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後日譚316.事なかれ主義者は肉ばかり食べた

 栄人は思いっきり自由に動き回れる公園が大層気に入ったようで、町デビューと言うよりも公園デビューの方がしっくりくる内容になってしまった。

 鬼ごっこやドッチボールなどのルールがある集団遊びは難しいから追いかけっこをひたすら続けていたんだけど、それで満足したのかいきなり電池が切れるかのように眠ってしまった。

 その場で倒れるかと思いきや、ドライアドたちが髪の毛でしっかりとキャッチしてくれたので怪我も何もなかったからよかったけど……遊ぶ時にリュックを背負わせてても前から倒れたら危ないから今後も誰かが近くにいるようにして貰おう。

 そんな事を考えながらぐっすり眠っている栄人を抱っこするのはとても簡単だった。


「たまに里帰りしている時もこんな感じなの?」

「気が向くままに動き回るのはいつも通りですが、普段だったら他にも物や人がいっぱいなのであそこまでは集中しませんね。今度からはあの公園で遊ぶようにするのもありかもしれません」


 レモンちゃんの手を引いて隣を歩いているエミリーはそう言ったけど、思惑通りにはいかないんじゃないだろうか?

 だって、公園で遊んでいる時に遠巻きに町の子たちが見ていたし……。ピクニックとか流行りそうな予感がする。


「その時は私たちだけで町に出てもいいですか?」

「んー、どうなんだろう? みんなが自由に子どもたちと町に出かけられるのが一番いいけど、今回みたいに立ち入り制限をする必要があるのなら影響が出ちゃうかもしれないしなぁ……」

「そういえばそうでしたね」

「とりあえずみんなに意見を聞いてみようか」


 残念そうに尻尾が垂れているエミリーを見てそれくらいの事しか言えないのは残念だけど、子どもたちの安全を確保するためだから仕方がない。

 ……でも、子どもたちが大きくなったら気軽に町に出かけたくなるだろうし、勝手に抜け出してしまうかもしれない。立ち入り制限以外の方法で安全確保を考える必要があるかもしれない。

 そんな事を考えつつもとりあえず話を逸らしてお昼に食べたサンドイッチの話をした。エミリーの尻尾が少し元気を取り戻したので話題はこれでよかったようだ。




 夕食の席にはほとんど全員が揃っていた。ランチェッタさんとディアーヌさんは被災地への対応に関する対応でバタバタしているらしく、夜は別で食べる事にしたそうだ。ランチェッタさんの意見も聞きたかったから町の散策についての相談はまた後日に改めよう。

 そんな事を思いながらたまにしか出ないドラゴンステーキを味わっていると口に料理を詰め込み終わったノエルが席を立った。


「あ、ごめんちょっと待って」


 口に物を詰め込んだままのノエルが何やら言いながら外に出ようとしたが、それよりも早く動いたユキが扉を閉め、ホムラがノエルを捕まえた。


「駄目じゃない、ご主人様が『待て』と言ったら待たなくちゃ」

「お座りしなさい」

「いや、床に座らせる必要はないんだけど……」


 もぐもぐと咀嚼をしているノエルは剣呑な眼差しで僕を見る。魔道具の研究を邪魔されて機嫌が悪いのだろう。手早く済ませよう。


「次は確かノエルと望愛の番だけど、一緒に町に出かける?」


 首を横に振るノエル。まだ咀嚼しているようだ。


「でも、望愛も外に出して見たら好きな物も見つかるかもしれないよ?」

「…………ノアは眠るのが好きな子っすよ? 畑の方にすら出たがらないのに、町にわざわざ連れて行く意義を感じないっす」


 矢っと咀嚼を終えて飲み込み終わったノエルが反論してきた。思ったよりもまともな意見だった。

 確かに望愛は基本的に寝て過ごしてるもんなぁ。和室にはほとんどいないし、外もほとんど出た事がなかった気がする。


「他の人と触れ合う機会とか作った方が良いんじゃないかなって思うんだけど」

「乳母と別館で暮らしてる人たちで十分っすよ。あとドライアドもわらわらいるっす」

「まあ、確かに……?」

「一応考えてみたっすけれど、そういう訳でやっぱり町の散策はする必要は今はないっす。大きくなって自分も行きたいって言いだしたら考えるっすよ。もーいいっすか?」

「うん。邪魔してごめんね?」

「今度からは部屋で話す事を希望するっす」

「部屋だと『ながら』で話聞くじゃん」

「別にちゃんと聞いてるからいいじゃないっすか」

「そうかな? たまに適当に返事をしている時がある気がするんだけど……」

「何の事か分かんないっす~」


 そんな事を言いながらノエルは逃げ出すかのように食堂を後にした。


「望愛は飛ばすとして……蘭加はどうしようか?」

「そうだなぁ」


 魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんが腕を組んで考え始めた。大きな胸が強調されるがこの程度だったら慣れてしまったので動じる事もない。……視線はどうしても胸に行ってしまうけど。


「人見知りが激しいからなぁ」

「そうだよねぇ。おまけに恥ずかしがり屋さんだしねぇ」


 僕もラオさんと同じように腕を組んで町での蘭加の様子を想像しようとして見たけれど終始ラオさんか僕にくっついて顔を隠す未来が見える。無理して外出させなくてもいいだろうか?


「ああ、でもあいつにはランカに会わせたいな」

「あ、私もそう思ってた! ……けど、今回はもう出かけちゃった後だからまたの機会ね」


 しょんぼりとした様子のルウさんには誰の事を言っているのか分かったようだ。

 誰の事を言っているんだろう? と僕が首を傾げているとルウさんが「ベラちゃんよ」と教えてくれた。


「長い付き合いだからなぁ」

「それに、いい加減発破もかけたいわよね」

「どっちに転んだとしても先に進ませるのがお互いのためだよな」


 これはどうやら蘭加も町デビューする事になりそうだ。

 僕はラオさんとルウさんがイザベラさんの事を話しているのを何となく聞きながらドラゴンステーキのお代わりがないか、壁際に控えていたエミリーに確認するのだった。

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