兄弟子
「遁良さん、俺と話すとき、たまに様子がおかしくなるのはなぜなのですか。何か、お気に障る事でもしましたか」
珍良はようやく、秘めた不安を吐き出した。
「……珍良。気に障るなど、とんでもない事だ。それに、様子がおかしいなどと思われていたと今知って、少し動揺している」
震える声で遁良は答えた。
「ではなぜ、私に触れると、すぐさま手を引っ込めたりなさるんですか!」
珍良は、思わず兄弟子を怒鳴りつけた事に自分自身で驚きつつ、もう後戻りはできないのだと、心に決めた。固まる遁良の手首を掴み、両腿の間にずいずい入り込むとそのまま覆いかぶさる形で、乱し乱れた胸元どうしをぴたりと合わせ、汗ばむ皮膚の感触に熱くなり、呼吸が荒くなる。
「……珍……良……さん……。ダメ……っ! ですよ……! ……分りますよねっ……!?」
遁良は珍良の手を腿から払いのけ乱れた浴衣の前を手繰り寄せると、姿勢を正し、朱の盆の上に置かれた酒杯をチラリと見てから、正座した膝の上で手を重ねて目を伏せた。盆の上に散る、螺鈿の桜の花びらが、やんわり白く際立つ。
「ダメなものか……あなたは……いえ、私はあなたにっ! 恋をしている……」
珍良はそう言うと、遁良の手を取った。怖がる遁良を、優しく包むように。じっとりとした手のひらの感触が、さきほどの出来事を想起させ、遁良の頬を熱くさせる。
「!」
視線が絡む。
「好きです」
珍良の声が、ギラギラと潤む鋭い目が、遁良の芯を疼かせた。
……なし崩し。
***
二人の間に何があったのかは、謎である。




