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後日譚289.事なかれ主義者は選択をミスった気がした

 育生が『生育』の加護を使った日はそれはもう大きな騒ぎになった。主に騒いでいたのはエルフたちだったけど、連絡を受けて飛んできた育生の祖父母も、育生が加護を使う所を見たがったし、使ったら使ったでとても褒めていた。

 まんざらでもない育生が手当たり次第に加護を使ったけれど、幼児の魔力なんてたかが知れている。使いすぎた結果、気絶とまではいかなかったけれど、気分が悪くなってしまう事もあった。

 リヴァイさんとパールさんは怒れるレヴィさんから、誕生日パーティーまで育生に会いに来ないように言い渡されていた。

 僕も育生を褒め過ぎた所があったな、と思ってその場にいるのが気まずかったので、そこら辺で日向ぼっこをしていたドライアドたちに声をかけた。


「ちょっとお願いしたい事があるんだけどいいかな?」


 僕の問いかけに「いいよ~」と肌が白いドライアドが言えば「あるばいと?」と目を輝かせている褐色肌の子も話に入ってきた。日本人っぽい肌の色で小柄なドライアドは大きく欠伸をしているけど、こっちは見ているので話は聞いているだろう。たぶん。


「育生……って、言い方だと分からないかな。えっと、世界樹の世話をする事ができる力を持った小さな人間は分かる?」

「分かるよ―」

「人間さんね」

「何でもよく食べるよねー」

「レモ! レモンれもれも」

「そうだねー、レモンは食べないねー」

「分かるならいいや。その人間さんが加護を使う際には近くで見守っててくれないかな? いきなり倒れたりとか、気分が悪くなったりとかしちゃう可能性があるから……」

「いーよー」

「わかったー」

「皆に伝えとくね~」


 ドライアドたちはそういうと、日向ぼっこを再開するようだ。各々日当たりのよい場所で陣取るとすぐに目を閉じて動かなくなった。




 それから数日の間、育生がお散歩兼畑に実った作物のつまみぐいをしに行く時にはドライアドたちに加えて仮面をつけたエルフ、それから煌びやかな装備を身に纏った近衛兵がついて回るようになった。加護を授かった幼子が加減を知らずに加護を使った結果倒れる事はよくある事らしい。

 レヴィさんは常時強制発動型だったので、それこそ乳児の頃から魔力欠乏による意識喪失を起こしていたらしい。その影響で一日中加護を使う状態になっても全く問題ないくらいの魔力量を持つようになったそうだ。

 そんなレヴィさんは、今は育生と一緒に椅子に座っている。その周りには彼女の両親に加えて兄と妹もいた。

 レヴィさんのお兄さんであるガントさんは大柄な男性だ。パールさんと同じ薄い赤い髪と目を持っているが、顔立ちはどちらかというとリヴァイさんに似ている。最近は次期国王としていろいろ任されているらしい。そんな彼は普段着ている鎧ではなく、スーツのような恰好だった。違和感がすごいけれど、着る事に慣れている様子だった。

 レヴィさんの妹であるラピスさんは普段の学生服ではなく、ドレスを着ていた。屋外での立食パーティーである事や、身内しかいない事からシンプルな物だったけれど、レヴィさんとはまた違った魅力を持った女性だった。他の家族が育生に注目しているのに、ラピスさんは育生にちょっかいを掛けようとしているドライアドたちの方が気になる様子でそちらの方を凝視していた。


『おい、シズト』

「なに?」


 呼ばれたので振り向くと、世界樹の根元ではなく、パーティー会場近くで伏せた状態のままこちらを見ているフェンリルと目が合った。


『こっちにも肉をよこせ。あと酒も』

「酒は全部儂の物じゃ! フェンリルなんぞに与える酒はないわい」

「アンタのもんじゃないじゃん! 私の物じゃん!」

「いや、皆の物だからね? 独り占めはだめだよ、ドフリックさん。皆の分はちゃんと分配する事になってるからシンシーラも慌てなくていいから」

「でもシズト様、あのドワーフ、絶対独り占めするつもりじゃん」

「ジュリウス」

「ハッ」


 ジュリウスが指示を出したのか、どこからともなく現れたエルフの集団が、酒を独り占めしようとしていたドフリックさんを別館の方に連行して行ってしまった。酒が絡まないとまだまともなんだけどなぁ、なんて事を思いながら、彼らの後を追うドワーフの女の子ドロミーさんを見送った。


『おい。どう考えても我の分が少ないだろ』

「そんな事ないよ。ちゃんと分けたんだから」

『だからそれが問題だと言っているんだ。我の体はお主らよりも大きいだろう? そこも考えて分配をし直せ』

「文句があるなら別に飲まなくてもいいよ。祝いの席だからあげてるだけだし」


 プイッとそっぽを向くと、フェンリルがまだ念話で何やらぶつぶつ文句を言っているけど相手にするだけ無駄だ。誓文書でこちらに危害を加える事は出来ないし。


「シズト様、そろそろお時間です」

「あ、ほんと? それじゃあ今から話があるから静かにしててね」


 まだ文句を言い足りない様子のフェンリルをその場に残して、僕はレヴィさんたちの方に向かう。

 これからプレゼントを育生に渡して行く事になっているけど、最初に渡すのは父親である僕だ。

 ドライアドたちがどこからともなく収穫してきた作物に意識がいっちゃう育生を見ていると、やっぱり食べ物系にしておけばよかったかな、なんて事を思ったけれど今更だ。

 レヴィさんが座っているすぐ近くに行くと、半数ほどの視線が僕の方に向いた。残りの半数はドライアドたちの視線なのであっちこっちまとまりがない。

 普段とは違って義実家の面々の視線があるから少し緊張したけれど「今からプレゼントの時間にするね。まずは僕から」と落ち着いた雰囲気で言う事ができた。

 …………うん、やっぱり食べ物も用意して注意をこっちに向けた方が良かったな。

 そんな事を思ったけれど、無事に育生用のリュックと共に子ども用のサイズの世界樹製のじょうろを渡す事ができた。植木鉢と作物の種はラピスさんが渡していたので、今度からは事前にプレゼントについて聞いて回ろう。

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