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03 伯爵の無双錬金!

 幸い『不用品』を処分した事で、割とまとまった額のお金を手に入れる事に成功しました。

 潤沢とは言わないまでも、当面の運転資金には問題の無い額です。

 とはいえ、このお金もほおっておいたらたちまちのうちに無くなってしまいます。

 なにせ我が領土は慢性的な赤字体質なのです。






§ § §






 その日の事。

 私は、領地管理人ランド・スチュワードのアルジーや従者ヴァレットら使用人を引き連れて屋敷を出ると、領民の農地へと向かいました。

 所謂、現地視察というやつですね。

 それは前々から準備して予定していた行動のですが……。


「なぜ、お姉様までついてくるのですか?」


 修道服に身を包んだお姉様がニコニコしながら着いてくるのです。


勿論もちろん、アルシアを助けるために決まっているではありませんか」


「助けるってお姉様……」


「アルシアは長い事隣国へ留学していたので、領民にはなじみがありません。ですが私は違います。アルシアの隣に見知った私もいた方が、領民たちもきっと安心すると思いますよ」


「それは……そうかも知れないけど……」


「それに私も神に使えるものとして、領民の声に耳を傾けなくてはいけません」


 そう言ってわざとらしく、神に祈りをささげるポーズを取ります。

 私は心の中で「はぁ……」とため息を吐きました。

 いろいろと言葉を重ねていますが、様は私の事が心配でついてきたのでしょう

 もぅ、お姉様ったら。私はいつまでも子供扱いなんだから。


 私は気を取り直して、眼下広がる青々とした農地を見回します。

 一見すると何の問題も無い普通の農地に見えますが……。

 私は、土を触ると、指でもてあそびます。

 うーん、思った通りね。この土はあまりよくない。

 荒れ果てている、とまではいかないけれど、おそらく平均よりは悪いと思われる土質です。

 領地から上がる収穫量の推移をみて気が付いたのですが、王国全体の収穫量と比べ劣っているのです。


「あれが……新しい伯爵様?」


「なんか領地を見て回っているらしいぞ」


「まだ、子供じゃないか」


 古ぼけた衣服で農作業をしている領民からそんな声が聞こえてきますね。

 そのうちの何人かと眼が合いましたが、多くの者が不安を抱えているようです。

 まぁ、私は隣国へ留学という名目で厄介払いされてましたので領民たちになじみがなく、その上見た眼がまだ子供なので、不安がるのも無理はないでしょう。


「皆さん、作業の手を止めてしまって申し訳ないですね。私がこの度お父様から伯爵を引き継ぎました。これからは『長年放っておかれた』農地への対策もしていく予定です」


 その強調した言葉にアルジーの表情がピクリと動きます。

 ふふふ、私の嫌味に気が付いたようですね、いい気味です。

 とはいえ、前伯爵足るお父様の命であったのなら仕方が無いと言えなくもありませんが、それならそれで、お父様を説得するのが領地管理人ランド・スチュワードの役目だと思います。

 このままではいずれ破たんするのは明白なのですからね。


「ではまず手始めに、この農地から手を入れましょう……アルジー、では打ち合わせ通りに」


「……はい、伯爵様」


 アルジーが合図をすると、使用人たちが一斉に動き出しました。

 そして事前に用意してあった袋を開封すると、その中身を畑にまき始めます。

 そしてソレを見て驚く領民たち。

 まぁその反応も仕方がないでしょう。

 新しく就任した子供も伯爵が、自分たちの畑に得体の知れないものを撒き始めたのですからね。

 とはいえ、事前に説明しても理解が得られるとは思わないので、領主の特権でそのまま作業を進めてしまいます。


「あ、アルジー様!これは一体なにを!?」


「……伯爵様のご指示だ」


 何人かの者はアルジーに詰め寄るも、アルジーはその一言で、私に責任をおっかぶせてきました。

 むぅ、確かに私の指示なんだけどさぁ。もっと領民を安心させるような事言えないのかしら……。


「安心してください、決して悪いようには成りませんから。そうですよね?アルシア?」


 そこへ、お姉様の助けの声が掛かりました。

 私は、頷くと、


「えぇ、少なくとも今よりは状況が良くなると思いますよ」


 そして散布がおわり、農地の四隅にある仕掛けを施すと、私はおもむろに農地へと歩み出したました。


<錬金!>


 四隅に仕掛けた錬金の術式が起動します。

 すると農地一杯に蒼白く光る魔法陣が広がりました。

 先程、使用人たちが散布した油の搾りかすや、魚の骨などといった肥料の元が急速に畑に還元していきます。

 そして、その蒼白い光が収まると。

 なんということでしょう、農地の土は非常に肥沃な黒色の土壌へと変化を遂げたではありませんか。


「なんと!」


 領民たちも驚いた様子で生まれ変わった農地をじっとみつめています。

 そしてその中の一人、初老の老人が恐る恐る農地に踏み込むと、土を一握り手に取り、指先で感触を確かめ始めました。


「こ、これは……凄く良く肥えてる……。良質の土だ」


 その言葉に驚く領民たち。


 ふふふふ、これが『錬金術』の力なのです。

 錬金術の当初の目的は卑金属を貴金属に変える、簡単にいえば黄金を生み出すのを最終目的としているのです。

 ですけど、それはまぁ現状では非現実的だと言わざるを得ません。

 恐らく成功したものはゼロでしょう。

 それは恐らく人の手の届かない、神の領域なのです。

 当初の目的を、実現不可能な所においてしまったがために、錬金術師が胡散臭い『山師』扱いされる原因ともなったのですが、それはまぁ置いておきましょう。

 しかし、今私がやったような、動植物のかすから肥料を作り、それを土と混ぜ合わせる、なんてことは『錬金術』を真面目に学んだものからすればお茶の子さいさいなのです。


 その驚きと共に喜ぶ領民を後目にお姉様は口を開きます。


「ね、皆さん。だから私がいいましたでしょう?アルシアに任せておけば、決して悪いようにはならないって」


 そう言って、お姉様はニコリとほほ笑んだのでした。

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