後日譚329.『世界樹の主について ミスティア大陸編』 著者.ラピス・フォン・ドラゴニア
私たちが暮らしているシグニール大陸から見て北の方角にあるミスティア大陸は、シグニール大陸と同じくらいの面積だと言われている。だが、世界樹はたった一本しかない。
その世界樹の名はイルミンスール。シグニール大陸の他のどの世界樹よりも雄大で、私が知る世界樹の中でも一番古い世界樹なのではないか、と推測している。世界樹の大きさと樹齢が一致するのであれば、であるが。
その世界樹イルミンスールの周辺は、ユグドラシルやトネリコのように森が広がっており、その森は都市国家イルミンスールよりも北にずっと伸びていて、イルミンスールを東西に分断する程の広さを誇っている。
それはイルミンスール周辺で暮らしているドライアドたちの影響もあるらしいが、彼女たちについては肌が緑色である事や他のドライアドたちよりも明らかに大きい事、それから活動時間が全体的に短いことくらいしか分かっていない。
聞き取り調査を行おうと思ってもだいたい日向ぼっこをしている最中であるドライアドが多いため、上手く行えていないのが実情だ。
イルミンスールよりも北に広がる『大樹海』と呼ばれている地で活発に動き回っているという若いドライアドたちと接触できれば、彼女たちの新たな一面を知る事ができるかもしれない。
だが、残念ながら『大樹海』の調査に同行していても彼女たちが育てている植物を見つける事は出来ても、彼女たちを見つける事は出来ていなかった。
だが、その代わりに共に『大樹海』の調査に同行してくれている世界樹イルミンスールの根元で長い年月暮らしていると言われているエンシェントツリードラゴンと関係を築く事ができた。
ドラゴンといえばドラゴニア王国の名が出るくらいにはドラゴンが身近な国出身である私、ラピス・フォン・ドラゴニアでもエンシェントツリードラゴンを見るのは初めてだった。それは、彼らがミスティア大陸の固有種だからだろう。
今後の研究の参考になるかもしれないので、エンシェントツリードラゴンとの関わりをここに記す。
エンシェントツリードラゴンは、その名の通りツリードラゴンの中でも最上位の種だ。
他のドラゴンと同じく、龍種の中でも最上位ともなると、人語を理解して『念話』で意思疎通をするほどの知能なども持ち合わせている。
その外見は小さな丘を連想させ、動きは鈍重である。ゆっくりと一歩一歩歩く度に振動が大地や彼らの体に生えている植物を震わせる。
そう、彼らの体には植物が生えている。それがツリードラゴンの名前の由来らしい。
頑丈な鱗の隙間から生えているのか、それとも生えている所は比較的柔らかいのか、ドラゴンに寄生しているのかは不明だが、彼らの体は緑で覆われている。
翼はあるがそれで飛ぶ事はないらしい。滑空程度ならするそうだが……地龍の亜種なのではないかと推測はしている。
『肉はまだかのう』
「少々お待ちください。今、報告書を書いているので」
イルミンスールの根元で度々行われているバーベキューは、エンシェントツリードラゴンのために行われている。彼らは名前に反して雑食で、肉も好んで食べている。
途中、口直しのために長い首を伸ばし、自分の背中に生えている木に生っていた果実を丸かじりしているので肉以外も食べるようだが、暇さえあれば肉の催促をしてくる。どうやら人の手によって調理された肉を食べるのが気に入ったそうだ。
だが、あくまでエルフと友好的な関係を築き、人間にも敵対的ではないドラゴンだからできる事である。野生のエンシェントツリードラゴンを見かけても真似しないように。
「本日の分の聞き取りを行いたいのですが、よろしいでしょうか」
『肉を焼くならいいじゃろう』
「ありがとうございます。それでは早速なのですが……背中に生っているドラゴンフルーツについて教えてもらえますか?」
『教える、と言っても儂らも良く知らん。背中に生っているから食べているだけじゃ』
「いつ頃から成っているんですか?」
『生まれてから成龍になる頃には生えておる。実をつけるのはそれからさらに時が過ぎてからじゃ。……そろそろその肉は焼けたのではないかのぅ?』
「まだ全然赤いですよ。分厚過ぎるんです」
『肉は厚い方が良いじゃろう』
「人間である私からしてみるとそうとは思えないです。それより、以前もお聞きしましたがあなたはいつからここにいるのか思い出せましたか?」
『そうじゃのう。この木が生える頃にはもういた気がするのう』
「つまり世界樹が植えられる前から貴方がたはいた、という事ですね。どこで暮らしていたんですか?」
『どこといわれてものう。覚えておらんわ。そんな事よりも、もういいんじゃないかのう?』
「まだ片面しか焼けてないですよ。裏返してもう片方もしっかりと焼きます」
『そのくらいでも十分じゃと思うんじゃがなぁ』
世界樹から漏れ出る莫大な量の魔力の影響で、食事の必要性がほとんどないはずだがエンシェントツリードラゴンはよく食べた。
だが彼曰く、食べなくても問題ないとの事だったので他の世界樹の主と同じく、世界樹周辺の魔力だまりで魔力を補給できているのだろう。
それほどの魔力だまりと化している世界樹周辺をもう少し有効活用ができないか検討したいところだが、それをするためには何よりもまずドライアドたちと関係性を築く事が必要だろう。
今後もドライアドの研究を続け、世界樹について研究を続けて行こうと思う。