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後日譚296.事なかれ主義者は大戦は避けたい

 育生の様子を見守りながら歩き回りたがる真の散歩に付き合っているとあっという間に時間が過ぎていき、夜ご飯の時間になった。

 子どもたちは子どもたちで決まった時間に食事をしているので食卓に大きな変化はない。

 落ち着いて一人でご飯を食べられるようになったら食卓を囲んで一緒に食べようかな、なんて事を考えていたらレヴィさんが口を開いた。


「大樹海の調査……新しい植物との出会いの予感がするのですわ」

「一旦思考を農業から離してもらっていい?」


 食事が始まる前に、僕がミスティアで行われている国際会議で見聞きした事は皆に伝えている。今回の事は皆にはあまり関係のない事だけれど、国を統治しているランチェッタさんの意見も聞きたかった。

 そのランチェッタさんはというと、可愛らしい顔を何やら顰めて考え込んでいるようで話に参加してこない。っていうか、料理にも手を付けていなかった。

 その様子が気になったけど、一先ず他の人に話を振る事にした。


「皆はどう思う?」

「どうって言われてもなぁ。政治に関してはアタシらには分かんねぇよ」

「そう言いつつもシズトくんがやりすぎてると思ったら止めるじゃない。シズトくんは間違っていた時に止めてくれるラオちゃんの意見を聞きたいんじゃないかしら?」

「やりすぎもなにも、今回の件でシズトはまだ何もやってないだろ。精々『支援物資でエリクサーとかどうかな?』とか言い出したら止めるくらいだな」


 ラオさんとルウさんが同時にこちらに視線を向けてきたけれど、僕はそれに気づかないふりをしてホムラとユキの口元を拭った。


「二人はどう思う?」

「マスターの御心のままに」

「ご主人様がしたいならすればいいんじゃないかしら」


 うん、この二人は僕の事を肯定しかしない人たちだったわ。

 ランチェッタさんに再び視線を向けると、彼女は考えがまとまったのかこっちを見ていた。


「そもそも今回の件は大樹海の調査の協力を求められただけでしょう? 調査は決定事項で、万が一の事を考えて軍事派遣しようか、って提案されているだけで……」

「まあ、そうだね」

「だったら少しでも利益を得るために協力はしておいた方が無難ね。何より、万が一の備えて被害が抑えられるように行動しておくのは統治者として大事なことよ」

「はい」


 そういうわけで大樹海の調査の際にはイルミンスールと大樹海の境界付近にエルフたちを派遣する事にした。

 話が一段落した所で切り分けたワイバーンのステーキを頬張ろうとしたら「わたくしからも話があるわ」とランチェッタさんが言った。

 もぐもぐと肉を咀嚼しながらランチェッタさんに視線を向けて話を促すと、彼女は話し始めた。


「実はシグニール大陸でも魔物たちの領域に対して軍事行動をしよう、という話が持ち上がっているわ。『魔の森』は分かるかしら」

「詳しくはないけど、どこら辺かは分かるよ」


 統治者としての心構えを義父母から教わる際にシグニール大陸についても習った。各国の歴史から始まり今に至るまでの関係性も含めてすべて覚えきることはできていないけど、場所くらいだったら今でもはっきりと覚えている。


「転移門を使用する時の条件として、戦争行為が禁じられているでしょう? 今まで戦争に必要なものを他国に売る事で利益を得ていた国々で不満が溜まっているみたいなの」

「ダンジョンに必要な物を作るようになればいいんじゃないの?」

「ダンジョン探索に必要な物とは求められる水準が異なるから難しいでしょうね。軍事力を持て余している国々もいて、話し合いが進められる中で『魔の森』の開拓が話に上がったのよ」

「…………なるほど?」

「シズトはそれについてどう思うかしら?」

「どう思うって言われても、周りの人々に迷惑が掛からないように気を付けてね、くらいかな」


 大樹海と比べたら魔の森は面積がだいぶ小さい。ぐるりと囲んでしまえば魔物が溢れてしまってもある程度対応できるんじゃないかな。


「反対しないの?」

「しないけど……なんで反対すると思うの?」

「戦争を禁じるくらいだから、今回の件も反対すると思ったのよ。魔の森の開拓計画の中には転移門の存在が大きくかかわっているし……」

「ふーん。……まぁ、戦争は嫌いだけど、皆で協力して開拓していこうって事だったら別にいいんじゃない?」


 むしろ不満が溜まって爆発するよりはよっぽどマシだ。転移門はとても便利な物だけど、それによって世界がより身近で狭くなってしまっているからちょっとした火種が大きな戦いになりかねないし。

 ランチェッタさんが「じゃあ、転移門を使ってもいいのね?」と確認してきたので、次の肉を口に入れてから頷いておいた。

 一仕事やり終えた様子のランチェッタさんは、やっと眉間の皺を無くして料理に手を付け始めた。

 僕はそんなランチェッタさんから視線を外して、雑談をしている皆の様子を見ながらもぐもぐと咀嚼を続けるのだった。

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