鏡とふたりごと
よっつの小さな足と、くるんと巻いたしっぽ。
先っぽがおれた耳に、すこし垂れた目。
ひとりぼっちのぼく。
捨てられた鏡を宝物にして、ぼくはぼくを見る。
鏡の中のきみが友だちだったらと、何度も話しかける。
「ねぇ、知ってる? 今日は星がたくさん流れる日なんだって」
鏡の中のぼくは、ぼくとおなじ動きをした。
「流れる星におねがいごとをしたら、そのおねがいは叶うんだって」
おなじ動きをするぼくは、さびしそうな顔で笑っていた。
「ぼくはお友だちがほしいよ」
笑うぼくの後ろには、夜空がひろがっていた。
「君もほしいでしょ?」
ひろがる夜空には、たくさんの星が輝いていた。
「一緒におねがいしようよ」
たくさんの星は、ひとつずつ空から流れはじめた。
「お友だちができますように」
ぼくはおねがいごとをした。
ひとつずつ流れた星は、またたくまに消える。
鏡の中も、本物の夜空にも。
いくつもの星が流れて、空の中に消えていく。
「ぼくときみに、お友だちができますように」
夜空の中に、消えていく。
ぼくは鏡の中の星にねがって、きみは本当の夜空の星にねがって。
ふたりでおねがいごとをしたから、叶うちからはふたり分。
たくさんの星にねがったぼくたちの奇跡は、あっというまにやってくる。
『ねぇ、ぼくのお友だちになってくれる?』
星がたくさん流れる空の下で、にんげんの男の子がぼくを見つけた。
「ぼくも、きみとお友だちになりたい」
言葉はつうじないけれど、ぼくの揺れたしっぽを見て、男の子は笑った。
男の子はぼくをやさしくなでてくれた。
『ぼくのおうちにおいで』
男の子の手は、とてもあたたかかった。
鏡の中のきみも出会っていた。
ぼくと同じく、男の子にだっこされている。
しっぽがたくさん揺れてるよ。
あたたかいね。うれしいね。
やっとお友だちができたんだね。
「ばいばい」
きみとお別れするのは少しさみしいけれど。
鏡の中のしあわせそうなきみに、しあわせなぼくは思いきりしっぽをふった。