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水平線

作者: 奥野鷹弘

私はいま、生きている…

私はいま、酸素を取り込み水分と体温を調節しながら生きている……


人の波に洗われて、奇岩のように立ち尽くし海を眺めている。


夕方の海は生暖かい。


このまま奥へと踏み進めれば、求めていた冷たさを感じられるのだろうけど、あと何日か経てばそこへ行かずともこの場で休むことは出来るだろう。


私は想う…

念願だったスーツはあまりの暑さで砂浜に投げてきてしまった。結ぶことの出来るネクタイもクールビズスタイルになってしまい、役立たなくなってしまった。給料から叩き出したお金で買った本革のシューズも、研修の積み重ねで靴底が磨り減り分解してしまった。新卒ではない私だからこそ、持ち歩いていた知識の入ったビジネスバックのファスナーがバカになり、情報過多でごみ袋になってしまった……


私はいま、どこにいる---



風に吹かれて波立つ水面に顔を写してみたところで、本当の自分なんてわからない。

人間は二本足で立てるように構造が出来ているのに、押し寄せる水圧に負けては倒れかける。

ひざたけくらいまである海に八つ当たりをしたところで、砂は舞うが地球全体に怒りを伝えさせることなんて出来やしない。

まだ自由でもある右手を心臓に拳をぶつけてみたところで、自動販売機のように感情が転げ落ちることなんてありやしない。



だから私は………両手で海水をすくって口へと運ぶ………。


これでもかと塩分が含まれた水を呑み、思考を窒息死するように仕向ける。

むせてもいい。

これでもかとすくいあげた水を、強欲な口を塞いでいく。



夕陽で照らされた海水は、どことなく赤い。


口から吹き出した海水は、音をたて私から逃げていく---



海沿いを歩いてきた足跡は、波で消されている。

振り返ったところで足跡も無いのなら、私の帰る場所は何処だろう…

もしかしたら自由なのだろうか…


水平線の奥まで歩けたのなら私は何を達成しているのだろう---


人の波で洗われてて、足元を崩したのなら、奇岩が倒れたかのように大きな水しぶきが作られるのだろうか…

その水しぶきが太陽によって魔法が発動し、虹を作れたのなら私はいま海に身を預けても悔いはない。



夏よ、

海を暖めてくれた夏よ。

私はここにいる。私は海に浸かっている………

潮の満ち引きであなたを嫌いになりそうだけど、この海で私は独りじゃないと知りました。

私の含んだ一口に、西側から運ばれた山水を感じました。

私がむせた一口には東から流れた人工の水がお腹を刺しました。

私が置いてきた小物たちは、心中と会話している間に沖へと流されました。


海よ、

遥かな海よ。

あなたに想いを託します。

私の意志を波で小さく削り、私に夢をこの海で築かせてください-----


陽が沈み、月が顔を見せた頃。

静かになった海は白いあぶくだけを砂浜に残し、まだきれいな水だけを海に戻し、海はまた大きな水平線を描き始めた。

海辺から見渡す星屑は誰でもなく、あなたの想い出の数々。


連載小説、砂丘へとつづく--

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