箱入り娘
鉛筆は一ダース十二本だ。なのにこの教室ときたら、三十二本も入ってる。いや、三十二名か。そんなこと、どうでもいいくらいに暑いのだからもう、単位なんか気にしちゃだめだ。いや、単位は落としたらダメだけど……ううん、そんな話じゃ無くて。とにかく、生きてる気がしない。それだけは、確実だ。
テスト勉強の役に立たない授業で時間を無駄にする教師の講義はイライラするが聞き逃したら後が怖い。だから緩慢なリズムでヘッドバンギングし始めた私は目を覚ましたくて、手の甲に0.5ミリのシャープペンシルの芯を突き刺した。
刺青。いずれ蝶になるはずのそれは、いまはただの赤い穴。体の重さに逆らって立ち上がった私を、右隣の席のゆーきが見上げた。
「先生、気分が悪いので保健室に行きます」
羽毛田先生は私を見た。
「ああ、そう」
授業は止まらない。五十分という定めを守るために、ラインを止めるわけにはいかないんだ、生産を止める事は許されないし規格外製品はそっと、リサイクルか、さもなくば廃棄されるのだ……またはまとめて百円で売られている、あの子たちもきっと、箱に入るまでにどこか欠けてしまったのだろう。
かわいそう。
かわいそう。
かわいそう。
いっそ私たちも一ダース十二本と言われてしまったらいい。この欺瞞の世界の事実を突きつけられて、堂々と怒ってみたい。なのに、美しいレールに乗るためにあの子たちは私を見ないし、私もあの子たちの事をバカにしてる。
かわいそうなのは、どっちだ。
もう、どうしようもなく、いびつなんだよ。誰か、たすけてください。