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39 伯爵とお姉様と婚約者

 登場人物紹介

 アルシア・モリナ……主人公。急死した父や兄に代わりシュルーズベリー伯爵を継ぐ。十六歳。

 ティーナ・モリナ……主人公の姉。父や兄の冥福を祈る為に出家した修道女。十八歳。

 ウィル・デニス……主人公の姉ティーナの婚約者になるはずだった人物。






§ § §






 その日のこと。

 私はただ一人ポツンと礼拝所の椅子に腰かけていました。

 つい先程までお姉様の説教が行われていた場所です。

 お姉様の説教自体はもう十数分も前に終わって、私以外の説教を聞きに来ていた信徒はすでに帰路につきました。

 しかし、私はというと……。

 はぁ、屋敷に戻って仕事しなくないなぁ……。

 そんな思いもあって中々帰る気になれなかったのです。

 でもいつまでもこんな場所で一人でいるわけにもいきません。

 ……帰るか。

 私が重い腰をあげたその時の事でした。


 バタン、と出入口から音がしたと思うと、一人の男性が礼拝所に入って来たのです。

 誰だろう?

 領民……じゃないわよね?

 私は全ての領民を覚えているわけではありませんが、漂わせている雰囲気が違いすぎます。

 服装からも察するに、貴族かそれに準ずる者で間違いないでしょう。

 その者はまっすぐに私に向かって来ると、こうおっしゃったのです。


「お尋ねしたい事があるのですが宜しいでしょうか?」


「はい、構いませんよ。何でしょうか?」


「レディ・ティーナ……、こほん、ティーナ・モリナという修道女をご存知でしょうか?この教会にいると聞いてやって来たのですが」


 おっとぉ!

 意外な人物の名前が飛び出しましたよ。

 まさかのお姉様をご指名です。

 と、いう事はお姉様のお知り合いでしょうか?


「はい、存じてますよ」


「で、ではやはりこちらの教会にいらっしゃるのですね!」


「私も丁度用事があった所です。ご案内しましょうか?」


「ぜひ!ありがとうございます!」


「では少しそこで待っていてください」


 そう言ってまたせつつ、私は礼拝所の奥にある小部屋を覗いてみましたが、あいにくとお姉様はもういないようでした。

 なのでたまたまそこにいた別の修道女にお姉様への事付けを頼むと、


「ちょっと移動しましょう。そちらで待っていれば時機に訪れるはずです」


 そう言ってその男性を引き連れてとある場所へ向かったのでした。






§ § §






 という事で私とその男性は教会の裏庭でお姉様を待っていました。

 なぜ裏庭かというとですね、お姉様は通いで教会に来ていますので、ご自分の部屋が教会にはありません。

 なのでなるべく他人に聞かれたくないお話は裏庭でする事になっているのです。

 私達はお互いに無言でお姉様を待っています。

 貴方は何者?とか聞きたいことは色々とあるんですが、なんとなく聞きづらいのですよ。

 まぁお姉様がくればはっきりするでしょう。

 私がそんな事を思っている間にお姉様が来たようです。


「アルシアお話って……、えっ!?デ、デニスさん!」


 むむ!

 お姉様は男性の姿を見るなり、大変驚いているようです。

 そんな顔をするお姉様の姿を見るのはとてもとても珍しい事なのですよ。


「あぁ、レディ・ティーナ。ようやくお会い出来ました。そんな他人行儀な呼び方は辞めて、私の事はウィルとお呼びください」


 ほほぅ、この男性はウィル・デニスというお名前のようですね。

 お姉様に出会えてとてもとても喜んでいるようです。


「礼拝所で偶然出会ったんですが、この方がお姉様のお知り合いのようでしたので連れてきました。宜しければ紹介していただけませんか?」


 私がそう言った所、アレあれおかしいですね……。

 お姉様が怖い目付きで私を睨みましたよ。

 ……私は、また何かやっちゃいました?

 雰囲気的に何か連れて来てはイケナイ男性のようだった気がしますね……。

 そしてお姉様は消え入りそうな声で、この男性を紹介してくれました。


「こ、この方、デニスさんは私の婚約者『になるはずだった』方です。……デニスさん、こちらは私の妹、シュルーズベリー伯爵アルシア・モリナです」


 ……。

 はー?

 お姉様の婚約者!?

 って『なるはずだった』人か。

 っていうかお姉様、婚約の話があったのですね。

 いつの間に、そんな話が……。

 そう思いながらも、私がデニスさんの方に目をやると、


「お初にお目に掛かります、シュルーズベリー伯爵。私はウィル・デニス。貴女の姉であるレディ・ティーナの婚約者です」


「違います。婚約者『になるはずだった』方です」


 おっと、間髪いれずお姉様から修正が入りました。

 そう修正を入れながらもお姉様は顔を真っ赤にしています。


「……そうでしたか、貴方がお姉様の……。出会ったばかりの時から立派な紳士だと思っていましたが、お姉様とそのような関係にあった方なのですね」


 その、私の言葉にお姉様の顔はますます真っ赤になります。

 ですが、これはテレてそうなっているのか、何かに怒っていてそうなっているのか、私にはわかりません。

 でもなんとなーく怒っているような気がしますね。


「そのような事を仰らないでください、レディ・ティーナ。私は今でも貴女の婚約者の心づもりでいるのです。貴女以外の方と結婚する事は考えられません」


 そう言いながらデニスさんはお姉様に優しく微笑み掛けます。


「たしかに、私と貴方は婚約者になるはずでした。しかし、正式な発表の前に私のお父様が亡くなって、それと共に婚約のお話も流れたはずですよ」


 あー、これはテレているのでは無く確実に怒ってますね。

 お姉様の口調もドンドンと厳しくなっていきます。


「前伯爵と私の父が決めた婚約者だからではありません。私は貴女を愛しているからこそ、貴女以外の方と結婚する事が考えられないのです」


 そう力強く言い返すデニスさんとお姉様を見比べながら、面白い事になって来た、そう私は心の中でニヨニヨするのでした。

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