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後日譚323.代理人は渋々従った

 世界樹ファマリーの根元で、乳母車を押してぞろぞろと移動をしている集団がいる。乳母車を押しているのはお手伝いを任されたドライアドたちで、乳母車に乗せられているのはシズトの子どもたちだった。最初の頃は乳母たちが散歩のために乗せて移動させていたのだが、畑からはみ出る形でドライアドが植物を育てている時もありトラブルになってからはこうして彼女たちが乳母車を用いた散歩に同行するようになっていた。

 乳母車の周辺では、子どもたちそれぞれの世話係と、ドライアドの観察をするためにやってきていたラピス、それから仕事が一段落したジューンが様子を見守っていた。

 乳母たちは遊び道具などを持っているが、ラピスが持っているのは画材だった。そしてジューンが持っているものはというと――。


「エルフさん、またどーが取ってるの?」

「はぁい、取ってますよぉ。危ない事はしちゃダメですからねぇ」

「「「は~い」」」


 ドライアドたちの元気で良い返事を聞いて満足そうに笑いつつも、ジューンは片手で持っている魔動カメラでしっかりと子どもたちの様子を記録していた。

 成長の記録を残すために乳母たちも魔動カメラを回す係はいるのだが、ジューンは自分専用となりつつある魔動カメラで子どもたちの様子をよく撮っていて、今も回していた。

 先頭の乳母車にカメラを向けると、ドライアドたちから差し出される食べ物に夢中な育生、人見知りをしているのか魔道具化されたぬいぐるみをギュッと抱きしめている千与、わさわさと動かされている髪の毛を捕まえようと集中している真の三人が乗っていた。

 後続の乳母車の方へジューンはカメラを向けると、サッと顔を隠してしまう蘭加にくっついて落ち着いている様子の静流、それからボーッと空を流れる雲を眺めて二人には関心を示さない龍斗がいる。

 三台目の乳母車へと近づくと、ドライアドたちが「シーッ」と言った。


「あらあらぁ、お休み中なのねぇ」


 いつも大体眠っている望愛につられたのか、千恵子、歌羽、栄人の三人も集まってぐっすりすやすや眠っている。どうやら移動中に眠ってしまったようだった。

 その眠っている様子をしっかりとカメラに収めた後、ジューンは最後の乳母車へと向かう。

 そこにはジューンの息子である大樹だけがいた。


「シアちゃんとケントちゃんはどうしたんですかぁ?」

「シア様は今日も熱がありましたので隔離しています。ケント様もどうやらうつってしまったのか熱を出されまして……」

「ケントちゃんがですかぁ? 珍しいですねぇ」

「万が一の事があるといけませんから、各種ポーションを揃え、聖女の加護を持つ者たちも招集し様子を見ている所です」

「なるほどぉ。だからさっきヒメカちゃんが来てたんですねぇ」


 話をしつつも目線とカメラは我が子である大樹を捕らえて話さないジューン。

 まだしっかりと話す事が出来ない大樹が何か言う度にドライアドたちがひょこっと乳母車を覗き込み話しかけている。


「トマトって言ってるんだよ」

「違うよ、リンゴだよ」

「レモンじゃない?」

「ブドウかもしれない」

「レンコン!」

「文字数が合わないから違うよ~」

「オクラ?」

「どうだろうねぇ」

「わからないねぇ」


 今散歩している中だと喃語しか話せないのが大樹だけだからだろうか。ドライアドたちがアレじゃない、コレでもないと話しながら乳母車の周りにわらわらと集まっているせいで進みが遅い。

 結局、ジューンがカメラをしまって乳母車を押す事になるのだった。




 お散歩が終わってもジューンは魔動カメラを回していた。

 最近のジューンは暇があれば魔動カメラを使って自分が見た出来事を記録していた。それは子どもたちだけではなく、屋敷で暮らしている者すべてが対象だった。


「……気持ちは分かるけど、後で見返した時に辛くなるんじゃないの?」


 そう話しかけたのはメイド服を着たエルフの女性だった。

 彼女の名はジュリーン。シズトの近くで暮らしているエルフの女性だったが、彼女の希望でシズトとは結婚していない。長命種であるジュリーンからしてみると、どうしてジューンがずっとカメラで記録をしているのか、手に取るようにわかるようだ。

 心配そうな表情のジュリーンの視線を受けてジューンは首を横に傾げる。


「どうでしょうねぇ……その時になって見ない事には分からないわぁ。でもぉ、もしもカメラで撮っていなかったら見る、見ない、という選択すらできないしぃ……やっぱり記録できるうちは記録しておこうかなぁ」

「……まあ、好きにすればいいんじゃない? って、なんで私まで撮ってるのよ!」

「初めてのエルフの友達ですからぁ。しっかりと記録に残しておかないとぉ」

「私は別にあんたよりも先に死ぬつもりはないわよ!」

「死ぬ事はないかもしれないけどぉ、お別れする事はあるかもしれないわぁ。だってほらぁ、もうシズトちゃんの奴隷でもないしぃ」

「確かに恩赦で奴隷から解放されたけど、辞めさせられない限りは残るわよ。もう前みたいな生活には戻れないし」

「そうねぇ。ここでの生活を味わっちゃうとぉ、今までの生活には戻れないわよねぇ」

「分かってるんだったらそれ止めなさいよ」

「何が起こるか分からないから撮っておくんでしょ~?」

「だったらアンタも映りなさいよ!」

「私がぁ? ……私が見るための物に私は要らないと思うわぁ」

「要る要らないとかそういう問題じゃないのよ。不公平だって言ってるの!」


 ぷりぷりと怒り始めたジュリーンを困った子を見るような目で見るジューン。

 結局、ドライアドの一人に手伝ってもらって二人で過ごす時間を撮る事になるのだった。

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