野良猫幸福論
猫が考えた、猫のための幸福。
***
痩せた縞猫が、がっかりした様子の白猫にまくし立てている。
***
だいたい、わたしが産んだ子供らの父親が誰かなんて関係ないだろうよ。
店で売られる商品なら話は別だが。
わたしら野良猫、人間の都合なんか知った事じゃない。
家なんかなくたって平気さ。その辺に潜り込めばいい。
子供らはそのうち勝手につがいになって、どっか行っちまう。
「可哀そう」、それって私らの事かい。
お前たちこそかわいそう。やっちゃダメな事ばかりじゃないか。
爪とぎ、運動、エサ、それに……ゾッとする風呂とかいうやつ……嫌だねえ。
爪なんか、その辺で好きに研いだらいいだろう。
運動? なんでわざわざしなきゃならない?
生き血を食べちゃダメなんて、どうかしてるね。何だいあれは、毎日同じ味の……あんなもの……
子供らは今、遊びに行ってるよ。
ええ? 夜は危険だ? ……馬鹿かい?
猫が夜遊ばなかったら、いつ遊ぶんだよ。何にも知らないんだねえ。
全く。話にならないよ、帰りな。頭痛い。
***
白猫は、猫世界の役人だ。
「要注意案件」への訪問が、彼の仕事。
縞猫のねぐらは汚れ放題で、白い手が灰色になった。
猫の仔らは農閑期の田んぼを飛び跳ねる。12匹の蛍が飛び交う、いや、6ッ匹の子猫か。
「いいなあ。俺も野生に還りたいもんだ。いや、奴らだって、野生では無い。こうして、政府の管理下で、最低限度の暮らしを保証されてるんだから。参ったなあ。もう、真に自由な場所など、無いのかもなあ。野生って、何だろう。……苦しいなあ。死んじまいたいよ、全く」
リボンみたいな形の星座は、漆黒の髪を飾る。運命の女神。彼女は気まぐれ。
猫世界が終る時、野生は再び力を得て残虐な喜びの遠吠えが、夜明けを告げる。