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46 エピローグ

 その日のこと。

 私はあいも変わらず執務室にて、乗り気でない仕事に取り組んでおりました。

 仕事に乗り気でないのは何時もの事なのですが、今日はそれとは別にある事が頭の中の大半を占めています。

 そのせいで、仕事の方はいつもよりも遅々として進みません。

 そんな私の元に執事がトコトコやってくると。


「伯爵様、通信室にてウェズより連絡が入っているようです。如何いたしますか?」


 を、漸く待ち焦がれた連絡が来ましたね!


「分かりました、通信室に向かいます」


 上手く行けば長い事、お姉様や私を悩ませ続けた問題も解決に向かう事になりそうです。






§ § §






「あ、いたいた、お姉様、やっぱりここだったのですか」


 屋敷にも教会にもいないお姉様はとある場所で祈りを捧げておりました。

 そこは何処かと言うと、両親やお兄様方が眠っているお墓です。

 私の声にお姉様は顔を上げて、じっとみつめてきます。

 うーん、なんかやつれた感じかしますね。

 デニスさんの事がやはり相当心の負担になっているようです。

 そんなお姉様に対し、私はニコニコと微笑みながら歩み寄ります。


「アルシア……」


 お姉様は疲れが隠せない様子で私の名前を呼びました。

 私はお姉様の傍まで歩み寄ると、そっと手を差し伸べてお姉様を立たせます。


「貴方がここに来るのは珍しいですね」


 うーん、そうかもしれません。

 お母様が亡くなった時は私はまだ幼く、死というものがとういったものが良く分かっていませんでしたし、お父様からは疎まれていたので、亡くなった時もそれほど悲しく有りませんでした。

 お兄様方は異性且つ歳が離れている事もあり、家族だというのにそれほど接点も無かったのです。

 勿論、お墓参りは定期的にしますが、それはあくまで家族の義務としててあり、お姉様みたく頻繁に訪れては祈りを捧げたりしていないのです。


「アルシアは亡くなった家族に対して冷淡過ぎます。もっと――」


 あー、ストップすとっぷ。

 私はお小言になりかけたお姉様の口を、人差し指を押し付けてふさぎました。


「お姉様が言いたい事は分かってます。でもまず私の話を聞いてください」


 私は笑みを浮かべながら、言葉を続けます。


「お姉様とデニスさんとの結婚のお話は正式に無かった事になりましたよ。近日中にデニスさんがお姉様へ謝罪に訪れるはずです」


「えっ!?」


 フフフフ、お姉様がびっくりした顔をしていますね。

 予想通りのリアクションです。


「一体どういう事なのですか?」


「どういうことなのだと思いますか?」


 私はニヨニヨしながら質問を質問で返します。

 折角上手く行ったのですから、もう少しだけナイショにして、お姉様をやきもきさせちゃおうかな?


「もぅ、アルシアお得意の冗談では無いのでしょう?さっさとどういう事か教えてください!……まさかとは思いますが悪いことをなさったのは無いでしょうね?」


 お姉様はそう言って私の手を引っ張りながらガクガクさせます。


「ちょ、痛たた。ちゃんと教えますから、まず手を離してください。勿論、『私は』王国の法に反する事はしていませんよ」


 まー、そーゆー方法も無くは無かったのですが、今回は正真正銘正攻法です。


「さ、手を離しましたよ。早くさっさと教えてください。あのデニスさんがなぜ結婚を諦めたのですか?」


 もー、お姉様はせっかちさんですね。

 でもまぁ、もう良いでしょう。

 残念ですが教えてしまう事にします。


「簡単な事ですよ、父親であるウィル準男爵にそう言われたからです」


「ウィル準男爵に……?」


「えぇそうです。かつてのお姉様がそうであったように、子は父親のいう事には従うものですからね」


「それは分かります……でもなぜウィル準男爵がデニスさんにそう言われたのですか?」


 まぁ、当然その疑問が沸きますよね。

 でもその答えも簡単です。


「主人の命に従うのが、使用人の義務だからです、お姉様。簡単に言うとですね、私がウィル商会を買い取ったからですよ」


 私はドヤ顔をしてお姉様に言いました。


「えっ!?」


 そして再び、びっくりした顔をするお姉様。

 フフフフ、またその顔が見れましたね。

 そして私はお姉様に色々ネタバレをしました。

 ウィル商会は近年、身の丈よりも随分と無理をしてお金を集めてご商売をしていた事。

 まぁそれでも、ご商売が上手くいってるときは何も問題が無かったんですけどね。

 でもご商売には上手く行くときもあれば上手くいかない時もあります。

 東の国、そう呼ばれている遠くの国に送り出した大規模商隊が何らかの事情で壊滅したらしいのです。

 一度不幸が起こると不幸は続くようで、今まで良かったダイスの目も一気に悪くなります。

 かつての我が家のように近頃は大分資金繰りに困っていたようですね。

 準男爵家はご存知のように継承の度毎に、財産審査があります。

 このままでは次代で準男爵の称号が取り上げられてしまいます。

 ウィル準男爵はかなり焦った事でしょう。


 そこで利用しようとしたのが、かつて婚約寸前まで行ったお姉様の事です。

 以前は我が家の方から持参金目的で、計画した婚約話を、逆に利用しようという事を思いついたようです。

 近頃はシュルーズベリー商会が度々、経済界を賑わせていましたから、良いカモだと思ったのでしょう。


 そこまで分かればあとは簡単でした。

 ウェズに命じて市中に出回っていたウィル商会の債権を買い集めると、その債権を一括で返すか、それともシュルーズベリー商会の傘下に入るかを迫ったのです。


「と、言うわけだったのよ、お姉様」


「そんな事をして、我が家の商会は大丈夫なのですか?」


 お姉様は溜息をつきながらそう仰いました。


「ウチの商会は王都への伝手が元々無かったですからね。ウィル商会は資金繰りに窮していたといえど、王都では大きな販売網を持つ商会です。上手くいかなかったとはいえ、第一教区の主教様まで動かす事が出来たんですよ?ウチの傘下でその力を十分に発揮させてもらう予定です」


「では、本当に全て、何も問題はないのですね?」


「はい、もう何も心配する事はありませ――」


 最後まで言わないうちにお姉様は勢いよく私に抱きついてきました。


「わ、わ、ちょ、お姉様、あぶな――」


 私は支えきれずにそのまま二人して芝生に倒れ込みます。


「……アルシア、ありがとう。本当にありがとう」


 二人で転がったまま、お姉様は何度も感謝の言葉を口にしました。


「……お姉様、どういたしまして」


 そして私達は二人して芝生に寝ころび、顔を見合わせ、そしてどちらからともなく笑い出しました。


「ははは、可笑し。……昔はよくアルシアとこうして芝生に寝っ転がったりしてたのを思い出しちゃった」


「そうですね……あ、そうだ」


 そうそう、私はある重大な事を思い出しましたよ。


「お姉様、これでお姉様が出家した一因である結婚問題は片付きました。ですので、そろそろ還俗しませんか?」


「……あら、アルシアは私を還俗させたいの?」


「そうですよ、お姉様には還俗してもらって、これを気に伯爵をついで貰わないと」


 私がそこまで言うと、お姉様はフフフと笑い出します。

 ???

 何が可笑しいんでしょう。


「アルシア、貴女は何か思い違いしていますね。私が還俗した所で、伯爵は継げませんよ?」


「ほぇ?な、なぜですか?」


「一度継いだ爵位は、人に渡すことは出来ないのですから。簡単に言いますとアルシアが亡くならない限り、生涯伯爵は貴女のものなのですよ」


 えー!!

 そうなの?


「全く、貴女は頭がいいのか悪いのか、良く分からなくなりますね。こんなの貴族の常識じゃないですか」


 そう言ってお姉様は笑い続けます。


「そして聖職者を辞めるつもりもありません。デニスさんの事はありましたが、それ以上にお父様やお兄様方の冥福を祈りたいって気持ちも本当ですから。それともアルシアが代わりに祈ってくれるのですか?」


 ああぁぁぁぁぁ~!!

 こうして私のお姉様還俗や伯爵を継がせる計画は、脆くも破たんしたのでした。

 私の伯爵家業はまだまだ続く事でしょう。

 でもいつか、いつの日にか、どんな手を使ってもお姉様に継がせて見せる、そう心に決心するのでした。


      了

これにて一応の完結です。

47話のお付き合い、ありがとうございました!

多くの御意見、御指摘、アドバイス、御感想、そして読んで下さった事、本当にありがとうございました。

引き続き、次作の方も読んで戴ければ幸いです。


 次作『退魔師令嬢の私は今日も元気に婚活ちゅぅ!!』は、本日連載開始です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気に読みました。 [気になる点] 主人公が、役立たずなのに自分勝手なお姉様に終止翻弄されて終わってしまいましたね。 これはこれで面白かったですが、タイトルがお姉様にまつわるものだ…
[一言]  いろんな面で微妙に暗い。
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