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ダミー会社

 2022(令和4)年9月、東京ドリームランドは新型コロナ禍の中でも営業をして、賑わいを取り戻しつつあった。といっても、全面的な再開という訳ではなくスマートフォンのアプリによる事前予約を行って人数制限を行っていた。そのため賑わいは新型コロナ禍前に比べてなく、人は疎らであった。


 東京ドリームランドを運営しているイースタンアイランド株式会社は京葉電気鉄道株式会社(以下、京葉電鉄)の子会社である。この子会社の前身が株式会社アジア総合経営研究所という表向きリゾート開発会社の看板であったが、これこそが関東国際空港の用地を取得するダミー会社であった。

 直接運輸省が表に出て用地取得に乗り出すと目立ち秘密裡での工作活動にそぐわない。そのためダミー会社を設立し、それを通して用地買収に乗り出すことになった。そして候補地において強い影響力を有していた京葉電鉄に働きかける。


 石山によると京葉電鉄は当初用地取得について、渋っていたという。当時、「財界のブルドーザー」という異名を持っていた大川と大川の支援を受けている建設大臣山野に睨まれることを嫌ったためである。そこで運輸省は京葉電鉄に新空港への鉄道アクセスにおける独占を条件に用地買収の協力を要請し、その条件を以てして京葉電鉄は協力を承諾した。


 新空港について言及した昭和三十八年運輸白書が出版される前年である1962(昭和37)年4月に京葉電鉄が出資する形で株式会社アジア総合経営研究所(以下、アジア総合)が設立された。表向きは遊園地を建設し、それを梃にして宅地開発を行うというものであった。

そして京葉電鉄が遊園地や宅地を東京都心に結ぶための新線を開発するというものであった。

京葉電鉄の秘書室に所属していた石山はこのアジア総合に転属し、連絡調整役として活動することになった。


 こうして設立されたアジア総合は1962(昭和37)年5月、事業成功を祈願するため成田山妙法寺にて護摩祈祷が執り行われた。居並ぶメンバーはアジア総合の主要幹部にアジア総合の依頼で実際の用地取得に当たる地元の不動産会社やその他の業種の経営者たちであった。

 この護摩祈祷には当然のことながら運輸省幹部は出席しておらず、出資者の京葉電鉄幹部や銀行の関係者も姿を見せてはいなかった。元々、秘密裡に用地を取得することが目的である以上、運輸省幹部が出席することなどありえず、京葉電鉄や銀行員ですら目立ちすぎるということで差し控えられた。


 その代わりに地元の不動産会社やその他の業種のガラの悪い経営者たちが黒いスーツや黒い羽織袴を着て、神妙な顔立ちで並び僧侶による護摩祈祷を眺めていた。石山はアジア総合との連絡役で形式上アジア総合の社員として入っており、この護摩祈祷に参加していた。

 尚、この護摩祈祷は通常の護摩祈祷よりも多額の金銭が渡された。これは事業成功を特別に祈願してもらうという意味だけでなく、地元の宗教勢力に遊園地及び宅地開発の支持を取り付けるためのものであった。地元の宗教勢力が反対側に回ると反対勢力の拠り所になって、用地取得やその後の営業活動などに影響を及ぼすため事前に支持を取り付けるのは当然のことであった。


 アジア総合はダミー会社であるため、会社自身の社員数は20人程度であった。実際に用地取得を行うのは地元の不動産業者だった。会社社屋も2階建てプレハブ小屋に電話線が引かれたという粗末なものだった。

社長は京葉電鉄の秘書室長だった市村英樹である。市村は京葉電鉄内での汚れ役またはトラブルシューターとして活動し続けていた人物である。今回の秘密工作には打って付けの人物だった。しかし市村はアジア総合の管理人のようなもので、実質的な支配者は参議院議員砂岡脩造だった。


 砂岡は当時運輸大臣だった園部幸太郎の子飼いの腹心で、過去に園部の爪牙として国家的インフラ建設のための用地買収に辣腕を振るった。関わった買収劇は大阪梅田の大阪駅新幹線ホーム建設に伴う貨物駅移転とそれに伴う用地買収や伊丹空港の拡張工事のための用地買収に及んだ。

今回の用地買収は運輸省主導による秘密工作であるため、運輸大臣園部としたら腹心で過去の買収で成功裏に収めた砂岡に任せるのは当然のことであった。こうして石山は砂岡に下で国家の地上げのノウハウを習得することになる。


 用地買収に当たっての軍資金については、日本長期債券銀行、房総銀行が貸し出すことになった。これらの銀行にはあくまで表向きの京葉電鉄による遊園地、宅地開発、鉄道新線の建設として名目で出資させていた。当然であるがこれらの銀行に対して園部が力強い口添えをしていた。


 また園部は事前に首相、大蔵省、検察庁、警察庁に話を秘密裡に話を通している。本来、秘密工作を行うのであれば、これらの者たちにも伏せておかなくてはならない。しかし、実際に建設予算で大蔵省と関わる以上、首相と大蔵省に話をしておかないと実際に建設となったときに予算が当てられない事態になる。それを避けるため事前に話をつけたのである。

 検察と警察については、用地買収における便宜を図ってもらう必要があった。用地買収において、少々のトラブルが起きても大目に見てもらうためである。検察と警察にしても左翼との闘争を避けたい思惑があったため承諾する。全体として、木更津を候補地として推す建設大臣山野を外すような形でプロジェクトが進行することになった。


 砂岡はこの莫大な資金と政府からバックアップを背景に精力的に用地買収に乗り出した。砂岡の用地買収のやり口を簡単に記すと

「人の心の弱さに付けこむ仕掛けを作る」

というものだった。石山は振り返る。

「砂岡先生のやり方は本当に微に入り細を穿つもので、人それぞれに合わせた方法で篭絡させた。心が弱い人はとことん堕落させる仕掛けを作り、優秀な人であればその者のプライドくすぐらせる仕掛けを作ったりして、結局土地を売るように話を持っていく。近くで見て感心したものだった」


こうして用地買収が始まることになる。

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