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後日譚326.事なかれ主義者はまた一つ学んだ

 ジュリウスとレモンちゃんを連れて結婚祝いの品を探すために町を歩いていると当然町の子たちの注目を集める。もう慣れたけどなれるのも問題かもしれない。

 何だかこっちをじろじろと見ていた他所から来た人たちが目が合ったからか話しかけてきたんだけど、町の子たちにブロックされ、警備のエルフに連れていかれたのにも驚かなくなってきた。

 たまーにいるんだよなぁ、ああいう人。次のジュリウスが言う事も何となく予想がつく。


「申し訳ありません、シズト様。他所から来る者には注意事項を伝えていたはずなのですが……。あの者たちを通した者は国に帰し、新たな者を――」

「いや、そんなことしなくていいよ。しっかりと職務は全うしてもらっていると思うし、あれはあの人たちが悪いんだから。それよりも、前と同じように止めてくれた子たちと、警備兵に何かお礼しておいて」

「なんと寛大な心をお持ちなのでしょう。かしこまりました。更迭は見送り、先程の者たちには感謝状と金一封を渡しておきます」


 感謝状は僕が直筆で書いた方が良いんだろうか、と思わなくもないけれど以前まではそんな事をしていないので黙っておこう。

 気を取り直して目的の店をジュリウスに案内してもらう。

 世界樹用の素材を扱っている店は西区――別名商業区――で取り扱っているらしい。工房にお邪魔する事も考えたけど、まあ既製品で良いかな、と思ったからだ。

 メインストリート沿いの一画にその店はあった。他の店と似たような建物だけれど、外観の装飾は自由にしていいと言っているからか、しっかりとされていた。

 大きな植木鉢でもみの木のような物を育てていて、それが店の入り口付近に飾られている。

 ジュリウスが扉を開けると、店内はそこそこ人数がいたけれど、静かだった。警備のエルフが目を光らせていて、客が勝手に商品に触れないように見張っている様だ。ただ、商品を見ている人は誰もいない。時が止まったかのようにこちらを見ていて、僕がどうしたものかとジュリウスを見ると、何事もなかったかのように人々が動き出した。

 店主らしきエルフがそわそわとしているのは接客をするべきか、軽率に話さないべきかで悩んでいるのだろうか。

 店のお手伝いをしている子たちも同様で、こちらから声をかけるまでは話しかけない、という教育は徹底されている様だった。


「ちょっと見せてもらおうかな。レモンちゃん、勝手に物を触っちゃだめだよ」

「レモ!」


 元気が良いレモンちゃの返事を確認した後、扉をくぐって中に入る。

 商品を見ていた人たちがさり気なくスペースを空けてくれたので端っこの棚の方から順番に眺める事にしたんだけど…………。どれも綺麗だけど素材が普通の木でも騙されてしまう気がする。

 見慣れているからそこら辺の物と大差ないと思ってしまうのか、それとも単純に僕に審美眼がないのか……後者だな。


「ここにある物は全部世界樹の物を使ってできてるんだよね?」

「はい。箸、フォーク、スプーンにお皿、コップなどいずれも世界樹の素材を用いて作られております」

「じゃあここから適当に選べばいいか。……全く同じコップはないんだね」

「木目まで全く一緒の物はシズト様が木のブロックにして保管した物でも難しいかと愚考します。デザインを同じ物であれば可能でしょうが、それで妥協されますか?」

「うーん……食器で行くならアダマンタイト製のなんかでもいいような気もするけど、普通に重いしな、あれ。まあここにある物で何か見繕うか」


 そうと決まればどれにするかだけど、箸はお相手さんが使い慣れていないと困るだろうし、無難にコップとかお皿かな。……たくさんあって困らないのはお皿な気がするけど、使用頻度で考えるとコップの方が多いかな?

 どうせ送るなら使ってほしい気持ちもあるので実用的な物を、という事でシンプルな物を選らんだ。


「……触っちゃいけないなら店員に言えばいいのかな?」

「はい、そうです」


 町の子たちは他の人の接客で忙しいだろうし、ずっとそわそわしている店長っぽい人にお願いしよう。


「……? シズト様、一組多いようですが、あのヨータとかいう者にも渡すのですか?」

「いや、これはジュリウスと僕のやつだよ。いつも頑張ってくれてるからそのお礼でね」


 他の二組のコップよりもさらに高く、細かな装飾がされているそれを陽太にプレゼントするわけがない。

 ……仮に陽太にプレゼントするのならエルフやダークエルフの秘薬で良いんじゃないかなぁ。

 そんな事を思いながら袋に入れて貰った物をジュリウスが背負っていたアイテムバッグの中に入れたけど、ジュリウスは目を丸くして固まっていた。


「ちゃんと使ってね?」

「……明言できかねます」


 これは使わない気がするんだけど気のせいだろうか?

 そんな事を思いつつも、ずっと同じ場所にいると邪魔だろうからと店を後にした。

 思ったよりも時間が余ったのでどうせなら日頃の感謝を伝えよう、とジュリウスが気に入っているお店に一緒に行こうと思ったんだけど、そもそもあまり外で食事をとらないという事でお気に入りの店がなかった。


「次の機会もあるだろうし、その時のためにお店の開拓しておいてね。……とりあえず今日は適当にどこかでお茶しようか」

「かしこまりました」

「ジュリウスも一緒にお茶するんだよ?」

「いえ、私は護衛がありますので」

「ジュリウスほどの人ならお茶しながらでも護衛できるでしょ。一人でお茶するのもなんだしさ、一緒にケーキでも食べながらお茶でもしようよ」

「レモンモ!」

「ああ、うん。レモンちゃんもいるね。同席しても良いけど流石にお店の紅茶はレモンティーに勝手にしないでね?」

「れも?」

「とぼけても駄目なものは駄目だからね」

「れ~~~」


 不満げなレモンちゃんに懇々と言い聞かせながら歩いていると紅茶を取り扱ってそうな飲食店があったのでそこに入った。

 ジュリウスはなかなか座ろうとしなかったけど「僕とお茶するのがそんなに嫌なんだ」というと秒で座った。こう言えばいいのか。覚えておこう。


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