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いつか終わる物語  作者: むらさき毒きのこ
6/70

ちょっと、撮らないでくれますか!

【登場人物】


真円(まどか)・・・女子高生。球状である。


◆ママ・・・真円の母親。死んだ夫が残した莫大な遺産を相続し、悠々自適の暮らし。普段は新種の猫の世話をしている。


◇おだんご・・・白・ピンク・新緑色(しんりょくいろ)の、お団子型の猫。


◆スガさん・・・おだんごの天敵。人面鳩。参謀タイプの目立たない容貌ながら、見た目からは想像もできないくらいに思い切った事をする。他の鳥たちからは「おじさん」と呼ばれている。


◇ゲンさん・・・立川市に住む老人。スガさんの元飼い主。趣味は盗聴と盗撮。メチャクチャエロい。


屍壊(しえ)・・・真円の同級生。女子高生ゾンビ。借りたものを返さない。


◇お隣さん・・・真円の家の庭の一角に、勝手に小屋を建てて住み着いている夫婦。まどかの事を「お嬢様」と呼ぶ。


◆パパ・・・実験中の爆発事故により死んだ、科学者。新種の猫に全生涯を捧げた奇人。元貴族で資産家一族の、最後の生き残り。真円の事を「我が作品」と呼んでいた。


***


 教室のいつもの席に座ると、なにやらざわついている。……いや待て。この、甘ったる酸っぱ臭い刺激的な香りは、もしや。


小倉(おぐら)さん、もういいから。帰って」


「はい、お嬢様」


「はい、お嬢様」


 毎朝なぜだか私の学校についてくる、お隣の小倉さん夫婦にチップを渡し、教室の真ん中の人だかりをクリクリかき分けた。……屍壊(しえ)が床に散らばっている。朝から、しょうがないなあ……


「みんな見てないで『ジャー』に屍壊を詰めるよ」


 呼びかけても、クラスメイト達は嬉しそうに私を見ている。小さい子みたいに。世界初であり、唯一ただひとつのマシンがそんなに珍しいんだろうか、いまだに。


 丸型人間回転運動利用車いす「MARIMO」は、もう随分前の型なんだけど。最新のADL(activities of daily living)補助機器といえば、屍壊の、炊飯器型サポートボックス「ドクタージャー」は断然かわいい。超高速損壊部位治癒機能が唯一無二。一部ネコ型だし、とにかく見た目が、癒されるんだよね。それに比べて私のは何か、でかい宇宙ゴマ。私が「MARIMO」で歩くと、子供連れた主婦が私を見るなり恐怖の表情をあらわに、子供抱えて逃げる。


「……ンだよ、まったく」


 頼りないクラスメイト達は放置で、頬の横にあるセンサーに、三回タッチ。


「ぷに、ぷに、ぷにーーー(長押し)」


「MARIMO」の追加機能「おそうじノズル(コウガイビル型)」が、スイスイ屍壊を片付ける。すると、さっきまで静かだった子たちが「ゴーストバスターズ!」とか言って大騒ぎし始めて……


「チッ」


 もう嫌。まさかコレ見たくて、屍壊を放置してたの、あんた達。信じられない。気分悪いんですけど帰っていいですか。ほんっと、同年代って嫌い。ゾンビは見せもんじゃねえんだよ! 溶けたらサッサと「ジャー」に放り込む! 


 腹が立ってしょうがないんだけど、とりあえず屍壊を「ジャー」に流し込んで、「炊飯」スイッチを押してから(ふた)をした。十五分経てば、ヒトの形になるんじゃないの。しらんけど!


***


 屍壊の回復待ちで授業が二十分遅れたなあ。まあ、いつもの事だよね……ん? あれ、何だろ。窓枠にいるの、スガさん(ヤマバト)じゃね? 何でこんなとこに……わ! 光った!


「ちょっと、撮らないでくれますか!」


 私の叫び声で、ぼんやりしてた子たちがスガさんに気が付き、あっという間に、スガさんの周りに人だかりができた。


「この鳩、(ふる)いカメラで撮影したよね、僕らの事」


「フラッシュっていうんですよ、あの光は」


「昭和の遺物博物館で見ましたよ、あれ。『(うつ)さないでくれないか』っていう商品名なんです」


「私、始めて見たー。すごいね『撮さないでくれないか』って変な商品名」


「この鳩、おじさんみたいな顔してんねマジかわいい」


「キモかわだよね」


「キモくはない」


「いやキモい」


「キモいって言うな」


「やめなよ」


「いい子ぶってんじゃねえよタコ助」


「はあ? あだ名禁止条例違反で通報するよ?」


「やれるもんならやってみなベイビー」


「し〇! (蹴り)」


「おまえこそし〇! (肩掴んで蹴り)」


「なかよくしようよー(泣)」


「愛美ちゃんを泣かす奴は許さない! (硬派)」


「出たよ正義くん(笑)」


「正義なんてものではない! (エロス)だ!」


「おお!」


「おおおーー!!!」


「何で俺の心の声を代弁してんだよ?! (硬派マジ切れ泣き)」


「……(愛美、石化)」


 どいつもこいつも、スガさん囲んで遊んでる場合じゃねえんだよ。うちら撮影されたんですけど、あの(スガさん)に。勝手に撮られたんだよ?! 肖像権とか、もう、もう……みんな何でそんなに、もう……つらい。帰りたい。こんな時だというのに、担任がおいしそうにアイスを食べている。しかもスガさんは薄笑いを浮かべ、様々な位置や角度からクラスメイトたちを撮影し始めた。鳩のくせに……


「先生、疲れたので帰ります」

「真円さん、大丈夫ですか? 使用人の方に来てもらいますか?」

「いいです。それにあの人達、使用人とかじゃないですから。勝手にうちの庭に住んでる、お隣さんなんで」

「……(どういう状況だよそれ)そうですか。わかりました。おだいじに」



……

…………

 しゅう。

 ぱか。

 ふう――――。

………………

 びしゃっ! びしゃっ! びしゃっ! 



「真円ちゃん、もう帰るの?」


 あ、屍壊。裸だ。……スガさん、撮ってんじゃねえよ。


「屍壊、起きたの。うん、今日は疲れたから」

「一緒に帰ろう」

「いいけど、服着てからね」

「わかった。……おい、上田」

「……っはい! 何でしょうか、屍壊(まおう)様」

「服をよこせ」

「……はっ!」


 目覚めた屍壊は、上田君からビッグサイズの「包帯した熊」柄ジャケットを奪い取ると、紫色のゼリーを滴らせた裸の体に、羽織った。


「明日返すよ」


***


 ああ、休み時間のベルが鳴る……


***


 屍壊の約束は当てにならない。さっきまでクラスメイトにムカついてたけど、今度は気の毒に思えてきたのだった。


***


挿絵(By みてみん)

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