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後日譚331.見習いメイドのある日の日常②

 朝食を済ませたアンジェラが別館の外に出ると、聳え立つ世界樹とその根元で丸くなって眠っているフェンリル、それから町の方まで続いている畑が視界に映った。畑ではいろいろな植物が育てられているが、その世話をしている者の多くがアンジェラよりも背丈が低かった。

 畑の世話をしているのはドライアドと呼ばれる精霊に近い存在だ。頭の上に花を咲かせている以外は、人族の幼児に似ている外見的特徴の者たちだった。

 近くで作業をせずに日向ぼっこをしていたドライアドたちが一斉に別館から出てきたアンジェラをじろりと見たが、首から提げているペンダントを見ると視線が柔らかくなった。


「人間さん、おはよー」

「おはよ~」

「みんな、おはよう。狐人族の子はもう来てる?」


わらわらと集まってくるドライアドたちに慣れた様子で挨拶を返したアンジェラは、普段一緒に稽古をしているエドガスがやってきているかドライアドに尋ねた。

彼女たちは一斉に首を傾げ、バラバラに話し始める。


「まだ見てないよー。ね~?」

「ねー」

「転移陣、きらきらしてないもんねー」

「ね~」

「そっか。じゃあ先にお祈り済ませちゃおうかな。狐人族の子が転移陣を使ってやってきたらいつものところに案内してもらえる?」

「わかった~」

「任せて~」

「みんなに伝えておくね~」

「向こうの様子を見に行ってみる?」

「それもありかも」

「かもかも!」

「向こうの人に迷惑かけちゃだめだよ?」

「分かってるかもー!」

「『かも』じゃ駄目だよ」


 褐色肌のドライアドはいろんなところに行きたがる。アンジェラに限った話ではないが、誰かから頼まれごとをする度に隙を見つけては普段行かない場所に行ってしまう事もあった。

 転移陣を設置する際にある程度こちらの状況を説明しているはずだし、アンジェラの友達であるリーヴィアのように悪戯好きではないので向こうに行ってしまってもあまり問題はないかもしれない。

 そう判断しかけたところで、ドライアドたちには所かまわず自分のお気に入りの植物を植えるという悪癖がある事を思い出したアンジェラは釘を刺す事にした。


「向こうでは勝手に物を植えちゃだめだからね」

「「「はーい!」」」


 本当に分かっているのか不安になるアンジェラだったが、日課のお祈りの時間が迫っていた。

 後ろ髪を引かれる思いだったが、楽しそうに話をしているドライアドたちとは別れ、世界樹の根元に建てられた祠の方へと向かった。

 そこには既に先客がいた。黒い髪は遠くからでもとても目立つ。白い服を着ていれば猶更目立つ。なぜなら、レモンちゃんと呼ばれるドライアドを筆頭として肌の色が違うドライアドたちがそれぞれ一人ずつその男性の体に引っ付くからだ。

 自分の身だしなみを再度確認しながら祠の方へ向かう足は緩めない。むしろ少し歩調が速くなった。

 そして、祈りを終えた男性が立ち上がったところでアンジェラは元気に挨拶をした。


「シズト様、おはようございます!」

「おはよう、アンジェラ。今日も元気だね」

「はい、おかげさまで元気です!」

「……二人だけだし、無理して敬語を使わなくてもいいんだよ?」

「いえ、今は仕事中ですから。それに、師匠もいらっしゃるので……」


 アンジェラの言葉に反応するかのようにどこからともなくエルフの男性が現れた。アンジェラの師匠の一人であるジュリウスである。

 エルフの外見的特徴である金色の髪は短く刈られているが、その端正な顔立ちから女性に見えなくもない。筋肉質で引き締まった体はどこも無駄な肉がついておらず、日々の鍛錬が窺い知れる。


「常にシズト様へ敬意を表す事はとてもいい事だ。どこぞの子狐にも叩きこみたいところだが、生憎今日も昼まではシズト様は外出される。それまでは二人で出来る訓練を一通りしておくように」

「分かりました、師匠」


 表情を緩める事もなく本日の訓練の予定を指示したジュリウスは「しっかりと励むように」とだけ言って再びどこかへ消えた。シズトが世界樹の根元で過ごす間は気を使わせないように遠くから見守る程度にしているからだ。


「シズト様は本日はお出かけになられないんですか?」

「ん? そのつもりだよ。子どもたちとのお出かけは何回しても楽しいけど、あんまり連れ回しても疲れちゃうからね」

「パメラちゃんはシズト様がお仕事をされている時は毎日のように午前中連れ回してますけど……」

「なるほど。午前中は僕の目が届かないからそうしてるのかな? 町にやって来た人にも影響があるし、後で注意しておくね。それじゃ、そろそろ行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


 深々と頭を下げて見送ったアンジェラは、しばらくしてから顔をあげると「余計な事言っちゃったかな」とぽつりと呟いた。

 だが、その呟きに答える者は当然いない。

 アンジェラは気にしてもしょうがない、と気を取り直して祠に向き直った。

 こまめに掃除がされているようで汚れ一つないが、アイテムバッグと化しているポーチに手を突っ込んで掃除用具を取り出すと、一通り掃除をしてから祈りを捧げるのだった。

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