1 夢か現か 〜プロローグ〜
ーーどうして?ーー
ーー何故ーー
ーー分からないーー
ーー私は間違えたの?ーー
ーー分からないーー
ーー分からないわーー
ーー私はただこの世界が悲しかったーー
ーー醜く争い続けるこの世界がーー
ーー皆が笑顔を忘れて苦しむ姿がーー
ーーだから私は皆が笑顔になれるようにーー
ーー”力”を生んだーー
ーーなのにーー
ーー何故?ーー
ーーどうしてこうなったの?ーー
ーー分からないーー
ーー分からないーー
ーー私にはーー
ーー分からないわーー
ーーごめんなさいーー
ーー力になれなくてーー
ーー誰かーー
ーーお願いーー
ーーこの世界をどうかーー
ーー助けてーー
**********
「えっ、待って。どゆこと??」
暗い闇の中、1人の少年が呟いた。
「ーー確か。俺、授業受けてたよね??」
そう、あれは確かに現代文の授業だった。
いつも通りの日々。いつも通りの眠気。いつも通りの夢の中へーー
「って、これ夢か!」
夢。それならそう慌てることはない、そのうち目も覚めるだろう。
「しっかし、ここどこだ?夢と言えどもこんな暗闇…」
「グルルルルル……」
ふと低い唸り声が聞こえ、振り返る。
目を凝らすと、それは見えた。
赤く光る3つの光。
周りには樹々が生い茂り、空を見上げれば丸い月が浮かんでいた。
そこは明かりもない夜の森。目を凝らして見なければ、すぐに暗い闇が視界を覆うような場所だった。
「ーーどゆこと??」
思わず苦笑いしてしまう。
どう考えても知らない場所。
なのにその感覚は恐ろしくリアルで、生暖かい空気が肌を撫でる。
《確認しました。スキル【夜目】を入手しました》
機械じみた声が響き、ビクッと肩が揺れる。
その瞬間、暗い闇が視界から消え、俺の目の前に薄暗くもハッキリと見えた。
「グァルルルル……」
それは多分、狼だった。
ーー何故多分なのかと言うと、そいつには赤く光る3つの目が有った。
普通狼には、いや、動物には3つの目はない。黒い体に赤く光る目。口元からは白く輝く牙が見え、ツヤっぽい涎が滴っていた。
「マジかよ…」
今にも飛び掛かって来そうなそいつから距離を取ろうと、俺は後ろへ下がる。
『パキッ』
何かが枝を踏む音が聞こえ、恐る恐る、ゆっくりと俺は振り向いた。
「「グァルルルル……」」
「ーー嘘だろ」
振り向いた先に見えたのは、赤く光る目。目。目。目。目。目。目。目。目。目。
その口元から見える、涎の滴った牙。牙。牙。牙。牙。牙。牙。牙。牙。牙。
目の前に立つあいつと同じ、3つの赤い目を持った狼。
「グァルルルァ!!」
1匹の掛け声と共に、全ての奴らが動く。
ーーあ、俺死ぬわ。
飛び掛かって来た奴らを見ながら、俺はそんなことを思っていた。
ーーそれが夢だと。ーー疑わずに。
「…はは、明日。あいつらに話してやr」
『『ゴキッ』』
痛い!!!!????
『『バキッ』』『『ベキッ』』『『ボキッ』』
聞こえてはいけないおぞましい音と共に、響く痛み。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い喰われてる喰われてる喰われてる?喰われてる??喰われてる、喰われてる!!喰われてる!!!!喰われてる!!!!!!!!
「……っ!!やめ…っ」
『『『グシャッ』』』
悲痛の叫びはやつらには届かず、その代わりに響くおぞましい音だけが暗い闇の中へと吸い込まれていった。
《ーー確認しました。スキル【恐怖耐性】を獲得しました》
《確認しました。称号【暗狼の餌】を獲得しました》
《確認しました。称号【暗狼の餌】を獲得したことにより、称号【被食者】を獲得しました》
《確認しました。称号【被食者】を獲得したことにより、スキル【迷い人】を獲得しました》
《確認しました。スキル【迷い人】を獲得したことにより、案内人を召喚します》
《ーー確認しました。案内人【死神】を召喚します》