表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1119/1314

後日譚307.事なかれ主義者は帰宅した

 おやつの時間にカフェで軽い軽食を食べていたら歌羽が微睡んできたので帰る事にした。当然のように抱っこをする事になったのは僕だった。くっついて離れないドライアドたちと違って、歌羽は眠ったら離してしまうかもしれないので気を付けないといけない。身体強化の魔法が付与された服を着ているから疲れる事はないんだけど、今度からは抱っこ紐を持ってくるようにしよう。


「ひとっとびするデスか?」

「いや、のんびり歩いて帰ろうよ」


 大きくなったアンジェラを今でも抱えて飛んでいる事があるから僕たちまとめて運ぶ事も出来なくはないんだろうけど、あの運び方はちょっと怖い。

 パメラは「そうデスか?」と不思議そうに首を傾げたけど、まだ食べたりなかったのか、いい香りを漂わせている露天商に寄っては何かしら買って戻ってきていた。

 それらを一口ずつ貰いながら家へと帰る。畑と町の境界ではドライアドたちがわらわらと集まってきてお出迎えされたが、歌羽が道中で寝てしまったのをレモンちゃん経由で知っていたのだろう。とても静かだった。


「後の事はよろしくお願いします」

「お任せください」


 屋敷に戻り、真っ先に歌羽たちの部屋に向かうと、タイミングを見計らったかのような感じで乳母の一人が出てきたから歌羽を受け渡した。パメラは屋敷に入る前に別行動になったのでこの場にはいないけど、歌羽はぐっすりと眠っているので、問題ないだろう。たぶん。

 一階に降りて厨房に向かうと、エミリーとその部下として働いているバーンくん、それから彼に好意を寄せている女の子たちが夕食の準備をしていた。


「シズト様、お帰りなさい。お散歩は楽しめましたか?」

「いやぁ、公園は楽しかったけど、お店とかはちょっと思う所があってね……」


 交通規制でも掛けられていたのか、すべてのお店に客が一人もいなかった事を伝えると、様子を聞いてきたエミリーも眉を下げて困ったような笑みを浮かべた。


「シズト様とその子どもだから万が一があるといけないって言うのは分かりますけど、それは確かに申し訳ないと感じますね。私もエイトと一緒にお散歩できるのが楽しみだったんですけど……」

「とりあえず今回の件はホムラやジュリウスがした事だと思うから、もう少し他の人に影響が出ない方法がないか聞いてみようかな。いや、自分の今の立場を考えるとそういう感じになっちゃうかも、とは思ってたんだけどさ……」


 やるべき事は特に何もしてないんだけど、名目上は都市国家に住むエルフたちのトップは未だに僕だ。その心構えや考え方はリヴァイさんとパールさんからそれぞれ教えてもらっているから必要性は分かる。万が一の事があったら簡単に人の首が飛んでしまう事だってあるのだから命と比べれば安い物なのかもしれない。

 それでも、今回損した商人さんたちには何かしら補填してあげて欲しいな、と思ってしまうのは甘いのだろうか。元々は庶民だったし、王族の価値観は完璧になじむ事なんてないんだろうなぁ。

 しょんぼりと垂れてしまったエミリーの尻尾を軽くモフッて元気をお互い回復したけれど、女の子たちがチラチラと見ていた事に気付いたエミリーが恥ずかしそうに仕事に戻ってしまったので僕も厨房を後にした。

 屋敷から出るとレヴィさんが農作業をする傍らで、育生が手当たり次第にじょうろで水を挙げようとしてドライアドたちに阻止されていた。


「おみず、あげる!」

「だめなの!」

「もういらないの!」

「ちょっとでいいの~」


 大変だなぁ、とは思うけれど、ドライアドたちでまだ止められる範囲だろうから育生たちの事は放っておいて、僕は屋敷の屋根の方を見上げた。そうするだけで僕が呼んでいると察したのか、ジュリウスが近くに飛び降りてきた。

 音も無く着地したジュリウスはこちらに歩み寄ってくる流れのまま片膝をついて首を垂れた。


「お呼びでしょうか?」

「今回の町中の散歩の件で話があるんだけど、どうしてああいう状況だったのかな?」

「急遽の事でしたので、混乱を避けるためにホムラ様と対応しました」

「じゃあ、ある程度の日時を決めれば今回のような事は起きないのかな?」

「…………明言は出来かねます」

「そっか……。町の散歩の度に今回の対応が行われるんだったら、子どもたちの生活にだいぶ制限がかかってしまう可能性があるんだけど、どう思う?」

「それは由々しき事態かと存じます」

「だよね。僕としてはいつも通りの町を散歩できればと思ったんだけど、護衛を増やすとかで何とかできないかな?」

「…………善処させていただきます」

「うん、お願いね」


 我ながら無茶なお願いをしているという自覚はあるんだけど、子どもたちと散策する時には引け目を感じる事無く楽しみたい。

 どうしても無理であれば報告するようにお願いして、僕は屋敷に戻る。


「ホムラはまあ、帰ってきてから伝えればいいか」


 帰ってくるまでは子どもたちの様子を見て過ごそう。

 そう思って僕は和室に向かうために階段を上がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ