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07 伯爵はウェズを雇って良かったと思いました、まる

 その日の事。

 私たち伯爵家のお屋敷たるシュルーズベリー・エステイトの執務室。

 そこに部屋の主である私――シュルーズベリー伯爵の姿がありました。

 私は執務室に備え付けられた立派なテーブルに着席しながら、片付いたテーブルの上を見て安堵します。


「よし!仕事はおしまい!」


 お仕事が少ないというのはなんと素晴らしい事なのでしょう。

 私が両手を上げて軽くのびーっとしたところで、


「アルシア、お疲れ様でした」


 そう言いながらお姉様は、お茶の準備をします。

 コポコポコポ……と、お茶とお湯が混ざりあう音が、聞こえた後、


「はい、どうぞ」


 と、お皿に載ったティーカップとお茶菓子が差し出されました。


「お姉様、ありがとう」


 私がお礼を言うと、お姉様はニコリとほほ笑んでくれます。


 私はティーカップに口を付けると、「ふぅ……」とため息を漏らしました。

 この味と香り、澄んだ琥珀色。

 お姉様の入れてくれたお茶は、正直言ってとてもとても美味しいのです。

 でもそれを言うと調子にのってしまいますので、直接言ったりはしません。


「ふふふ、美味しかった?お代わりもあるから欲しかったら言ってね?」


 ……まぁ、あえて言わずとも伝わるものはあるようですね。


「それにしてもウェズを雇って本当に良かった。彼のお陰で私の仕事が激減しました」


 本来の仕事量を想像して、私は体躯からだを震わせました。

 それを聞いたお姉様は、


「ね?私に頼んでよかったでしょう?」


 と、明らかにドヤがおをします。

 もぅ、お姉様はスグ調子に乗るんだから……。


「はいハイ、お姉様には感謝してますよーだ」


「もぅ、アルシアは本当に感謝してるんですか?」


 そう言ってお姉様は一転、むくれかおになります。

 ふふふ、そうやってむくれたお姉様も可愛いですよ。


 でも、本当に感謝していますって。

 領民の陳情対策や、これからの計画作成、そして経理や徴税。

 本当になんでも出来るんですもん。

 勿論もちろん今までアルジーが出来なかったわけではありません。

 しかし、さすがに一人では手が余ったのでしょう。

 私から見た限りでも日々の業務は円滑に回っており、アルジーの立場からしてもかなり楽になったと思います。

 さすが名門学院を優秀な成績で卒業しただけの事はありますね。

 聞けば王国陸軍では兵站担当士官だったらしく、この手の作業の素人では無いようです。

 と言っても、領地経営などの経験は乏しいはずなのですが、少なくとも私などよりかははるかに上でしょうね。

 さすがは侯爵家の血筋です!


 いや……本当に領地経営とは難しいのです。

 お父様がアルジーに丸投げしていた気持ちがわかります。

 と言っても今の伯爵家の財政状況を作り出したのもお父様なので、そこに関しては肯定できませんが……。

 とりあえず、お仕事は可能な限りお二人にドンドンと丸投げしていこうと思います。

 そうして、無事財政状況を好転させたら、なんとかお姉様を還俗させて伯爵を継がせ、私はまた錬金術の研究に打ち込みましょう。


「それにしても公共事業ですか……、やはりウェズは考える事が違いますね」


 ウェズが立案してきた計画書に眼を通した私は、そう言葉を漏らします。


「公共事業?アルシア、なんですか?それは」


「どうも領地の仕事に領民を積極的に使う事によって需要を創出するとかなんとか書いてあるけどね」


「???アルシア、良く分からないわよ」


「まぁ要は領民に仕事と引き換えにお金を与えて、領内での経済活動を活発化させようという事みたい。具体的には道路の整備と住宅建設を勧めてるわね」


「住宅建設?」


「うん、古くなった領民の家の立て直しね。それと共にアパートメント形式にして集約する事を提案してるのよ。領民の家も大分傷んでるのが多かったし……」


「ふーん、そうなんだ」


 今から着手すれば冬前には完成出来るだろうと計画書は結んでいます。

 必要な資材、それに伴う支出の計算から何まで全て書いてあります。

 まぁ、それでも実際に作業に入れば計画書との食い違いがいくつかは出てくるとは思いますが、少なくとも資料上には不備はみえません。

 まるで教本に載っているお手本のような素晴らしい計画書です。


「それにしても……やっぱり領地運営って面倒くさいなぁ……」


 お茶をすっかり飲み干し、空になったティーカップに、お姉様がお代わりを淹れてくれながら言います。


「でも、アルシアはこうしてうまくこなしているじゃありませんか」


「……本来なら、これは全部お姉様がするはずだった仕事なんだけど?」


 私はお姉様をジト眼でじっとみつめながら言います。

 そうです、そしたら私はまた学院に戻り、錬金術の研究を続けられたのです。

 でもお姉様は私の視線を涼しいかおで受け流すと、


「あら?でもそうしたら誰がお亡くなりになったお父様やお兄様がたの冥福を祈ってあげるのですか?」


 そう言ってお姉様は怖いかおをして、


「あまり死者をぞんざいな扱いにすると、化けて出てくるかもしれませんよ?ただでさえアルシアはお父様たちと折り合いが悪かったのですから」


「それは……会いたくないですね」


「そうでしょう?ですから私が神の道に入り、こうして毎日冥福を祈っているのです」


 そう言って、お姉様は祈るポーズを取りながらニコリとほほ笑んだのでした。

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