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後日譚319.事なかれ主義者は信じて見送るしかない

 結局、イザベラさんに我が子を紹介するのなら静流も一緒に、と言う事になって蘭加と静流二人を連れて出かける事になった。静流は二回目だけど、今後のお散歩とかで埋め合わせできればいいと思っている。……気軽にできるようにどうするか審議中なのでいつになるか分からないけど。


「さて、退散したは良いけど、どうしようかな」


 イザベラさんと顔合わせさせるために会食の場に選んだ飲食店の建物の入り口から出たところで考えていても蘭加は僕の胸に顔をぴったりとくっつけて周りの人の視線を遮っているし、手を握ったレモンちゃんはレモレモ言ってるだけで何を言ってるか分からない。

 静流はとりあえずくっついていれば問題ない子だけど、背中に背負っているから様子はあんまりわかんないんだよなぁ。近くを通りかかる子がキャーキャー言っているから愛想を振りまいているんだろう。たぶん。


「蘭加の事を考えるとさっさと帰宅した方が良いんだろうけど……恥ずかしい思いをして終わるのもどうかと思うしなぁ。誰もいない所があればいいんだけど……そんな場所なんてないだろうし」

「れも? れっももれもん!」

「え? あっちに行きたいの?」

「モン!」


 レモンちゃんが差しているのは帰る方向だ。もう少し町を回りたい気持ちはあるんだけど……蘭加の事はまた今度考えるか。


「それじゃあ行こうか」

「もん」


 身体強化が付与された服を着ているから二人の子どもを背負っていても全く問題ない。抱っこ紐もおんぶ紐もしっかりと固定しているので落ちる心配はないだろうけど、僕もお酒を飲んでいるし、安全のために走る事もなくのんびり歩いて町の中心部へと向かった。

 レモンちゃんはそんな僕の歩調に合わせて歩いてくれるけど、一向に止まる気配がない。

 どこまで行くんだろう? あ、もしかして北区の方に用があったのかな? なんて事を考えている間にも歩き続け、とうとう町と畑の境界が見えてきた。

 畑側ではたくさんのドライアドたちが集まっていた。どの子も白い肌だからきっとレモンちゃんがなにかしら気持ちを伝達したんだろう。

 静流も蘭加も相変わらずだけど、レモンちゃんは気にした様子もなくズンズンと進んでいく。そして出迎えてくれている肌が白いドライアドたちの声がはっきりと聞こえるほど近くなった時、何で集まっているのか分かった。


「リーちゃんが登ってもいいって~」

「早く登ろ~」

「人間さん、早く早く!」

「リーちゃんも早く早くって言ってるよ~」

「……なるほど。確かに世界樹の上は人はいないね」


 見える範囲ではいないだろう。遠く離れた所から向こうは見ているかもしれないけど。

 レモンちゃんは満足気にうんうん頷いているけれど、大事な事を忘れているんじゃないだろうか。


「蘭加はレモンちゃんたちに対しても人見知りをするし、恥ずかしがるからね? 仮に上るとしてもドライアドたちみんな別行動してもらう事になるんだけど分かってる?」

「レモ!? レモンモ!?」

「そうだよ。レモンちゃんもだよ。それでもいいならいいけど……僕一人で登るのは無理な気がするなぁ」

「じゃあ解散だねぇ」

「かいさんかいさーん」

「ばいばーい」


 わらわらと散っていくドライアド。それに混じって離れて行く事もなく、レモンちゃんは僕を見上げてきた。気落ちしている様子もなく、この後どうするのか、と問いかけてきているような気がした。


「まあここまで来たし、もう帰ろうか」

「モン!」


 乳母に預けたらとりあえずお水でも飲もう。

 そんな事を思いながらレモンちゃんに手を引かれつつのんびりと屋敷へと向かうのだった。




 子どもたちの町の散策解禁から一週間くらい経った。

 一週間もあればいろんな人に相談できたし、家族の中でも話し合いができた。その結果、母子双方が希望すれば好きな時に町へ行く事ができるようになった。

 ただ、それを実現するために出かける時の条件も設けたし、町を訪れる人たちにも制限が掛けられる事になった。なにより、ファマリアで厳重な警備体制が敷かれる事になった。

 前世でいう所の交番のようなところが一定の間隔で作られ、そこには世界樹の番人ほどではないが、エルフたちの国の中では精鋭と呼ばれるエリート兵士たちが常駐するようになったらしい。

 ……都市国家の方の防衛力が心配だけど、それをジュリウスに言ったら「国よりも世界樹の使徒様の子どもたちを守る事の方が大事ですから」と言われた。

 それでいいのか疑問だけど、まあ、王族みたいなものだしそういう物なのかもしれない。


「それじゃあ行ってくるじゃん」

「ほらエイト、パパにバイバイして」

「マコトもするじゃん」

「「バイバーイ」」

「気を付けてね。行ってらっしゃい」

「れもれも~」

「いってらっしゃ~い」

「頑張ってね~」

「頑張る~」

「見守るよ~」


 町の散歩が自由になったからとエミリーとシンシーラが真っ先に子どもを連れて出かける事を希望したので『天気祈願』をしに他国へ行く前に見送りに出たけれど、ドライアドたちも一緒になって彼女たちを見送っている子もいた。ただ、エミリーとシンシーラの周りに集まっている子たちは見送られる側だ。

 子どもたちを自由に散策する事を許可する代わりに信頼できるボディーガードとして選ばれたのが彼女たちドライアドだった。内壁の内側であればある程度自由に滑動ができるとの事だったので任された彼女たちだったがやる気満々だった。

 トラブルが起きないか心配だけど、制限を掛け過ぎて子どもたちの影響に悪影響が出ても困るので信じて見送るしかない。

 不安が残るけど、ドライアドたちを追いかけまわしてエミリーとシンシーラの周りをぐるぐる回りながらも着実に町の方へと向かっている真と栄人を見送った僕は、今日の依頼先へと転移するのだった。

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