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後日譚302.事なかれ主義者は譲歩した

 各大陸で国家間で協力して魔物たちの領域の調査などが行われていようとも僕の影響に何ら支障が出る事はない。午前中は加護を使って過ごし、午後は子どもたちの様子を見て過ごす。夜ご飯を食べた後は少しだけ自由時間があり、その後は夫婦の中を深めて夜が更けていく。

 同じ事の繰り返しの日々だけど、子どもたちとの関わりはいつも違うから退屈はせずに過ごす事が出来ている。

 ただ、お嫁さんたちはそうじゃなかったのかもしれない。


「家族旅行って言っても、子どもたちはどうするの?」

「乳母に任せればいいデス! 転移門でいろんなところに行きたいデス!」


 最初にそう主張したのは黒い翼が特長的な翼人族の女性パメラだ。小さな体の中から溢れるほど元気が有り余っているようで、仕事として任されている夜の警備をした翌日でも元気よく遊んでいるのをよく見かける。

 最近は子どもたちも歩いたり跳ねたり飛んだりするようになったのでパメラも楽しそうだったけど……それでも家に閉じこもってばかりだとストレスが溜まっているのかもしれない。でも――。


「せめて、子どもたちが三歳くらいになるまではやめとかない? ほら、どんどんイヤイヤ期に入ってきてるし……」

「そんな事言ってたら、いつまで経っても外に出かけられないんじゃないかしら?」


 パメラを援護したのは、既に食事を終えて魔力マシマシ飴を舐めているルウさんだった。真っ赤で長い髪は動きやすいように後ろで結われていて、魔物の素材を元に作った防具を身に着けている。久しぶりに体を動かすためにダンジョンに行くからだそうだ。

 子どもの事を第一に考えてそうなルウさんだったからてっきりこっちに賛同してもらえると思ってたんだけど、彼女は「だって二人目、三人目ってどんどん増えていくわよ?」と当たり前のように言った。

 ……うん、あれだけやってたらその内誰かまた妊娠するだろうね。


「なんだったらチビ共も連れていきゃいいじゃねぇか」

「いや、それは流石にダメだよ」


 ルウさんの正面で、ルウさんと同じように魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんの言った事を慌てて止めたけど、ラオさんは不満そうだ。鋭い赤い目が僕の方に向けられた。


「過保護すぎじゃねぇか?」

「冒険も時には大事よ?」

「そうかなぁ……。……仮に連れて行くとしても、言う事聞かなくてトラブルになるかもしれないじゃん。今は僕たちか本館や別館で働いている人くらいにしか迷惑はかけてないけど、外に行ったら知らない人にも迷惑になるだろうし……」

「でも蘭加や静流は連れて行ってるわよ?」

「それはルウさんたちの故郷だからまだ許容範囲なだけで、知らない土地は危ないと思うよ。レヴィさんたちもそう思うでしょ?」


 静かに成り行きを静観しているっぽいレヴィさんに話を向けると、彼女は眉根を寄せて考えた。


「そうですわね、私の価値観で考えるとやっぱり他国に行くのはまだ早いと思うのですわ。セシリアもそうですわ?」

「はい。万が一の事があるといけませんから」

「そこら辺はやっぱり貴族と平民の価値観の違いじゃないかしら?」

「ディアーヌの言うとおりね。わたくしもまだ早いと感じるし。だからと言って、パメラたちの自由を制限したいとは思えないわ。平等に接しようとしているのは分かるけれど、この件に関しては平等じゃなくていいと思うのだけれど、どうかしら?」


 優雅に食事を進めながらランチェッタさんが問いかけると特に反対意見が出なかった。

 ……どうしようかなぁ。平等に接したい、という気持ちは嘘じゃないけど、子どもたちが心配だから反対してるだけなんだけど。こうなると他の子たちが羨ましがるからダメ、とは言い辛い。


「…………分かった、子どもたちの外出は許可するよ」

「やったデス!」

「ただし! まずは近場から、ね?」

「しょうがないデスね。近場って言うとドラゴニアやエンジェリアデス?」

「エンジェリアは申し訳ないけど無しかな。いや、悪く言いたいわけじゃないからね?」

「分かってます。ウタハちゃんはハーフとはいえ人族以外の血が混じっているので避けた方が良いと私も思います」


 まだ婚約者という立場だから僕との間に子どもはいないオクタビアさんは自国内の状況についてはっきりと理解しているようで何事もないように頷いた。

 女帝として統治していても価値観はなかなか変えられないようなので、エンジェリアを旅行するのはまだまだ先になりそうだ。


「じゃあドラゴニアデスか!」

「いや、そっちも遠い。まずはファマリアから、ね?」

「ファマリアデスか……。一人で見て回ったデスけれど、ウタハと一緒に行ったらまた楽しめる気がするデスし良いデスよ!」

「そういう訳だから、皆が大丈夫ならファマリアに子どもたち連れて行っていいよ。ただ、その時には必ず護衛をつけるけどね?」

「当然デス! それで、いつ行くデスか?」

「いや、今日から行ってきてもいいよ。ジュリウスには後で話し通しておくから」

「シズトとも一緒に行きたいデス! 家族でお出かけデス!」

「あー……なるほど? じゃあ加護を使い終わってからで、お昼くらいに行こうか」

「分かったデス! そうと決まればジュリウスに伝えてくるデス!」

「ちょっとパメラ! 窓から出るなっていつも言ってるでしょ!」


 エミリーの制止の声が聞こえていても止まる気配はなく、パメラは勢い良く窓を開けて外に飛び出していった。窓の外から様子を窺っていたドライアドたちが窓が開くと同時に吹っ飛んでいたけれど、戻ってきてひょこっと中の様子を窺っていたけれど、エミリーがすぐに閉めてくれたので侵入してくる事はなかった。

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