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後日譚297.第二王女も同行する

 ドラゴニア王国の第二王女であるラピス・フォン・ドラゴニアは学生であるが、研究者でもあった。

 現在の研究のメインターゲットが『ドライアド』たちである以上、大樹海の調査が行われると知った彼女が取る行動は決まっていた。


「私も調査隊に入れて欲しいです」


 その鋭い眼差しはとても真剣だった。青い目でまっすぐに彼女の義兄であるシズトを見ている。

 日課のお祈りをし終わった直後のシズトは、肩の上にドライアドのレモンちゃんを乗せた状態のまま、きょとんとした様子でラピスを見ていた。


「なんで?」

「ミスティア大陸の各国の話を聞くうちに、大樹海にドライアドらしき目撃例が複数集まったからです」

「そっか。僕は別にいいけど、学校の方は大丈夫なの?」

「はい。フィールドワークの申請をしますから」


 勉学に関しては、優秀なラピスには何も問題はない。問題があるとすれば委員会の仕事だが、そろそろ次の世代に任せようと考えていた所だったので丁度良かった。

 シズトの許可が貰えれば後はトントン拍子で話が進んでいく。

 イルミンスールから大樹海の調査のために奥に入っていく探索隊の出発日までは必要と思われる物資を買い集める余裕もあった。

 それらの物資は自前で使える空間魔法によって持ち運びができるため、大樹海に入る時には軽装で挑む事が出来た。

 普段着ている制服ではなく、高ランクの魔物の皮から作られた革鎧を身に着けている。その見た目は魔法使い然としていないが、探索をするのであれば動きやすさを重視するべきだと考えたからその様な格好だった。

 金色の髪はショートヘアーなので特に結う必要もない。ラピスはその髪の毛を弄りながら見送るためだけにやってきた人物たちと話をしていた。


「わざわざ見送りにいらっしゃらなくてもよかったのに」

「いやぁ、流石にそういうわけにはいかないでしょ」

「そうですわ! 可愛い妹が危ない所に行くと聞いてじっとしていられるほど大人しい姉ではないのですわ!」

「普段から動きまくってるもんね」

「昔はそうではなかったんですけど、これもシズトさんの影響でしょうか」

「いや、どうだろう? いつの間にかこうなってたよ」


 困った様に眉を下げるのはラピスの義兄であるシズトだ。ラピスと一緒に探索するエルフたちの激励、という建前があったのでその恰好はエルフたちの正装である真っ白な布地に金色の刺繍が施された服を着ていた。

 その隣にはすっとぼけた表情であらぬところを見ているレヴィアがいた。ラピスの姉である彼女の髪は、ラピスと同色だが長く伸ばされていて、顔の横辺りで巻かれており二つのドリルを形成していた。普段着と化しているオーバーオールを着て見送りに来たのは農作業の途中だったからだろう。

 レヴィアの後ろでは「もっと言ってやってください」と侍女らしからぬ発言をしているメイド服姿の女性がいる。普段は侍女として静かに控えている彼女の名はセシリア。レヴィアの付き人でありストッパーでもある女性だ。


「私の事は良いのですわ! それよりも、準備は万全ですわ?」

「何度も言ってますが、問題ありません。すべてしっかりと空間魔法で管理してあります」

「ラピスは私なんかよりもよっぽどしっかり者だから大丈夫だと思うのですけれど……それでも心配なのですわ」


 自分に都合の悪い話が続きそうだったから話を逸らしたレヴィアだったが、妹の事が心配なのか、またそわそわし始めた。その隣でシズトは「エリクサーは渡しても大丈夫かなぁ」なんて事をレモンちゃんに相談している。


(これはさっさと出発した方が良さそうね)


 エリクサーなんて渡されても困るラピスはそう思ったが、シズトが号令をかけない限り、ラピスの背後で直立不動の姿勢で待機しているエルフの調査部隊は背後に広がっている大樹海に向かう事はないだろう。

 それからしばらくの間、エリクサーの件でシズトとやり取りをする事になったラピスだったが、結局エリクサーを一本、一時的に預かる事で話がまとまった。


「それじゃあ、行ってきます」

「気を付けて」

「行ってらっしゃいなのですわ~」


 エルフの先頭が大樹海に入っていく。ラピスもその後を追うようにしてブンブンと手を振っているレヴィアから背を向けた。

 そして、大多数の調査員が大樹海へとどんどん足を踏み入れていき、ラピスもまた、鬱蒼と茂っている木々の中へと足を踏み入れようとしたところで、後ろから声が聞こえてきた。


「ちょっといったん止まって! 戻ってきて!」


 鶴の一声で探索は一時中断となる。

 森の奥へ奥へと進んでいたエルフたちが文句ひとつ言わず、全員無事に戻って来たところで怪訝そうにしているラピスを含めた調査員たちを制止した張本人であるシズトが口を開いた。


「今回の調査、ドラゴンさんもついて行ってくれることになったから。よろしくね」

『そういう事になった。が、お主たちは儂の背中に乗るか、後ろをついて歩くかどちらがいい?』


 ラピスはしばらくの間悩んだが、ドラゴンの背中にたくさんいるドライアドがいる事を考慮して、彼女たちの近くにいるために背中の上を選ぶのだった。

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