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後日譚292.若き女王は待ったをかけた

 クレストラ大陸で、魔物の領域に向けて大規模な共同軍事行動が行われるという情報は、各国に諜報員を派遣している海洋国家ガレオールの女王の耳にすぐに届いた。


「わたくしの耳に届いたという事は、ニホン連合もこの情報は掴んでいるわよね」


 報告書をバサッと机の上に乱雑に置いたのはランチェッタ・デイ・ガレオール。ガレオールの若き女王であり、シグニール大陸で定期的に開催される国際会議の議長のような役割も行っていた。

 小柄だが天然物の凶悪な胸囲を誇る彼女の胸元は、露出が少ないドレスを着ていてもどうしても目立ってしまう。だが、執務室にいる彼女の胸を凝視するような者はいない。というよりも、彼女の他に人は一人しかいなかった。


「そうですね。あそこのシノビと呼ばれる隠密部隊は優秀ですから」


 ランチェッタの独白に答えたのはランチェッタの付き人であるディアーヌだ。ランチェッタと同じ色の髪の毛は今日も結われていてシニヨンヘアになっている。

 休憩を促すため、魔道具を用いて紅茶を淹れたディアーヌが机の上に置くと、ランチェッタは一言お礼を言ってからそれを口にした。


「間違いなく厄介な事になるわよね」

「そうですね。ニホン連合内で転移門を定期的に移動させるという話でまとまったから余計に戦争行為はできなくなりましたし……間違いなくシグニール大陸でも人族の領域を増やせ、という話が出てくるでしょうね」

「幸いな事はこっちの魔物たちの領域はクレストラ大陸と比べると広くはないし、ガレオールと直接隣接しているわけではない事くらいかしら?」

「砂漠を越えてやってくる可能性も否定できませんよ?」

「…………十分あり得るわね。砂漠も魔力濃度は『魔の森』ほどではないけれど十分高いし」


 考える事が増えた、とため息を吐いたランチェッタは、紅茶を飲み干すと再び他の報告書に目を通し始めるのだった。




 ランチェッタが懸念した通り、数日後に開催されたシグニール国際会議ではニホン連合をを筆頭に、『魔の森』へ共同で軍事行動を起こすべきだという話が持ち上がった。既にニホン連合内では根回しがすんでいるようで、多くの国々が賛同している。

 魔の森とは山で隔てられているドワーフの国ウェルズブラの外交官も乗り気なのは武具の需要が高まるからだろう。また、魔物たちの領域であれば特殊な素材も手に入る可能性が高い。その点においてはランチェッタも魅力は感じていた。


「我々獣人の力をもってすれば森を切り開く事なんぞ簡単だ!」と獣人の国アクスファースの外交官も乗り気だ。


(さて、どうしたものかしら?)


 話し合いの流れをじっくりと観察していたランチェッタは、心の中で独白すると威勢のいい発言を続けているアクスファースの外交官とニホン連合の者たちを見ながら考えを巡らせた。

 ランチェッタが見ている限り、表立って賛同していないのはガレオールを除くと、圧倒的な軍事力を誇っているドラゴニアと、シズトの意思を最優先に行動しているエルフの都市国家二か国、それから魔国ドタウィッチに神聖エンジェリア帝国だ。


(エンジェリアは今は内政を重視したいから賛成しないのかしら? ……ああ、そういえば有名な貴族家が一気に没落した事もあって軍事力が大きく低下したという話もあったわね。ただ、ドタウィッチの方はそれらしい理由がないけれど……何も言わないのは魔の森と隣接しているからかしら?)


 ガレオールと同様に、ドタウィッチは国土が魔の森と接している。ただ、ガレオールには緩衝地帯として砂漠があるがドタウィッチにはそれがない。国境沿いには厳重な警備が敷かれていて、魔物の侵入を阻むための建築物も多い。


(領土を増やすチャンスではあるけれど、手痛いしっぺ返しを警戒しているのかしら?)


 ガレオールの場合は砂漠を挟んだ飛び地が領土として手に入っても防衛にコストがかかるため、積極的に軍事行動に参加するつもりはない。だから話を静観していたのだが、どうやら賛成派が多数を占めて話し合いが終わりそうだった。


「一つ、よろしいかしら?」


 ランチェッタがか細い手を挙げて言葉を発すると、どうやって『魔の森』を切り取っていくべきかという話し合いにまで発展しかかっていた者たちが急に静かになった。

 お互いが顔を見合わせ、それから真剣な表情になっていたニホン連合の外交官の一人が「もちろんです」と答えた。


「『魔の森』を共同攻略する件について多くの国々が賛同している事は分かったわ。分かったけれど、必要物資をどうやって運ぶのかお聞かせ願えるかしら?」

「それは、転移門を活用させてもらおうと考えております。我々ニホン連合に設置されていた物を、攻略期間中は『魔の森』に近い所に移設して対応しようかと。無論、ドタウィッチやガレオール、アクスファースの転移門も活用して包囲網を敷き、同時に攻略をする形にはなりますが――」

「なるほど、予想通りの答えね。そうなると問題なのは、どうやってわたくしの夫を納得させるかね。『魔の森』から魔物があふれ出す危険性があるという事を正直に伝えた場合、難色を示すでしょうね」

「……その情報をシズト様には伏せて――」

「ああ、そうそう。貴方は今回が初参加のようだから一つだけ注意しておくわね? わたくしの夫を軽んじるような考えをお持ちの場合、それは表に出さない事を推奨するわ。もしもそういう言動があればその時点でわたくしは抜けさせていただくから」

「ドラゴニアもガレオールと同様だ。万が一にも伝えるべき事を伝えず、後からそれが発覚してしまった時に義弟との関係が悪化するのは避けたいからな」


 ランチェッタの後に続いたのはドラゴニアの外交官として参加していたガント・フォン・ドラゴニアだ。第一王子であり、次期国王として噂されている彼がそういうのであれば実際にそうなるのだろう、と会議に参加していた者たちは思ったのか、ざわめきが広がっていく。

 ガレオールの経済力も当てにしている所はあっただろうが、シグニール大陸一と言っても過言ではないドラゴニアの戦力が当てにならないのであれば大幅に計画を見直す必要があるだろう。

 結局、その後の話し合いではどのようにすればシズトが納得するのか、話し合いが行われる事になるのだった。

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