資金調達
この広大な用地買収において、莫大な資金が求められた。その資金源として各金融機関から資金を調達することになるが、主な出どころは2つの銀行であった。
一つは日本長期債券銀行(後の新光銀行、以下、長債銀)と房総銀行(以下、房銀)である。二行とも政治色が強い銀行であった。
長債銀は政府が設立した銀行で、債券販売による資金調達で融資を行う長期信用銀行だった。前身は日本統治時代において朝鮮半島で経営していた大韓銀行である。戦後、残っていた資産を元手に開業することになった。
この銀行の特徴としては、無記名債券の発行によって資金を調達するところにあった。無記名であるため、脱税などの表に出しにくい資金をマネーロンダリングする常套手段として活用されようになる。
元より、政府はそれを見越して無記名での債券販売を認めた。戦後復興のため、多少の脱税は目を瞑ってでも富裕層から資金を掻き集めようとしたためである。
こうして掻き集めた資金は復興に必要な産業である鉄鋼・電力・石炭・海運の重点産業への融資に使われた。正しく政府が意図する傾斜生産方式を資金面で支えた。
房銀は千葉県内において有力な地位を持つ地方銀行である。房銀は1958(昭和33)年に「房総銀行スカイ事件」という不正融資事件を起こした。
事件の概要は当時頭取だった古田五郎がレストラングループ「スカイ」のオーナーだった上坂ノブエと昵懇の間柄となる。それを契機に古田がレストラングループ「スカイ」に不正融資を行った。結果、特別背任と公正証書原本不実記載で古田と上坂らが東京地検特捜部に逮捕された。
事件発覚後、「房総銀行事件」として国会でも取り上げられ、房総銀行の信用は失墜した。預金流出を招き業績が悪化し、更に大蔵省から決算承認銀行に指定されるなど事態になった。
古田は頭取を辞任し、その他役員の大半も退任して、大蔵省や日銀から頭取や取締役を受け入れる事態となった。こういった経緯により、房総銀行は政府の意向が反映しやすい政治色の強い銀行となった。
つまり、長債銀と房総銀行は用地買収において、参議院議員砂岡の意向に沿わせることが出来る銀行であった。
資金の流れを記すと以下のようになる。
1.長債銀、房総銀行、京葉電鉄の3社による共同出資で用地買収のダミー会社である「アジア総合経営研究所」(以下、アジア総合)を設立させる。
2.設立されたアジア総合に長債銀が融資する。
3.融資された資金を元手に用地買収(工作費も含む)を行う。
4.地権者が用地を売却後、売却益を房総銀行に預金する。
5.房総銀行は預けられた預金をアジア総合に融資する。この際、アジア総合が買収した土地を以て担保する。
6.不足分は長債銀が追加でアジア総合に融資する。
こうした資金のメリーゴーランドによって、最初の限られた種銭を以て回転させる信用創造で資金を調達した。
これはこれで資金を大量に調達することができるがアジア総合の負債が累積することに変わらず、その金利負担も黙視できないものになった。その金利負担を長債銀が支援するという構図ができた。
これによって、何かと目立つ政府からの資金投入でない形で資金調達をして、山野建設大臣の目を欺いて秘密裡に用地取得をしていった。当然のことながら、これは綱渡りであり買収した土地を政府が買い取らなかったら、破綻するという危ういものだった。