05 伯爵の無双錬金再び!
その日の事。
私は領地管理人のアルジーや領民を引き連れてとある場所にいました。
そばにはいつものように修道服に身を包んだお姉様もいます。
「この辺りが良いかな。皆、少し離れてててくださいね」
私は足元の土をコネコネして小さな土人形を作りました。
学院にいた頃ならば、造形にも気を遣うのだけれど、今回は急ぎなのでその辺りは適当です。
そしてその人形をあらかじめ用意した魔法陣の中央にのせると、
<錬金!>
と、魔力を注ぎ錬金の術式を起動させます。
すると小さな人形が自ら動き始めました。
「うわ、アルシア、なにそれすごいじゃない!」
「フフフ、お姉様、驚くのはまだ早いですよ」
小さな土人形が動いただけでお姉様はキャーキャーと喜んでいます。
しかし、これはまだまだほんの小手試しなのです。
「かわいいけど、アレを一体どうするの?」
「まぁ見ててください、お姉様。本番はこれからですよ」
その私の言葉に、お姉様は期待に満ちた目でじっと私をみつめてきます。
う、そんなにみつめられるとなんかやりずらいですね……。
私は苦笑しながらも、再度魔法陣に魔力を籠めます。
<錬金!>
すると辺りの土を巻き込みながら、小さな人形が瞬く間に数メールもの大きさに変化しました。
その姿にお姉様は先ほどより大きな声でキャーキャーと歓声を上げます。
フフフフ。
これは錬金術で作った簡易式の泥人形です。
「すごい、すごいじゃない!アルシア。あれもやっぱり動かしたりできるの?」
お姉様はとてもとても興奮していらっしゃいますね。
「当り前じゃないですか、そのために作ったのですよ」
そう言って私はドヤ貌でゴーレムを動かします。
ドスン、ドスンと地響きを立ててゴーレムが動くと、お姉様のみならず、アルジーや領民たちからも「うぉー」と言った歓声があがりました。
「危ないので近づかないでくださいね。ゴーレムは細かな制御が出来ないのです。近づくと踏みつぶされてしまうかもしれませんよ」
その私の声に慌てて距離を取るお姉様や領民たち、おや、お姉様……今触ろうとしていませんでしたか?危ないのでやめてくださいね?
「アルジー、では打ち合わせ通りに」
「……はい、伯爵様」
§ § §
「そう、そのまままっすぐ、そこです」
私はアルジーと一緒に閉架書庫で見つけた古い灌漑計画を見ながらゴーレムに指示を飛ばします。
うん、やっぱり工事がはかどりますね。
大まかな命令しか出来ないとはいえ、指示を飛ばすとゴーレムが土砂を大量に運んでいきます。
この手の作業は錬金術で作った魔法生物の十八番なのです。
勿論、ゴーレムをはじめとする魔法生物では、細やかな命令などはできません。
詳細な命令が必要な場所は人間の手でやりつつ、土砂の運搬などの単純な力仕事はゴーレムにやらせるという使い分けが必要なのです。
「ゴーレムはこんな使い方があるのですか、これは作業が捗りますね、アルシア」
「えぇ、こういった単純な力仕事はゴーレムにやらせるのが一番なんですよ。なんたって力持ちで疲労も知りませんからね」
「こんな便利な物ならもっとよそで見てもいいと思うのだけれど、なんで見かけないのかしら……」
「あぁ、ゴーレムを含めた魔法生物は一般には所持が禁じられてるんですよ。こんなもの沢山の人が持っていたら危険でしょ?」
「えぇ!?そんな物使っていていいの?」
「……でも、伯爵を含めた上級貴族には王国に届け出を出すだけで所持が認められているのです。勿論私もきちんと届け出は出してますよ」
今私が作ったのはあくまで土木作業をする用の脆い簡易ゴーレムだけれど、勿論それなりの手間暇をかけて作る、軍事用の強固なゴーレムなども存在します。
この二つには作成難易度的にも差があるとは言え、そのような物は個人で所有するなど認められるはずもありません。
私が留学していた学院でも、実験用に使うのでさえ、所持期間や持ち出し範囲などが厳格に決められていましたからね。
このような軍事利用も可能な魔法生物を、簡単な届け出をするだけで持てるようになった事だけは、数少ない伯爵になってよかったと思った事の一つです。
と言っても、厳密には私個人の持ち物ではなく、あくまで伯爵領に限って所持が認められていますし、有事には戦力として国軍に供出しなければなりませんが、まぁその辺りは致し方ないでしょうね。
「……それにしても、実際の地形と見比べてみると、この計画書との違いも多いなぁ……」
「それは致し方のない事でしょう?百年以上前のものだって、アルシアも言っていたではありませんか」
「それはそうだけど……」
はぁ……。
やっぱり百年以上前の計画書をそのまま使えるほど現実は甘くないですか、そうですか。
とはいえ、一から作り直すよりはよっぽど早いので仕方ないけど。
少々水路を掘るのにふさわしくない地形でも、ゴーレムなら力押しで作業を進めさせられますしね。
ただ、今回については既存の計画書の存在をアルジーが知っていたので利用する事が出来たとはいえ、これから始めようと思っている事については、全くの手探りで始めなくてはなりません。
これからの事を想像し、私は周囲に聞こえるぐらい「はぁ……」と大きな溜息を吐きます。
するとお姉様が『ポン』っと私の肩をたたいて、
「大丈夫ですよ。アルシアは何でもやればできる娘ですから」
そう言って、お姉様はニコリとほほ笑んだのでした。