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後日譚293.事なかれ主義者も子煩悩

 育生の誕生日から二週間ほどが過ぎた頃、明後日に控えた千与の誕生日プレゼントの最終確認をし終えたので和室で子どもたちと遊ぼう、と和室に入ったところでタカノリさんから呼び出しがあった。急ぎではない、との事だったけど面倒事はさっさと終わらせたいのですぐに行く事にした。


「服装とかなんか言ってた?」

「いえ、特には何も言われてないです」

「じゃあこのままでいいか」

「良いとおもーう」

「れもーん」

「出発、しんこー」


 今日もお偉いさんが見ている前で『天気祈願』を使うために正装である真っ白な布地に金色の刺繍を着て外に出かけたけど、その時にいつも通りドライアドが僕の体にくっついていた。

 伝えてくれたモニカにお礼を言ってから後ろ髪を引かれる思いで和室を後にする。

 階段を降りて正面玄関から外に出て転移陣の方に向かうと、転移陣に刻まれている魔法陣がうっすらと輝いているからか、ドライアドたちがわちゃわちゃと集まっていた。


「向こうの準備は万全みたいだね」

「はやくいこー」

「れも!」

「行ってきます!」

「ばいばーい」

「子どもたちにちょっかいかけすぎないようにね」


 なぜ黙る。さっきまで賑やかに見送っていただろ。

 周りに集まっていたドライアドたちがこちらを見ずに好き勝手な場所に視線を向けながら何も言わないからちょっと心配だけど、とりあえずタカノリさんの待つイルミンスールへと転移した。

 転移した先は世界樹の根元なので安全ではあるが、ジュリウスが先に来ていて周囲の警戒をしていた。

 周囲は大きなドライアドたちが所々でのんびりと日向ぼっこをしている。また、大きな体のドラゴンが日当たりのいい場所で伏せている状態で動かない。


「タカノリさんは?」

「森の向こう側で待機しているようです」


 魔力探知が使えるジュリウスが南の方の木々を見ながらそう答えた。別にタカノリさんなら入ってもいいと伝えているんだけどな、なんて事を思いながら森の外へと通じる転移陣を組み立てるように転移陣の近くで微睡んでいた緑色の肌のドライアドにお願いすると「わかったぁ」と眠たそうな声で返事をされた。


「お昼寝の邪魔してごめんね」

「べつにいいよぉ」

「戻ってくるまではこのままでお願い」

「はぁい」


 向こうに行ったらそのまま寝てしまいそうなドライアドに不安を覚えるけど、まあドラゴンもいるし、ドライアドたちも侵入者が来たら起きるだろうから大丈夫だろう。……たぶん。




 転移した先で待っていたタカノリさんは元々若々しい見た目の男性だったけど、さらに若々しさに磨きがかかっているような気がする。二十代と言っても通用しそうな彼だけど、一児のパパで人生の先輩である。

 親子関係の構築方法についてアドバイスをもらいたいところだけど、タカノリさんも仕事柄あまり子どもと関わってきていなかったらしい。

 その時間を取り戻すために子どもとできるだけ過ごしているそうだけど、お子さんから「ちゃんと仕事してきて」と言われる事もあり、僕から任されたイルミンスールの外交官の仕事を頑張ってくれているそうだ。

 同じ子煩悩な父親なのでタカノリさんの気持ちは分かるし、仕事が終わったんだったら早めに切り上げて子どもと過ごしてもらっていいんだけどね。


「お忙しい中、お時間を頂きありがとうございます」

「いつも言ってるけど、そんな堅苦しい言葉遣いじゃなくていいですよ。タカノリさんの方が年上ですし」

「一応、ね。シズトくんもいつもの感じで話してくれると嬉しい」

「タカノリさんに釣られただけだよ。それで? 今回はどうしたの?」

「こっちでも国際会議を開いている事は以前報告書で伝えたよね?」

「あー…………うん、たぶん読んだ気がする」


 別に出席を求められていなかったので特に気にも留めていなかったけれど、転移門を設置したどこの大陸でも国際会議が定期的に開かれるようになっている。ミスティア大陸はクレストラ大陸同様、すべての国がその会議に参加はしているはずだ。


「そこでの話し合いの中で、イルミンスールにも影響を及ぼしかねない議題が挙げられていたからちょっとシズトくんにも参加してもらって判断してもらおうかと思ったんだよ。別に今日じゃなくてもよかったんだけど……本当に今からでいいのかい?」

「面倒な事はさっさと終わらせるに限るので。……ただ、政治的な事は僕だけじゃ判断しきれない事もあるから一度持ち帰らせてもらうかもしれないけど」

「それで問題ないと思うよ。問題があったとしても君に真っ向から反論をぶつけるような人はいないだろうけど」


 転移門を人質にされたら困るからですね、分かります。

 一度便利な物を使ったら、それなしでの生活なんて考えられなくなるよね。

 そんな事を考えながら会議場へと歩き始めたタカノリさんの後を追うのだった。

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