世紀末痴女伝説Y子より、ネコの愉悦
「ねえ、お姉ちゃん。何で大人なのに毛が無いの?」
好奇心旺盛な女の子(12)に聞かれ、こう答えるY子。
「ピンセットで一本一本抜いてんのよ♡」
女の子は驚いてさらに質問した。
「剃っちゃだめなの?」
Y子は泡立てネットにボディーソープを垂らしてもこもこ泡を作りながら
「剃ったらチクチクして痛いじゃん。自分も相手も」と言って、胸に泡を乗せた。
「ふーん……お姉ちゃんが、剃っちゃえ剃っちゃえ、全部剃っちゃえ、って言うんだけど」
そう言って己のフワフワなまだら毛を不満そうに見る女の子に対し、Y子が「抜いた方がいいわよ」と言おうとしたその時。
「結花、何してるの」
「あ、ママ」
サウナから出てきた真っ赤な体の女性がY子をチラリとみてすぐに目を伏せ、水風呂に行く。女の子は名残惜しそうにY子を振り返り、母親のもとに行った。
「丘の湯」。某遊園地に併設された、スーパー銭湯。Y子は体を洗い終え髪をまとめると、露天風呂に向かった。太陽の下、紅色に染まった肌を外気でクールダウンするY子。その目は、女たちの体を品定めする。
ああ……あの子は若いが、お尻が黒ずんでるわね。座ってばかりいるのかしら……背中のニキビは、ちゃんと洗えていないか……もしくは普段湯船に浸かっていないのか……惜しい。
あの人は……顔は若いが、お尻から下のシルエットが……ひよこね。歳をとったら、少し肉が付いていた方がいいのよ……服を着ると、いい感じなのよね、あのタイプは。
ああ、もう。まな板に干しブドウ。……気を付けなくちゃね……。何だかんだ言って、ムチムチがいいわよね……脱いだら。
あらまあ、痩せてるのに凄いわね。出るとこは出てる。あのタイプは、学年に1人か2人ね。
「はあ……女の裸にも飽きたわね……ふふ。んふふふぅ……」
Y子が、男女の浴場を隔てる、竹製の塀垣に情欲の視線を投げかけたその時。
「そうはいかんぞ、Y子」
Y子は首筋にゾクゾクするような息遣いを感じ、振り返った。
「その声は、メフィスト春馬……?!」
Y子の、腰に巻いていたタオルがハラリと解けた。Y子は背すじに、身に覚えのある熱いモノが押し付けられそして上半身に巻き付く腕の締め付けとともに蠢くものを下腹部に感じた。ドキリと高鳴る心臓。流線型のシルエットが歪む。Y子は侵入される感触に、声を上げそうになるのを抑えようと指を噛んだ。
「Y子、あの頃と変わらないな……いや、むしろ毛が薄くなったんじゃ無いか?」
「!」
声の主を捕えようと、息をひそめ周囲を見渡すY子。
――他の女客たちは、メフィスト春馬に気が付いてないようね――
「ここで、するの?」
もはや躰に火が点いてどうしようもなくなったY子が、メフィストに喘ぎつつ囁いた。
「お好みならば」
メフィスト春馬が応える。
――どうしよう! いますぐしたいけど、さすがに変態過ぎるよね! 皆、メフィストの事が見えてないわけだし。私ひとりで揺れて悶えてたら変態じゃん! 恥ずかしいー!――眉間を寄せ、汗ばむ体と苦悶の表情で、Y子は決断した。
「ねえ、その、あなたみたいに透明になるの、どうやったら出来るの?」
Y子に尋ねられ、メフィスト春馬は嗜虐的な表情で答えた。
「ふふ、簡単だ。欲望を開放するんだ……全ての、心の枷を、取り払う。そう……魂が裸になる……剥き出しの欲望を見せてみろ……!」
メフィスト晴馬が畳みかけるように、Y子の耳の穴を舌でネチネチ蹂躙する。そしてその動きに呼応するリズムで悶えるY子。とどまる事を知らない、メフィスト春馬の攻撃。
「もう、だめーっ!!」
Y子の精神が、堕ちたその時。Y子の肉体は、風呂の湯気と共に上空に上った。
「ハア……ハア……ハア……。あれ。何か、変。」
銭湯周辺の山道を上空から眺めながら、Y子は息を整えた。
「そうだ、それでいい。魔人の能力『霧散』だ。だが、このままでは幽霊のようになってしまうな。次は『再構築』だ。そうだな……猫になってみろ」
手短に指示するメフィスト春馬。その焦った様な言い方に対し、Y子はこう思った。――きっと、彼も我慢できないんだわ――
***
生まれて8か月くらいの、成猫になりたてのような白猫に背後から覆いかぶさる、背に傷を負った黒猫。白猫の首根っこに噛みつき、逃げないように押さえつけている。
「アオオオオオオーーン!! ア・オオオオオオオオオーーーーン!!!!」
(いたーーーーい!! やめてーーーー!!!!)
「ハグハグハグハグハグ」
(すぐ終わるから我慢しれくれ。痛いのは、オス猫のはトゲがあるから。痛い目に遭いたく無ければ、痛いのを我慢してくれ)
そんなネコ達の様子を見た山の麓の建売住宅に住む「ちいちゃん(7)」が、路上の猫達を指さし祖母に涙ながらに訴えた。
「白猫がやられてる!助けなきゃ!」
祖母はセブンスターをふかしながら、笑った
「天国見てるんだよ、ほっといてやんな」
「ええ~」
ちいちゃんは、納得がいかない。
(おばあちゃんのバカ……)
ちいちゃんの、祖母に対する不信感の芽生え。それは、家族の関係を少しづつ変えていったのであった……。




