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06 伯爵は人を雇う事にします

「んー……」


 やっぱりこのままじゃダメね、

 私はお茶菓子を摘まみながら考えます。


「どうしたのアルシア、難しいかおしちゃって」


 良い匂いをさせているお茶の入ったカップを静かにテーブルに置くと、お姉様はそうおっしゃいました。

 うーん、この人は本当にいつ教会に行っているのだろうか……。


「……やっぱり土地を治めるための人材が必要だなって思って」


「それってやっぱりアルジー一人では荷が重いって事?」


 私の見立てではアルジーは管理能力に特化してると思うのです。

 長年にわたり顧みられなかった、我が領地を少なくとも現状維持に留めていたのは、アルジーの能力のお陰だと思うのですが……。

 だたやっぱり計画の立案などの分野は不向きと言って良いでしょうね。

 えっ!?私が計画などを立てればいいって?

 嫌ですよ、面倒くさい。


「うーん、今まで通り領地管理人ランド・スチュワードはアルジーに任せるとして、その補佐をする人物が必要だと思っているのですよ」


 だれか良い人材いないかしら……。

 私は王国ではこの伯爵領ぐらいしか知らないし、学院の時の知り合いも知識面はともかくとして、実務面は未知数なのよね。

 王都で社交に精を出していたお兄様たちが生きていたら、そう言った知り合いがいたのかも知れないけど……。


 通常、貴族の子弟は長男が後を継いで、領地や財産を継承します。

 でも私たちの家を見てもわかる通り、長男しかいないわけじゃありません。

 本来であればエリックお兄様がわが領地を継ぐ予定だったけれど、次男のセロンお兄様や、お姉様、そして私もいます。

 といっても私やお姉様みたいな女性は他家へ嫁ぐのが既定路線になるのですけどね。

 でもセロンお兄様は違います。

 長男になにかない限り、次男以下の男性は通常、領地は爵位は与えられないのです。

 そうすると残された道は、士官として国軍に入るか、官吏として国政の一部に携わるか、若しくは実家の領地経営に携わるかなどがあります。

 中には、何もせずぶらぶらと日々を無為に過ごしている者もいると思いますが、それは置いておきましょう。


 そのように次男以下で且つある程度才能のある人物をスカウトして領地管理を任すというのは、それなりにある話なんですが……。

 問題なのは長い事隣国へ留学していた私には、そう言ったつてがなーんにも無い事なんですよね。


「農地の事を分かっていて、発展に必要な計画も立てられて、それでいてアルジーの補佐に収まってくれる人。そんな都合の良い人何処かにいないですかね……」


 そんな事を呟いていたところ、お姉様が唐突に「えへん」と咳払いしました。

 でも私は気づかないフリをして、新しいお茶菓子を手に取ると、ポイッと口に放り込みます。

 するとお姉様がまた「えへん、えへん」と咳払いしましたよ。

 私はお姉様の方に視線を向けると、ニコニコとしたかおで何かを訴えかけています。

 私は小さく「はぁ……」とため息を吐くと、


「お姉様……何ですか?」


「ふふーん、アルシア。そんな事なら私に少し任せてみない?」


「ん?なんですか?まさかお姉様がそう言ったことを出来るとでも?」


「うーん、さすがに私は出来ないけど、ちょっとした心当たりがあるのよ」


 そう言ってお姉様は妖しく笑うのでした。






§ § §






「伯爵にはお初に御眼にかかります。ウェズ・エンドアと申します」


 そうして一礼した人物は貴公子然としたなかなかのハンサムさんでした。

 えっとプロフィールは……えっ!?あのチャーターハウス学院出身なの?


 チャーターハウスは王国でも有数のエリート学院です。

 そこを卒業してるってだけでも優秀なのは折り紙付きなんですが……。


「チャーターハウスを第三席で卒業後、王国陸軍に入隊し大尉で除隊、で今の仕事は……新聞記者ですか」


「はい」


 ……なんか経歴がおかしいですね?

 新聞記者と言っていますが、ぶっちゃけその新聞はあることないことを面白く書き立てるようなゴシップ紙です。

 エリート学院を第三席で卒業したような人物がなぜ、そのような仕事を?

 私が怪訝な表情でウェズをじっとみつめていると、


「大丈夫ですよアルシア。身元ならしっかりしてるんですよ?なにせスタッフォード侯爵の末子なのですからね」


「……はい?」


 スタッフォード侯爵は王国の北の方に領地をもつ貴族です。

 ぶっちゃっけウチよりも歴史が浅い家とはいえ、過去には王璽尚書を務めていたこともある名門ですよね?

 その末子がゴシップ紙の新聞記者?

 余計に意味がわかりません。

 私が頭の中にハテナを沢山浮かべていると、


「ウェズ卿は貴賤結婚で駆け落ちされたのですよ。だから国軍を退役なされたのですよね?」


 と、お姉様が私の疑問に答えてくれました。


「……はい。それと私はすでに家名を捨てた身です。『卿』敬称は必要ありません」


 あ、なるほどね……。

 王国では原則として両親の承諾を得ないと正式な結婚式はできません。

 なので駆け落ちして外国で結婚式を上げて、その後王国に戻って来た、という事なのでしょう。


「理由は分かったけど、お姉様はどうしてウェズ卿――ウェズさんとお知り合いになったのですか?」


「お兄様がたが亡くなって、アルシアが伯爵を継ぐことが決まった時に、取材に来られた記者の一人がウェズさんだったのです。私は社交界で何度かかおを合わせてますからね。スグにわかりました。そしてその時にご事情を少し伺ったのですよ」


 と言ってから、少し声を潜めて私の耳元で、


「アルシアは留学してたので知らないと思いますが、当時、ウェズさんの駆け落ちはそれなりに話題になっていたのですよ」


 と、付け加えてくれたのでした。

 でも、それじゃもしウチで雇ったらスタッフォード侯爵と揉めたりすることにならない?

 と、疑問をぶつけてみた所、


「……父にとって私はもういないも同然の存在です。もし私の存在が公になっても今更シュルーズベリー伯爵と揉める事はないと存じます」


 と、答えてくれました。

 うーん。

 じゃ揉める事はないのかな?

 チャーターハウスを優秀な成績で卒業し、身元もばっちりな上、侯爵の子として儀礼も身に付けた人物。

 これだけ見れば文句ない人材です。

 私は少しだけ逡巡した後に、お姉様に向かって大きくうなずきました。

 するとお姉様は、


「ふふふふ、ね?アルシア。私を頼って正解だったでしょう?」


 そう言って、お姉様はニコリとほほ笑んだのでした。

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