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41 伯爵はお姉様の告白を聞きます

 その日のこと。

 私は教会の裏庭から足取り重く帰路につくデニスさんの後ろ姿を眺めておりました。

 先程までこの裏庭で、婚約破棄物の演劇を見せつけられているような感じだったのです。

 あ、婚約破棄物の演劇と、いうのはですね、今王都で人気を博しているという演目の総称なのですよ。

 か弱き貴族令嬢が、何らかの理由で相手方から婚約を破棄されてしまい、一旦は悲しみのどん底に落ちるのですが、親友その他などの助けにより奮起し、最終的には以前の相手など比べ物にならない様な真実の愛をモノにする、そんな流れなのです。

 ……私は見た事はありませんが。

 ってアレ?

 正式発表前とはいえ、半ば決まりかけていた婚約を、お姉様から破棄した形になるわけで巷の流行りとはちょっと違いますね……。

 ま、まぁそれはとりあえずおいといて、お姉様から詳しいお話を聞く事にしましょうか。


「お姉様……。勿論詳しいお話を聞かせて頂けるんですよね?」


「えぇ、こうなった以上は仕方ありません。しかし私は今だやり残した勤めがありますので、屋敷に戻ってからで構いませんね?」


 おっと、先程『勤めがあるので出口まで案内できない』って言っていたのはてっきり案内しない口実なのかと思ったらそうでは無かったようですね。


「分かりました。では屋敷にお姉様が戻られてからじっくりと聞かせてもらいましょうか」


 その言葉を合図にお姉様は私に対して一礼すると裏庭から退出していきました。

 そしてポツンと独りぼっちで裏庭に残される私。

 はぁ……。

 思いもよらぬ出来事がおきましたが私も屋敷に戻って仕事をしなければいけませんね。

 そして私も先程のデニスさんと変わらぬような重い足取りで、屋敷への帰路についたのでした。






§ § §






 そして仕事もようやっとひと段落した夜の事。

 私は自室にてお姉様と対峙しておりました。


「それで?お姉様。昼間の出来事について詳しく聞かせていただけませんか?」


「良いわよ?でもどこから説明したものか……。アルシアから一つ一つ質問してください」


 そうモジモジしながら言うお姉様に対して、私はしょうがないなぁ……と呟きながら、


「ではあの方……デニスさんとの婚約のお話はいつから進んでいたのですか?私は初耳だったんですけど」


「詳しくは良く分かりませんが、私が知った時はもう半ば決まりかけている状況でした。……ですが丁度その頃、お父様の病状が悪化して、お話は一旦ストップしていたのです」


「えっ!?何それ。じゃお父様はお姉様に詳細を伏せたまま結婚相手をお決めになっていたってわけ?」


 私の言葉にお姉様はコクンと頷きます。

 あらら……いくら結婚相手は親が決めるものとはいえ、普通は段階をふむものです。

 と、言ってもその手の寝耳に水で婚約が決まる、という話もままある事と聞いています。


「お父様の病状が持ち直したら、正式に婚約発表になる流れでした。……あえて口に出す事では無かったので誰も言いませんでしたが、お父様が回復せずお亡くなりになっても、恐らく喪が明け次第、発表になったはずです」


「そうなんですか、まぁそれ自体はよく聞くお話ですね」


「『そうなんですか』じゃありませんよ!私が婚約したら次はアルシア、貴女の番だったんですからね」


 と、お姉様からまさかの爆弾発言が飛び出します。


「えっ!?嘘でしょ?私何も聞いてませんよ?」


「私だって何も聞いてませんでしたよ?」


 お姉様はそう言って静かに溜息をつきました。

 そのお話を聞いて、私も全身の力が抜けたような気がしてきました。

 なんて事でしょう……。すでに私にも謎の婚約者候補(エックス)さんが居たなんて。


「アルシアも先程言っていたでしょう?『よく聞くお話』だって。今更ですがこう言った話は何処にでもあるお話なんです。……私も自分の身に降りかかるまでは社交界でそう言った噂話を面白可笑しく話していたものなのですから」


 その気持ち良く分かります。

 私も、聞くだけなら楽しく聞けますが、もし自分の身にそのような事が起こっていたらと考えると思わず身震いしてしまいますね。


「……ですが私も貴族令嬢として、そのような事になる可能性は頭にありましたし、貴族の結婚とは家と家を繋ぐ大切なモノであり、私個人の意思は優先度が低い事も理解している……いえ、していたつもりです。ですからお父様がお決めになった事ですから最初はそのまま従おうと思っていたんです」


「でもその矢先、お父様が亡くなった」


「そうです、でもそれだけなら多少時期はズレますが、後を継いだお兄様の手でやがて正式に婚約していた事でしょう。……でも前後してお兄様方もお亡くなりになりました」


 そこで言葉を切ると、お姉様は私の顔をじっとみつめます、そして言葉を続けました。


「その時、私の頭にある考えが浮かんだのです。周りをある程度納得させつつ、望まない結婚を回避する考えが」


 ……えっ!?

 まさか……お姉様、それって。


「もう気が付いたでしょう?アルシア。私はお兄様方とお父様、三人も連続して亡くなるという不幸を逆に利用して、出家するという口実を得たのです。修道女になれば事実上結婚は出来なくなりますからね」


 お姉様の予想外の告白に、私は何も言えなくなってしまいました。

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