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後日譚321.事なかれ主義者は諦めた

 マナブさんの案内の元、順調に『天気祈願』をして回る事が出来た。

 その間にいろいろ話をしたけれど、興味深かったのは国家間の関係についてだった。

 人族至上主義の国であるアールテアとは、小規模な戦いが続いていたけれど、やっとそれもなくなったらしい。


「まさか花が終戦のきっかけになるとはねぇ」

「ただの花じゃないです。呪われた大地を浄化する希望の花です。花弁や草、根を研究して呪いの被害者たちに活用できないか、という研究もしないかと言う話が出てるんですよ」

「そうなんだ。……でもたぶん研究するだけ無駄だと思うよ? シグニール大陸だけじゃなくて、他の大陸も巻き込んでそういう検証をしているけど成果は出てないし」


 娘を溺愛している王様が呪われた土地を浄化した花に興味を持たないわけがない。

 亡者の巣窟と呼ばれていたダンジョンがあった場所周辺に群生しているホープの一部を研究用として採集し、ドタウィッチ王国と協力して研究をしていた。それは今もなお続いていて、マナブさんに伝えた通り規模も大きくなっている。

 分かったのはどうやら呪われた土地でしか育たないという事と、それは呪う際に使われていた神力を養分としているから、という事だった。神力を養分としているのはギュスタンさんがファマ様から聞いたので間違いないだろう。

 神力を養分としているのはどっかの大きな木と同じだなぁ、なんて事を思ったけど言わなかった。エルフたちが暴走しそうだし。


「シズト様、そろそろ最後の街が見えてくる頃です」

「ほんと? じゃあ街で降りた後の動きの確認なんだけど、気温を例年くらいに調整するくらいでいいかな?」

「はい。それで問題ありません」

「日数はどのくらいにする?」

「できれば他の所と同じくらいでお願いしたいです」

「分かった。サクッと終わらせてさっさと帰ろうか。ご飯も車内で食べればいいし、それでいいよね?」

「あ、はい」


 今まで回ったところだと、大きな街ではそれとなく有力者との会談の場を設けようとしている節が見受けられたのであらかじめ釘を刺しておいた。

 ただ、それは残念ながら無意味だったと悟った。


「おう、来たな静人。待ってたぜ」


 頼んでもないのに待っていたのは、髪の毛を金色に見えるように魔道具を使って細工をしている金田陽太だった。「なんだその顔は!」とムッとしている陽太だけど、関係性はそんなに良好じゃないんだから仕方ないじゃん。

 こっちの世界に来てから嫌なものは極力避けてたんだけど、最近は嫌なものが近寄らないように配慮されているから余計に苦手意識のある相手と関わると思っただけで疲れる。


「元気そうだね、陽太。僕今から仕事だから」

「それが終わったら一杯付き合えよ。近況報告会しようぜ」

「なんで僕?」

「明も姫花もこっちに来ねぇからだよ。どうせ加護を使ったら暇なんだろ? ちょっとくらい付き合えよ」

「…………まあ、ちょっとならいいよ。ただ、近況報告会って言うんだったらこっちも話をするからね?」

「? 何当たり前の事言ってんだよ」


 当たり前って言うけど、前世だったら僕の話あんまり聞いてなかった記憶しかないんだけどなぁ。あ、聞いてないから覚えてないのか。

 なんだかなぁ、と思わなくもないけれど、同郷の人は少ないし、敵対してくるような相手じゃない限りは付き合おう。これも練習だ。


「店は俺の方で取っておくからお前もさっさと終わらせろよ」

「分かってるよ」


 小走りで去っていく陽太を見送る事なく、マナブさんに視線を向けると彼は「こちらです。どうぞ」と僕を見晴らしのいい場所に連れて行くために先に歩いてくれた。

 その後ろをついて歩きながら僕は魔力残量がまだまだある事を確認したリ、空模様を眺めたりするのだった。




 加護を無事に使い終わり、帰ろうと思って魔動車の所にいると当然のように陽太がいた。


「何帰ろうとしてんだよ」

「集合場所を聞いてなかったから戻ればいいかなって」


 あわよくば帰りたかったけど、そう上手くはいかないようだ。

 一応彼も『剣聖』の加護を授かっているし、今後力をつければ頼る事になるかもしれないし……さっさと帰って子どもたちと遊びたい気持ちはあったけど大人しく彼の後をついて行く事にした。

 この街はアールテア軍をここに押しとどめるために作られた拠点である。拠点の中でも西側に位置するこの街は、南の方の貴族たちの妨害によって上手く陸路で交易をする事が出来なかったらしい。まあ、転移陣があったから街の子たちが困る事はなかったらしいけど。

 街で暮らしているのは多くが元々は僕の所で暮らしていた子たちだ。だから僕の顔も当然知っていて、通行人の視線がとても集中している。異種族が多いのはアールテアからの難民たちの中でも差別意識が強い者たちの意識改革を指せるためだったんだけど……うん、半年程度じゃそこまで大きく変わらないか。


「着いたぞ。お前、酒飲めるよな?」

「まあもう二十一だからね」

「……そういえば誕生日過ぎてたな。誕生日祝いって事でこの場は俺のおごりにしてやんよ」


 そんな事を言いながら陽太が入っていった店はメインストリートの中でも中央に位置する場所にある大きな建物だった。三階建てくらいだろうか?

 一階にはこの拠点で暮らしている者たちが多かったけれど、階段を上った先は個室が並んでいて誰が使っているかはよく分からない。

 分からないけど、二階を使う訳でもないらしい。さらに階段を上って、一番奥まった部屋に案内された。


「……何で椅子が三つもあるんだ?」

「え? レモンちゃんのためじゃないの?」


 案内してくれた猫人族の女性に尋ねると彼女は「仰る通りです」と答えた。

 やっぱり町の子たちはそこのところしっかり分かってるね、なんて事を思いながらレモンちゃんを肩から下ろそうとしたんだけど、髪の毛が僕の体に巻きついて離れる事はなかった。

 ……まあ、レモンちゃんを肩車したまま食事をするのは慣れてるからいいか。

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