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45 伯爵はお姉様を慰めます

 その日のこと。

 私は自室にて難しいお話に直面していました。

 話相手は勿論、お姉様とです。


「アルシア、話があります!」


 そういってお姉様はノックもせずに扉を開けると勝手に部屋に入ってきました。

 そして私の顔を見る成り、一方的に捲し立てます。


「聞いてください、アルシア。今日司祭様からお話がありましてこんな事を言われたんですよ!」


 と、あいも変わらずプリプリと怒った顔をしたお姉様が説明してくれます。

 うーん、要約すると司祭様から、


『デニス氏からシュルーズベリー教会へ対し献金話が持ち上がっている事。教会への献金とは別に司祭様本人に対する寄付を持ちかけて来ている事。デニス氏からのお願いという形でお姉様を説得出来ないかやんわりと問われた事などなど』


 を言われたみたいですね


「今の所、司祭様は私の意思を尊重してくださり、のらりくらりと対応されているみたいですが、司祭様個人に対する寄付は兎も角として、正式な教会への献金話が来た場合は受けざるを得ない、というお話でした。アルシアどうしましょう……」


「そちらにも来たんですか……。実は私の方にも第一教区の主教様がいらして、お姉様を説得するように言われましたよ」


「そ、そんな!主教様まで……!?」


 お姉様はまるで悲鳴のような声をあげます。


「……安心してくださいお姉様。『第一教区』の主教様です。ここ、第十教区のヘントン主教様ではありません」


「安心出来ませんよ!いくら教区が違うからと言って主教様まで動かせるなんて。どこか安心出来るというのですか!」


「どうやらお姉様もそろそろ覚悟をお決めになる時が来たのかもしれませんね」


 私は冗談めかして言います。

 そう、冗談、普段のお姉様ならかるーく突込みが入って終わり、そのはずだったのですが……。

 私の言葉に、お姉様の顔がみるみると歪み始めます。


「覚悟ってそんな……アルシアまで……」


 今にも泣き出しそうな声のお姉様をみて、私は慌てて言い直しました。


「勿論、今のは冗談ですからね。本気になさらないでください。私はお姉様を意の沿わない結婚をさせるつもりはこれっポッチもありませんから」


 そう言いながら私は心の中で苦笑しました。

 普段のお姉様なら、これが冗談だって分かってくれるはずなのになぁ。

 それが分からなくなるぐらい、よっぽど参っているようです。


「そんな冗談言わないで……」


 そう言ってお姉様はまるで死人のような顔をして、椅子に腰かけると机の上に突っ伏しました。

 こんなお姉様を見るのは、そうお母様を亡くして以来です。

 お母様を亡くした時、まだ幼かった私は死と言うものが良く分かってはいませんでした。

 それゆえに、お姉様にあれこれを聞いたのを覚えています。

 ……思えば、それ以来私のお母様代わりをお姉様は必死で勤めてくれましたね。


「お姉様も元気を出してください。お姉様の笑顔が無いと、この広い屋敷も寂しくなってしまいます」


 そんな事を言いながら、私はお姉様に歩み寄ると、そっと頭を撫でます。

 今回は私が助けにならないといけませんね。


「アルシア……」


「あと少し、ホンの数日だけ時間をください。絶対お姉様の悪いようにしませんから」


 そう声を掛けながら、私はお姉様の頭を撫で続けるのでした。






§ § §






 いつまでそうしていたか、時間はよくわかりませんが、私のなでなでが効いたのか、お姉様は元気が出たようですね。


「ありがとう、アルシア。お陰で少し元気が出てきました」


「そうですか、それは良かったです。お姉様にはこれからも私に美味しいお茶を淹れてくださる役目が有りますからね。お姉様がそんなではお茶の味も落ちてしまいます」


「もぅ、それはお茶の催促ですか?しょうがないですね。ご希望通り伯爵様にお茶を淹れて差し上げます」


 お姉様は苦笑しながらもお茶の準備をしてくれます。

 あ、そうだ。

 元気になったついでに、あの事を聞いてしまいますか。


「そうそう、お姉様ってデニスさんとの結婚をそんなに嫌がっているのはなぜですか?ただご自分の知らないうちに決まりそうになった相手からですか?」


 デニスさんは私の目からみればまぁまぁのハンサムさんに思えます。

 まぁ時折、髪をかき上げるような仕草とあいまって、なんとなーくご自分の容姿に自信過剰になってる感じが見え隠れしましたが、まぁそのぐらいですね。


「家族とはいえ、他人に話すような事では無いのですが……、こうなったからには仕方ありませんね。私には仲が良かったあるご令嬢がいたのです。あの方、ご容姿は良い方でしょう?それだけでなく立ち振る舞いも中々のものでその娘はスッカリのぼせ上ってしまったのです」


 お姉様は一旦そこで話を切ります。


「と言っても、その娘は積極的にアプローチしたのではありません。ダンスに誘われて頬を染めて好意を示すだとか、デニスさんに憧れている事を令嬢同士のお茶会で打ち明けるとかその程度だったのですが」


 まぁよく聞く話ですね。


「私は聞いてしまったのです。あの方が別の男性と談話中、その令嬢の事を『あの令嬢とは金を詰まれたってもう二度と踊りたくない、そのぐらいのブスだよ』などと嘲笑しているのを」


 うわ、なにそれ。

 最悪じゃない。


「それがその娘の耳にも入ってしまって、可愛そうに深く心が傷ついたその娘はそれから社交界に滅多に出なくなってしまいました。……そして、今でもそれが続いていると聞きます。絶対に許せません。そんな原因を作ったデニスさんと私が結婚するなんてトンデモ無い事です」


 そして淹れてくれたお茶をコトンと私の前におくと、


「これでアルシアにもお判りでしょう?なぜ私があの方と結婚したくないのか」


 お姉様はそう言って、怒りを隠そうともしないのでした。

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