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ブルーヘッド  作者: さち猫
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第1話 篝火花

転生前の事を夢に見て憂鬱な気分になってしまった。

過去に戻ることは出来ない。今更ウジウジ考えても何にもならない。

嫌な気持ちを振り切るように、体を起こし、閉められていたカーテンを開けた。


『うわっ、眩し...』


肩まで伸びた髪を櫛の歯を入れてからまとめ、既に用意されていたシンプルな白いワイシャツと黒いズボンを着る。

使用人の人が気遣ってくれるのは嬉しいけど、あまり他の人に部屋に入られるの嫌なんだけどな。

さっさと朝の身支度を済ませて2階にある自分の部屋を出て、

朝食が用意されているであろう1階のリビングに足早で向かった。


2階に上がる階段を下ると右側に百合の花のステンドグラスの扉がある。その扉を開けると、 入口から1番近い席に座っている髭を生やしたダンディな男性が目に入ってきた。リビングに入ってきた俺に気づき、声をかけてきた。


『おはよう、カズラ』


そう自分を呼ぶ声に何時ものように返事をする。


『おはよう、父さん。』

そう返して、テーブルの上に用意されていた朝食を一緒に頂く。

それがここ数日のルーティンになっている。


『いただきます。』そう言ってナイフとフォークを手に取った。


最初にベーコンを食べやすいサイズに切り分けた。

分厚めのベーコンはスクランブルエッグとトーストによく合う。

トーストにベーコンとスクランブルエッグを乗せてトーストを頬張る。トーストも厚めで耳までサクサクしている。

スクランブルエッグにはチーズも入っていて、一口では上手く噛みちぎれず、チーズが伸びるのも醍醐味である。

そしてスープはシンプルに、キャベツや人参などの野菜を煮込んだものをコンソメで味付けしたもの。

じゃがいもがホクホクで美味しい。

サラダにも野菜が沢山あるが、トマトの酸味とドレッシングの旨み、レタス達にも絡み合って、シャキシャキして美味しい。


食べることは好きだ。取りすぎても太ってしまうので考えなければならないが、それでもこの瞬間は『美味しい』という気持ちに満たされているので、とても幸せだ。


自分の今の家は、昔、もとい前世の時と比べると少しだけ広い。

リビングには暖炉があり、芝生の庭があり、2回には広めのテラスがある二階建ての一軒家だ。

広めのテラスと言うだけでそれなりの良い家だと言うのは分かるであろう。まあ、ちょっとした豪邸ではある。


母の実家は貴族らしく、若い頃に祖父母がここで過ごしていたらしい。

近辺に他の家はないが草木が程よく生い茂っていて、祖母の植えた果物の木が元気よく成長していて美味しそうな実をつけている。


そして今日からいつも一緒に過ごしていた母は居ない。

亡くなった訳では無い。むしろすこぶる元気だ。

何故居ないのかと言うと.....



『なあ父さん。どっちだと思う?』

朝食を完食した後、食後のお茶を嗜んでいる父に尋ねてみた。

すると、父は顎に手を置いていたずらっ子のようにニヤリと笑った。


『ふむ...どちらでも当然嬉しいが、やはり娘も欲しいな!』


娘、と聞いて少しだけ複雑な気持ちになった。

両親には私の前世の事を話していない。


『...父さんセクハラ親父みたいな顔してる』

『む。そうか?!』

『うん。仮に娘だったとして成長したらキモがられそう』

『ぬぅ...気を付けておこう...!』


母が家にいない理由。

それはこれから新しい家族が産まれるからだ。


家からは病院のような施設は少し遠い。

なので大まかな出産予定日前から、自分の家に一番近い産婆の家に泊まり込んで出産の準備をしている。

今家は自分と父と両親の使用人数人で過ごしている。


今年で自分は8歳になるが、前世の記憶があるせいで、

年齢以上に大人びている。

既に成人した記憶があるというのに、子供らしく振る舞うのはさすがにきつい。色々と。

言葉が喋れるようになったと思ったら両親の会話の内容を理解して話題に入ってくるものだから、そりゃ驚くだろうさ。


故に、家では通常の8歳児と父親の会話ではない話題が飛び交うことが多々。数年前に来た使用人の人も毎回驚いている。それも慣れてしまったが。


『そうだカズラ。学校の方はどうだい?楽しいかい?』

『いや、あんまり楽しくない。正直に言って周りがうるさくて。....そのせいで友達いないけどさ...。』

『そうか.....ふむ....。』


8歳の男児なら好むであろう遊びはには一切興味が無い。

例えば、流行りのおもちゃで遊んだり、外に行って走り回ったり、

これらは本当に微塵も興味がわかない。

故に、他のクラスメイトから遊びに誘われることもないし、自分から誘うことも無い。

転生してからこの世界で初めてであった魔法や防具などにしか興味がないため、休み時間はずっと図書室で引きこもってる。


『お友達と一緒に遊ばないの?』とクラスの担当教師から気遣われることもあったが、自分に遊ぶ気がないと分かると、そっと見守る方にチェンジしたらしく、最近は言われなくなった。


大人になってからよくわかった.....この時期ほど勉強に適している時期はないと.....!!

前世では興味があってもお金とか親の意向とかで学べないことがとても多かったので、今だからこそ.....今だからこそ、知識を染み込ませなければ....!!

正直こっちの方がめちゃくちゃ楽しい。

話が合う友達が居ないのが寂しいけど。


前世での親なら、この話題に対して興味はわかないで親の愚痴か趣味の話で終わっただろう。

けど、俺の父さんは俺の事を真剣に考えて、友達が居ないという些細な悩みにも一緒に悩んでくれている。

本当に恵まれた親の元に生まれたようで自分は幸せだな。


『....なんだ、カズラ。随分嬉しそうだな。』

『んー...父さんが一緒に悩んでくれるのが嬉しいんだ。』

『そうか?私に出来ることは少ないからなぁ。私なりにカズラが過ごしやすいように、と考えるのは親として当然だろう?』

『....そっか。』


本当に恵まれた親の元に生まれてこれてよかった。

....本当はもっと前世の親に親孝行出来たらと思っていたが、それはもう叶わなくなってしまった。

だからせめて、今の親元では良い息子であろうと努力しよう。


『そうだ。カズラ、エニシダ嬢と会ったことはあるか?』

『んえ?誰??』


思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

エニシダという花がある事は前世の知識で知っているが、

人物名らしい【エニシダ】は、今生で聞いたことは1度もない。


『会ったことは無いのか。母さんが会わせているかと思ったのだが....。母さんの御兄妹の一人娘だよ。彼女も本を読むのが好きでね。親しみを込めて【本の虫のエニシダ嬢】とよく使用人が話しているのを聞くが.....聞いたことはないか?』

『いやごめん全く。』


こちとら自分の事でいっぱいいっぱいなもんで使用人同士で会話しているのは全く耳に入ってきていない。

しかし....


『本の虫って...それ褒めてるの???』

『親しみ、を、込めてだな』


そう言うと父はいたずらっ子の様に笑って見せた。


『カズラ。エニシダ嬢に1度あってみるのはどうだ?今日は学校休みだろう。』


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