う事を聞かない事もあるため指摘するのを諦め、部屋の隅っこまで転がっていった木の球を取りに行ったり、魔道具によって作り出された雲のような綿が天井にくっついているのをジャンプして集めたりした。

 片付けをする人数が多ければ当然あっという間に終わってしまう。

 だが、この後は少し時間がかかるだろう。


「まずは、あなたたちの足の裏から綺麗にしないとね」


 腰に下げていたポーチに手を突っ込んだアンジェラは、少し大きめのタオルを取り出すとドライアドを一人捕獲した。

 ごしごしとタオルで拭うと、捕まっていた真っ黒な肌のドライアドは不思議そうに首を傾げていた。捕まっていない者たちも当然のようにわらわらと集まってきて、何をしているのかアンジェラの手元をジッと覗き込んでいる。


「はい、おしまい! じゃあ次の子!」

「なにするの~?」

「足を綺麗にするんだよ」

「そうなんだぁ」

「じゃあ皆を呼ばないと」

「部屋に入ってきた子たちだけで十分だよ。呼ばなくていいからね!」

「呼ばなくてもいいの?」

「じゃあ呼ばないとく?」

「……人間さんの中にはやるなよ、って言いつつやって欲しいと思っている人もいるって聞いた事がある気がするなぁ」

「そうなの?」

「じゃあ皆呼ぶ?」

「ほんとに呼ばなくていいから!」


 今呼ばれたら間違いなく夕食の時間には間に合わないだろう。

 不思議そうに首を傾げるドライアドを捕らえては足を拭き、捕えては足を拭いたアンジェラは、一通り綺麗にするのだった。




 和室に侵入しようとするドライアド用に窓枠にタオルをセッティングをした後、砂を除去するために掃き掃除をし終える頃には夕食の時間が迫っていた。

 走る事はしないが、歩調を速めて本館を後にしたアンジェラは、別館に駆けこんだ。


「お母さん、ただいま」

「お帰り、アンジェラ。ご飯の準備はできてるから手を洗ってらっしゃい」

「はーい」


 手を洗うために別館の廊下を走ってキッチンへと向かったアンジェラは、すぐに戻ってきた。

 食卓を囲むのは父親であるアンディーと、友人であるリーヴィア、ジューロだ。他は既に食事を済ませてしまっているのはキッチンで既に確認済みだ。

 ジュリーニがいない事は意外だと思いつつも、世界樹の番人としての仕事で忙しいのだろう、と深くは考えず、ご飯をモリモリと食べるアンジェラ。


「お風呂行ってきまーす」

「扉は開けっ放しにしちゃダメよ」

「はーい」


 食事が終わったら自室に一度戻り、再び本館へと向かう。

 別館にもお風呂はあるのだが「広いお風呂に入りたい」とアンジェラが言えばシズトからなんだかんだ許可は貰えたのだ。ただし、シズトが入っていない時に、と釘を刺されてしまったが……。

 本館の正面玄関には黒い肌のドライアドたちがいたが、魔道具の明かりに照らされているので闇に同化する事はない。

 彼女たちがアンジェラと一緒に屋敷に入ろうとするのをサッと入って素早く閉める事で阻止した後、脱衣所へと足早に向かうアンジェラ。

 脱衣所の扉には板が掛けられていた。シズトが入浴中であれば赤文字になっているが、今は黒い文字で『使用可』と示されていた。

 脱衣所でメイド服を脱ぐと、それを大切に畳んでから浴室へ向かう。

 浴室では乳母と一緒に子どもたちがお風呂に入っていた。それに混じって泡風呂で対策を作っている小柄な女性と、泡風呂の山に突っ込む遊びをしている翼人族の女性がいたが、アンジェラは軽く挨拶をするに留めて、身体を清める事を優先した。


「は~~~…………生き返るぅ~」


 体を洗った後は世界樹の葉などの高級な物がふんだんに使われた薬草風呂に肩まで浸かるアンジェラ。


(寝る前は忘れずにストレッチと魔力を使い果たさないと……。でもその前に文字やお話の練習のために本も読みたいな。ああ、時間が足りないなぁ。もっと時間があればいろんな事を身につけられるのに……。って、こんな事を考えててもしょうがないよね。…………あ、シズト様から手紙の返事来てるか確認するの忘れてた。シズト様の事だし、ちゃんと書いてるだろうからそのお返事も書かなくちゃ――)


 お風呂から上がった後の事を考えながら出入り口の方を見るともなく見ていたアンジェラだったが、シズトが間違えて入ってくる事は今日もなかったのだった。

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