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42 伯爵は新聞を読んで大変驚きます

 その日のこと。

 私は自室にはお姉様の告白を聞いておりました。

 ……なんというこうとでしょう!

 お姉様が出家なされた真の原因は望まぬ結婚をしたくなかったから、だと言うのです。

 王国では望む結婚をする人の方が少数派だと聞きます。

 ツマリつまること詰まれば、『殆ど』の子供は親の決めた結婚相手におとなしく従う、という事です。

 でもお姉様は『殆ど』に当てはまらない、例外に属する人だったみたいですね。


 私がそんな事を思っている間にもお姉様の告白は続きます。


「私が出家すればアルシアが伯爵にならざるを得ない事は分かっておりました。聖職者に爵位を継ぐ事は出来無いですからね。そしてアルシアは爵位を望ず、むしろ迷惑がるだろう事も……」


 そう言ってお姉様は目を伏せます。


「……ま、まぁ、その件は一旦おいて行きましょう。それで、その……デニスさんとは一体どのような方なのですか?」


「デニスさんはウィル準男爵の嫡子です。アルシアもウィル商会って聞いたことはありませんか?」


 あー、はいはい。

 何か聞いたことがありますね。

 たしか王国放送協会の会員にそんな名前を見た事があるような気がします。


「お父様が亡くなる一年程前に、デニスさんの実家でなんかの祝宴があって、お父様から出席を指示されたのが私の覚えてる最初の直接的な出会いです。……今思えばその時からお話は進んでいたのでしょう」


 ふーん。

 やっぱりお金持ちだったんだ。

 ちなみに準男爵は王国では正式な貴族ではありません。

 が、貴族に準ずる者として、貴族相当の扱いをされます。

 『準男爵』というのは爵位でなく世襲称号ですね。

 王国に対して主に金銭面で多大な貢献をしたとみなされた者に対して贈られる称号です。

 ぶっちゃけて言うと、政府に大金を払って買う称号なのです。

 爵位の継承に財産要件は無いため、何らかの要因で先祖代々の財産を手放した、所謂貧乏貴族と蔑称される人々はいらっしゃいます。

 しかし、準男爵の称号は継承の度に財産審査があり、一定の財産が無いと継承が認められない為、例外なくお金持ちばかりなのです。


「なるほど、お父様はお金に困ってらしたってお話ですからね。だからその方が選ばれたわけですか」


 私が爵位を引き継いだ時を思い出します。

 ウチの財政状況、ひっ迫してましたからね。

 だからお姉様をお金持ちに嫁がせて、援助を得ようと考えたわけですか。

 ちょっぴり気になる事もついでに聞いてしまいましょう。


「……ちなみに私のお相手とかもお姉様はお父様から何か聞いていたりはしますか?」


「アルシアのですか?いえ、私も詳しくは存じません。まだ複数の候補から検討していた段階だったと思いますよ?」


 うわぁ……。

 やっぱり聞かなきゃ良かったような気がしてきました。


「でも安心しなさいな。アルシアの場合は私の場合と違って、お父様もお相手探しに苦労していたみたいですから。具体的なお話は何も進んでいなかったと思いますよ」


 ……ソレはそれで、伯爵令嬢としてどうなの?

 ちょっと傷つきますね……。


「今日のデニスさんを見るに、お姉様の事を諦めたわけじゃなさそうだけど、お姉様はこれからどうするの?」


「どうするもなにも……どうも出来ないじゃ無いですか。ほおっておくしか無いんじゃありませんか?拒絶し続けていればそのうち向こうも諦めるしか無いでしょう」


 うーん、まぁお姉様の言葉にも一理ありますね。

 しかし、私には疑問点が幾つかあるのです。

 まずなんで、このタイミングでデニスさんが現れたのでしょうか?

 もし本当にデニスさんがお姉様を心のそこから愛していれば、お姉様が出家した直後に説得しに来ても不思議ではありません。

 でもお姉様の話によると、お姉様から『出家したので貴方とは結婚できません』みたいなお手紙を何通かやり取りした程度でその時は決着したと思っていたようです。

 そんなお手紙のやり取り程度で終わっていたと思われた関係の人が、なぜ今更押しかけて来て結婚を願うのでしょうか?

 何かいやーな予感がしますね……。

 私の思い違いだと良いのですが……。

 しかし、そのぼんやりとした嫌な予感は、現実のものとして現れてしまったのです。






§ § §






「アルシア、大変です」


 その日、執務室で乗り気でない仕事に取り組んでいた私の元へ、お姉様が血相を変えて乗り込んで来ました。


「んー?お姉様、どうかしたんですか?そんなに慌てて。神様でもいなくなってしまったのですか?」


 私は聞きようによっては不敬とも取れる口調でお姉様を迎えます。


「もうアルシア、そんな冗談をいってる場合では無いのです。これを見てください!」


 そう言ってお姉様が差し出したのはモーニング新聞という、まぁ王国では上流階級向けの一般的な新聞です。

 私はお姉様が指さした所を読み始めます。

 ふむ、社交欄ですね。

 えっと、何々?


『結婚市場にまた目出度い話が聴こえ始めている。ウィル商会を有するウィル準男爵の嫡子であるデニス氏にいよいよキューピットの矢が命中した、との噂が社交界を席捲している模様だ。お相手はなんと近頃経済市場を何かと賑わせているシュルーズベリー商会を有するシュルーズベリー伯爵の姉君、レディ・ティーナだという。なんでも前伯爵の訃報によって止まっていた結婚の話が、いよいよ前進し始めたという噂だ。ティーナ嬢といえば前シュルーズベリー伯爵の長女であり、その優雅な姿と美しい顔で多くの独身男性諸君を魅了し一時社交界に花を添えていたが、前伯爵を初め、兄君を立て続けに亡くすという不幸に見舞われ、一時社交界からは身を引いていたご令嬢である。貴紙が掴んだ情報ではデニス氏はこの結婚に大変乗り気であり、肉親の死によって傷ついたティーナ嬢の心を、その生涯をかけて癒す覚悟をお持ちだという。この結婚話を聞いた双方に親しい人物の話では――』


 ……はー???

 私はその新聞記事とお姉様の顔に対し、交互に視線を移しながら目を白黒させるのでした。

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