31 伯爵は政府と契約を結びます
『――今、王都の一部の好事家の間ではポーションドロップなるものを服用する事が流行っているという。これはシュルーズベリー商会から発売されている物で、服用すると身体の体調がスッキリすると云われ、記者が取材した相手も毎朝の服用を欠かさないという話で、記者も試しに服用した所、眠気が吹き飛び頭がシャッキっとした感覚を得られた。また、そのシュルーズベリー商会は近々政府とも取引を始めるという話を貴紙では情報筋より入手している』
これは今朝の新聞にかかれていた一文です。
「これってウチの商会の事でしょ?すごいわ、アルシア、新聞にもかかれるぐらい有名になったのね!」
いつの間にか後ろに回り込んで、一緒に新聞を眺めていたお姉様がきゃっきゃと喜んでいます。
はぁ……、その様子を見て私はかるく溜息を吐きました。
前半の部分は兎も角として、後半のソレは通信魔石の件に間違いないでしょう。
確かにポーションドロップと通信魔石を使った穀物の売買で、我が商会の資産はドンドンと増えています。
「前半のポーションドロップの話は良いとして、後半の部分は若干問題ですね。これは明らかに魔石の話が漏れてますね。ウチから漏れたのか、それとも政府からかしら……」
「政府が……?でも正式なお話しはまだないのでしょう?」
お姉様の問いに、私は頷きます。
内々に王都へ駐在しているウェズに接触があったという話は聞いていますが、それから特に進展はないのです。
政府の関係者の一部が、取材料などを貰って情報をリークした、という話なら良いのですがね。
政府が意図的に、計画的に新聞にリークした、そういう話だとややこしくなるのです。
どっちなんでしょうかね?
一応内々にてウェズにはこちらの条件も伝えてあるのですけどね。
正式な話がいまだにないという事は、ウチで出した条件をめぐって政府内で揉めてる?意図的にリークしたのだとしたら、リークする事で何か有利に事を運ぼうとしているのでしょうか?
うーん、わかりません。
なので暫くはほおっておくことにします。
「まぁ、この件は正式なお話しが来るまでは放置しましょう。それよりもこの溜まっている書類に決済しないといけませんからね。……もぅ!アルジーが代わりにやっていてくれてもいいのに!」
私がそんな事を言うと、お姉様はクスクスと笑いました。
そして私は溜息を吐きながらも、手元の書類に神経を集中させるのでした。
§ § §
「ふむふむ、なるほど。じゃ政府はこちらの要望を全面的に飲むって事で良いのね?……でも以外ね。絶対何処かから横やりが入ると思ったけど」
屋敷の一画、執務室にで私はニコニコしながら書類を見ています。
私の前にはアルジーとウェズだけ、おっと……それに私と同じようにニコニコしたお姉様がいました。
「でも、宜しいのですが?これでは我々が損をする事にならないでしょうか?」
「魔石の納入の事ね?いいのよアレは、只の目くらましだから、値段の大幅なディスカウントぐらいは必要経費で割り切ります。重要なのはこちらですから」
そうして私が指でトントンと叩いた書類には『納入魔石を使用しての通信設備の構築は、シュルーズベリー商会に一任する』と書いてあります。
「私達って政府に全然知り合いがいないじゃない?私も伯爵になってから議会に出席したことないし、その手の知り合いが全然いなかったのよね」
「ダメですよ、アルシア。政治への参加は爵位を持つ者としての義務ですのに……」
「……お姉様、とりあえずその話題はおいておきましょう。コホン……で、他国の様子を見るに、通信魔石についてはいずれ政府の規制が入る可能性が高いです。なのでその前に政府に取り入りましょう」
私の慌てた様子をみてお姉様とアルジー、ウェズは苦笑します。
だって議会なんて面倒くさいんだもん、しょうがないよね。
幸い欠席しても罰則規定とは無いし、今の所出席する気とはさらさらないです。
「今まで、商会の通信を取り仕切っていた者たちを、そのまま通信部署とします。通信部署の長はウェズとしますが、仕事が多くなるでしょう?時機をみて信頼出来る者を早急に見出して任せてしまって構いません」
「……了解いたしました」
「魔石を安くする分、設備の構築やメンテナンスで上手く儲けましょう。政府に食い込むことで新たな商売のタネが見付かるかも知れませんしね。あと何か質問や意見などはある?なければ早急に体制の構築を、これらの準備を最優先とします」
私がそう言うと、二人は頭を下げて出て行きました。
そしてその後ろ姿を見届けた私は、
「はぁ……お姉様、美味しいお茶を入れて頂けませんか?」
「はいはい、準備するので少しまってくださいね。あと、料理長から今日は美味しいケーキが手に入ったそうですから、一緒に出しますよ」
「お、それは楽しみですね」
そんな事を言いながら、私は机の書類を片づけると、お姉様がお茶を入れてくれる姿をぼーっと眺めているのでした。