30 伯爵は思わぬ展開に頭を悩ませます
うーん。
どうして政府関係者からウェズにコンタクトがあったのか、その理由はと言うと……。
「へっ!?通信魔石?」
「はい、どうやら何処からか情報を聞きつけたようですね、伯爵様の商会で通信魔石を多数使用している事を」
アルジーはそう言って言葉を切りました。
むむむ……。
確かにあれは共和国では国家統制品になっていますが王国ではなっていなかったはずです。
ちゃんと法律を調べさせましたから、それは確かなのです。
ですが、あれは確かに政府、特に国軍にとってはかなりの有用性を持つでしょう。
独占したい、と思っても不思議ではありません。
そんな中、ウチの商会で多数使用していると何処かから聞きつけてコンタクトを取ったと……。
「……再確認ですが、王国法では所持、使用ともに問題無いのは間違いないのですよね?」
「はい、それは確認済です」
「だったら最悪知らぬ存ぜぬでおし通しても大丈夫なのかしら……」
「それは止めた方が宜しいかと。政府や軍の高官に睨まれたら、商会の活動にも有形無形の妨害を受けかねません」
「……デスヨネー」
うーん。
私は政府や軍にコネなんてないし、そっちの動きはちっともわからないのよね。
伯爵になると貴族院に議席を自動的に与えられるけど、私は一度も出席したことは無いのです。
だってメンドウ臭いじゃないですか。
「……それで、具体的な要求要望などはあったのですか?」
「それはまだ無いようです。ですがいずれあるのは間違いないでしょう」
ウェズは元王国陸軍士官です。
なのでまずは軍の関係者を使って、ウェズに内々にコンタクトを取ったという事でしょうか。
ウェズは今、王都に作った商会の拠点に常駐しているのもコンタクトを取った理由の一つなのでしょう。
軍だけでなく、ヘタをしたらウェズの父親である侯爵からも圧力がかかってくるかもしれませんね。
「はぁ……。分かりました。ウェズには政府や軍から、正式な要請があれば私の所へ回すように言っておいてください。ですけど正式な要請以外は全部突っぱねて構いませんよ」
「はい、分かりました。それで宜しいのですね?」
「えぇ。……あ、通信魔石以外の事、例えばポーションや農作物関連の事だったらウェズの裁量でじゃんじゃん便宜をはかっちゃってください」
「了解いたしました、それでは早速ウェズに連絡を取ります」
そう言ってアルジーは退出していきました。
『バタン』閉まる扉を見て私は「はふー」と溜息を吐くと、今まで成り行きを黙って見守っていたお姉様は言いました。
「まぁまぁアルシア、なんか大変な事になりそうですね」
そう言いながらもお姉様はなぜかニコニコしていますね?
私がトラブルに巻き込まれるといつも嬉しそうに見えるのは果たして気のせいなのでしょうか?
「ソウデスネ……」
そう呟きながら、私はお姉様をジト―っとした目でみつめます。
「そういう時は美味しいお茶でも飲んで、気持ちを落ち着かせるモノですよ?」
そう言って再度お茶を入れ直してくれました。
「でも政府が動いているなんて、通信魔石ってそんなに凄い物だったんですか?」
そう言ってお姉様はご自分の通信魔石をポケットから取り出してじっとみつめます。
お姉様の魔石は通信室でなく、直に私へとつながるモノです。
是非に!と煩いので、仕方なく持たせましたが、持たせた直後は大した用事もないのにスグ私に連絡が入って正直ウザかったのはお姉様にはナイショです。
「……まぁ有れば色々と便利な物ですからね、これは。先程の報告書、お姉様も見ていたでしょ?あの利益も多くは通信魔石もお陰で得られたモノですからね」
「ふーん、でもこれからどうするの?これからは政府と通信魔石のご商売をする事になるの?」
うーん、それもねぇ……。
通信魔石は作るのが結構メンドイのです。
勿論私の他にアナベラでも作る事は出来ますが、そうするとポーション作成の作業が滞ってしまいますし。
勿論、私とアナベラ以外にも、王国で作れる技術をもった錬金術師はいるんでしょうけど。
まぁ通信魔石の技術その物は、私も独占出来るとは思ってなかったので最悪どうでも良いんですけど、問題は鉱山で取れる、高品位の魔石の方なんですよね。
高品位の魔石は中々手に入らないうえに高価なので、出来れば外部に売らず、手元においておきたいのですよ。
「政府や軍からの正式な要請があれば通信魔石を売るのは仕方ないでしょうね」
「でもすごいわ。アルシアの商会も政府と取引できるぐらい大きくなったのね。アルシアがご商売を始めるって言った時は正直私は不安で一杯だったけれど、これで胸を張って自慢もできますわね」
そう言ってお姉様はキャキャと喜んでいますが……。
確かに政府と取引をする、というのは商会に信用を付けるという事について大きな意味を持ちます。
だけど私は知っているのです。
政府にべったりの所謂政商と呼ばれる立場になると、派閥争いに巻き込まれてあれやこれやと難問を押し付けられたり、問題がおきれば最悪、場合トカゲのしっぽ切りのように見捨てられてしまう事を。
なので立ち位置には気を付けないといけないのです。
私は面倒な事になったな、と思いながらも良い香りのするお茶に口を付けるのでした。