27 伯爵と新しい道具
その日の事。
私は自身の自室で久しぶりに錬金術を使った道具を作成していました。
「えっと、ここはこうして、こうすると……、よし!出来たわ!」
目の前にはキラキラと光る対になった魔石が並べてあります。
そう、この間シュルーズベリー鉱山にて発見された魔石のサンプルを加工したものです。
手にとって光にかざしてみます。
中央に寸分たがわぬデザインで魔法陣が描かれているのを確認した私は「よしヨシ」っと自画自賛しました。
さそっくこれはアナベラに見せて自慢しなくてはいけませんね!
と、そこで扉が「トントン」とノックされると、私の返事も無しに開かれました。
「アルシア、何時までも自室に閉じこもって何をしているのですか?」
顔を見せるなり声をかけて来たのは、そう、私のお姉様です。
まったくこの人は……。
今まで部屋の外で入るタイミングを見計らっていたんじゃないでしょうね?
そして目聡く魔石を発見すると、
「あら?アルシア。その綺麗なクリスタルは若しかしてこの間の……」
「……えぇ、シュルーズベリー鉱山で見つけた魔石を加工した物ですよ」
「ふーん」
そういって私の手からさっと魔石を奪い取ると、私が先程していたように光にかざしました。
「あら、なんか変な模様が刻まれているわね。これは何なのかしら?」
「これは、魔石を使った通信機ですよ、お姉様」
「通信機?何ですか、それは?」
聞きなれない言葉にきょとんとしていますね、その仕草も可愛いですよ。
「通信機というのは近年開発された技術で、簡単に言ってしまうと離れた場所同士にいるものが会話出来る道具です」
「えっ!?何それ凄いじゃない!」
お姉様はびっくりしていますね、私も初めて聞いた時はびっくりしたのが懐かしいです。
この技術は私が賢者の学院にいたころ発表された技術で、共和国では一応レベルで実用化されていたはずです。
ですが、この技術に耐える高純度の魔石が中々手に入らない上に高価であり、数セット揃えるだけでトンデモない値段になってしまいます。
王国の事情は分かりませんが、共和国では入手に国家統制がかかっており、国家運営の中枢に携わる者しか所持できないとか何とか。
私も通信機の実物を手にするのは初めてだったりします。
と言っても、その理論を書いた論文は学院在籍時に読んだことがあるのが幸いしましたね。
材料となる高純度の魔石が手に入ったのでこうして作ってみたというわけなのです。
「そ、それで。これはどうやってつかうの?」
興味新々で目を輝かせながらお姉様は私に問い詰めます。
ちょっとまってください、私も実物を使うのは始めてなのに……
余韻も何もありゃしませんね。
「えっと、確か……そうですね。まずお姉様はその魔石を耳に当てていてください」
「こ、こうかしら?」
「はい、ではそのままで……私は一旦部屋の外に出ますので、そのまま耳に当てていてくださいね」
そう言って私は部屋を出ると少し離れた所まで移動して、
「コホン、もしもし、お姉様聞こえますか?」
「わ、わ、ナニコレ!すごいわ!魔石からアルシアの声がする!」
「次はお姉様が話してみてください。話すときは魔石を耳から離して、口の前に持っていくと相手が聞き取りやすくなりますよ」
「こ、こうかしら?アルシア聞こえる?」
「はい、聞こえますよ。ばっちりですね。では部屋に戻ります」
そして部屋に戻った私を、興奮した様子でお姉様が出迎えます。
「これ凄いわ!アルシアが発明したの?」
「……まさか。他人が開発した技術ですよ。私は作り方を知っているだけです」
「あら、そうなの。でも凄いわ。これってどのくらい離れて場所から会話が出来るの?」
「この大きさと純度ならば数マイルって所ですね。もっと大きく作れば距離は伸びますけど、利便性は悪くなりますからこのサイズが適切だと思いますよ」
そう言って私は自分の手に収まっている魔石に目を落とします。
この手のひらに収まるサイズが適切だと思うのですよ。
「そんなに離れていても会話が出来るのね。すごい、すごいわアルシア。それでこれをどうするつもりなの?やっぱりご商売の商材に?」
うーん。
それは私もどうしようか考えていたんですよね。
これ、ぶっちゃけ一セット作るのに結構な時間がかかります。
勿論アナベラならば作れるとは思うんですが、アナベラにはポーションを作って貰わなければなりませんし。
ポーションや新製品のポーションドロップは作る端から売れるので、その製造作業を止めるわけには参りません。
あと値段の問題もあります。
売るとすれば幾らが適切なのかとかですね。
正直私も幾らに設定すればいいのか皆目検討が付かないのです。
あと変に広めると共和国のように王国でも国家統制がかかるかもしれませんし。
というか、もう既に法律で規制がかかっているかもしれません。
あとでウェズに調べさせないと。
「そうですね……正直これはまだ外部には売らないほうが良いかもしれませんね」
「そうなの?」
「えぇ、当面は身内だけで、余り外部に知られないように使う事にしましょうか」
「そう分かったわ。これは余り他の人の知られないようにコッソリ使うのね。折角アルシアと離れていても何時でもお話しが出来ると思ったのに」
えっ!?
ちょっとまってください、お姉様。
ソレ、お姉様にあげるなんて私、一言も言ってませんよね?
……でも、心底嬉しそうな顔で手にした魔石をみつめているお姉様を見ると何も言えなくなってしまうのでした。