続かなかった連載小説
被害者は作家の市川英太郎だった。一時期スランプが噂されていたが、奇跡の復活を果たし、今では連載小説をこなす人気作家であった。
第一発見者は秘書の津雲慎一と、たまたまこの日に近くによった雑誌編集者の川中博だった。この日は津雲が直接原稿を持っていくことになっていたのだが、ちょうど出かけるところの津雲が玄関先で川中と会ったという事で、せっかく家まで来たのだから原稿だけ貰うのでは、ということで書斎によって遺体を発見したというしだい。
窓が開いてカーテンが揺れていた。津雲が原稿をもらって出かけるわずかな時間の間に行われた外部からの侵入者の犯行のように思われた。
大澤刑事は部下の小沢刑事に尋ねた。
「作家って言うことだが、どんなのを書いてたんだろ?」
「知りませんか?ほら、あの『縦線を越えて』という小説ですよ。若い子にけっこう評判ですよ」
「若い子ね。そう言やあ聞いたことあるかな、うちの奴が読んでたような気もするな。もう若くはないけれどな」
「毎回続きを楽しみにしてるんですよ。そういえば、そこの……川中さんだったっけ、今原稿持っているんでしょ」
言われて編集者の川中はどぎまぎした。
「ありますけれど、これはちょっと……。社に持っていかないといけないから……」
「捜査に必要だからぜひ見させていただきます」
本当は捜査に直接関係あるとも思えなかったが。
晴美はしのび声で雅人にささやいた。
「ねえ、どうしてこれがそうなるの?」
雅人は一つ一つ解きあかすように語りだした。
「いいかい、ここがポイントなんだ。だってね、あのとき健一は泣いていただろ。おかしくないかい?健一にとってあれはそういったものではないはずじゃないか。
つづく
これでこの回の原稿は終わっていた。大澤はひっかかるものを感じた。
「津雲さん、あんた嘘ついてますね。この原稿もらった時、先生はすでに亡くなっていたんじゃないですか?」
「そんなことはありません。先生は確かに生きてました」
「さっきこの小沢に聞いたんですがね、先生の奇跡の復活は実はあなたのアイデアじゃないかと。作品を横取りされて恨んでいたんじゃないですか」
「確かに僕のアイデアを利用してましたよ、でもどうして僕が殺したなんて断定できるんです」
「この作品の最後ですよ。これ、あなたも知っていますよ、ダイイング・メッセージだって。『つくも』って書こうとして書き切れなかったのを、あんたが追加したんでしょ。だって変ですよ、これ。まだ書きかけじゃない。会話文なのに括弧で閉じてないでしょ」
川中がたまたまやって来なければ気づかれなかった犯罪だった。
完
パソコン通信NIFTYの「推理小説フォーラム」内で企画された、「1000字以内のお題話」に投稿した作品です。
お題は「続く」