お泊り
「ど、どうぞ」
ぎこちなく、詩織を部屋に入れる。
「お邪魔します」
詩織がうちに入るのは二回目だ。
だが、前回は真昼。全然状況が違う。
「結構あるね」
冷蔵庫から出してきたお酒に詩織が言う。
確かに、10本ほどある。
「お酒先輩にもらったばかりだから」
この前、野球サークルの男子の先輩たちが宅飲みに来たのだ。
未成年で、酒を買えないから、手土産で持ってきてくれた。
「じゃあ、改めまして乾杯」
詩織は、酒を受け取るとさっさとコップに注ぐ。
「うん」
俺は緊張しっぱなしだ。
詩織は、初めから酒が入っていたこともあり、どんどん喋ってくる。
ソフトサークルが楽しいこと、バイト何にしようか迷っていること、
テストの出来があまり良くなかったこと。
だが、俺の頭はいっぱいいっぱいだった。
どうしよう。
俺だって男だ。
詩織もそのくらいわかっているだろう。
自分からこんな夜中に男の部屋に行くといったのだ。
何も考えていないとは思えない。
でも詩織だからなぁ
俺はただの腐れ縁で、男として見ていないかもしれない。
そもそも、俺はゴムを持っていない。
展開が想定外過ぎるからだ。
コンビニで買って来ればよかったな。
でも、詩織になんて言ってコンビニに入ればよかったのだろう。
そうこうしているうちに、ただただ時間は過ぎていった。
「詩織、時間大丈夫か?」
お酒が入り、もはや一人で話しまくっている詩織に聞いてみる。
「ああ、もう日付変わっちゃったね」
詩織は時計を見る。
こんな夜中に送っていくのはめんどくさいからな
うん、そうだ。送るのはめんどくさい。
「よかったら泊まっていくか?」
何杯酒を飲んでも酔えない。
さりげなく言ってみたが、声は少し震えてしまった。
「ホント?」
そして、少しの間がある。
「じゃあ泊まる」
詩織もさっきまでとは違い、低い声で言った。
震えそうな声を抑えようとしているようだった。
「へへ、ゆうちゃんと寝るのいつぶりだろう」
来客用の布団を敷きながら詩織が言う。
部屋が狭いので、二つの布団はくっつけないと敷けなかった。
あの、詩織さん
確かに、お泊り会は幼馴染あるあるです。
でもね?でもね?
俺たちは昔の知り合いであって幼馴染ではないでしょ
あなた懐かしそうに言ってるけどね
一回もうちに泊まったことないからね!?
「ないだろ」
心の中では叫びまくっていたが、表面上は冷静に突っ込む
「そうだっけ?」
詩織は言った。
そしてしばらく二人の間に気まずい沈黙が続く。
どうやら詩織は必死に話題を絞り出していたようだ。
冷静に突っ込んですまない。
「先にシャワー浴びていい?」
詩織が口を開ける。
「うん、、、」
答えたが、詩織に聞こえないほどの呟きになってしまった。
「じゃ」
詩織がバスルームへ入っていった。
やばいやばいやばいやばい
詩織がバスルームへ入ると同時に布団にもぐりこんだ。
俺の頭の中は作戦会議を始める。
理性も本能も過去も将来も焦っていた。
どうする?今からコンビニに超特急で行ってゴム買うか?
でも、コンビニも遠い。外に出ている間に詩織が出てきてしまうかも。
ナマでしてしまって妊娠させたら終わりだ。
体の毛剃っておけばよかった。まあ、あまり濃くはないけど、、、
ていうか、そもそも詩織とヤルの?
万が一、向こうにその気がなかったら大変なことになる。
いや、その気がないことはないだろ。あの態度を見れば。
でも、詩織のことだ。ただのお泊りのつもりかも。
それに、処女が付き合ってもいないのに体を許すとは考えられない。
じゃあ、このチャンスをみすみす逃すの?
絶対に後悔するだろ。
でも、最初に言ったようにゴムがない。
こんな会話をぐるぐる頭の中で周らせていた。
気が付くと、シャワーの音が止まっている。
今、体を拭いているところか?
やばいやばい
もうすぐだ。もうすぐ出てくる。
ドライヤーの音が聞こえてきた。
ドライヤーが終われば、詩織が出てくるんだな。
俺はドライヤーの音を聞きながら、昔の詩織を思い出していた。
男子に混じって鬼ごっこしていた詩織。
みんなが俺の家に遊びに来た時詩織もいたっけ。
小学校の夏祭りの詩織。
久しぶりに一緒に遊びなさいって、母親に言われて渋々一緒に巡った気がする。
中学の詩織。
もう、地域のお祭りでしか見かけなかった。
友達らしき女子と一緒に楽しそうに回っていた。
大学で再会した詩織。
ボーイッシュな雰囲気のままだったけど、綺麗になってて
俺を幼馴染と呼んで懐いてくる。
本当に抱いていいのかな、、
詩織は俺のことをどう思っているのだろう。
男として見てくれているのか。
わからない。本当にわからない。
俺はどうすればいいんだ、、、




