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24 伯爵は面会をします

 その日の事、私はいつものようにせっせと書類をかたずけていました。

 よし、これで今日の書類はお終い!

 私は「ふぅ~」と溜息を付きました。

 そして、決済の終わった書類をアルジーが新しく雇った使用人に渡し、


「ではこの書類をアルジーの方に渡しておいてください、こっちはウェズへ」


「畏まりました」


 徐々にではありますが、使用人も増えています。

 新しく雇った者たちは要領も良いので使いやすいですね。

 その者が部屋を出て行く後ろ姿を見ながら、私は一息入れようとしたところで、


『コンコン』と、ドアを叩く音が響きます。


 すると脇でお茶を飲んでいたお姉様がスクっと立ち上がってドアの向うを確認し、


「アルシア、お客様が来られたようですよ」


 と、私に確認を取ってきました。

 うーん、時間はピッタリですね。

 時間にルーズな方はイマイチ信用出来ないので、今のところは合格です。


「分かりました、客間にお通ししておいてください」


「じゃ、そう伝えますね」


 そう言ってお姉様はドアの向うの使用人とボソボソ話しています。

 ……いつからお姉様は私の秘書になったのでしょうか?

 お姉様は教会にもいかず、いつの頃からか伯爵の執務室に小さな机を持ち込むと、こうして私への取次やら何やらをするようになっていたのです。

 ……本当に出家しているのでしょうか?

 その修道服は飾りじゃないですよね……。

 私は疑問の意味を込めてお姉様をじっとみつめますが。


「さぁアルシア、お客様をあまり待たせてはいけませんよ。参りましょう」


 そう言って私の手を引いて行こうとします。


「はぁ~」


 私は小さく溜息を付くと、お姉様に手を引かれながらも、客間に向かうのでした。






§ § §






「これは伯爵、本日は私どもへの面会、ありがとうございます」


「……メルヴィル様、それで本日はどのようなご用件でしょうか?」


 お互いに簡単な挨拶を交わすと、早速要件を促します。

 と言っても大体分かっているんですがね。


「……どうやら伯爵はせっかちのようですね。良いでしょう、要件はダンバー商会に卸している品物についてです」


「……そちらがどうかしましたか?」


 私はニコニコとした笑みを絶やさずに対応します。

 このメルヴィルという者ははスタッフォード侯爵領での有力商会を経営しています。

 要はダンバー商会のライバルさんですね。

 スタッフォード侯爵領だけでなく、王都でもソコソコの販路をもっているという商会です。


「……例のポーションドロップを私どもとも取引してもらいたい」


「それが貴方の要件ですか」


 私は笑みを絶やさずに頷きます。


「貴女方の関係はもう調べてあります。独占販売の契約をしているとか。しかし私どもならダンバー商会よりも良い条件え取引が可能です」


「良い条件ですか?」


「えぇ、駆け引きは無しでずばり言いましょう。ウチと独占販売をしてくれるならば貴女方には倍の利益をお約束します」


 ほほぅ。

 中々のお話ですね。

 とりあえず「そんなに!」と驚いた顔をみせておきます。

 すると、私の演技につられたのか、メルヴィルも大きな笑みを浮かべました。


「そして、もう一つ。条件を飲んでくれるのであれば、さらに金額を上乗せする用意があります」


 そう言ってメルヴィルはお付の者に目配せをすると、その者は書類を取り出しました。


「これは?」


 私はその書類に目を通します。

 ふむふむなるほど……。

 重要なのはただ一点ですね。


「……製造レシピを公開ですか」


 これはまた、露骨ですね。

 レシピなんて公開したら、向うで好きなだけ作られてしまうに決まっています。

 こんなの本当にのむとでも思っているのでしょうか?


「申し訳ありませんが製造レシピの公開は出来ません」


 まぁ、本気で調べれば、同じ『ような』物を作るのには何年もかからないはずです。

 優秀な錬金術師にツテがあれば、ですけど。

 それでも全く同じ物を作れるとは限りませんけど。


「公開が無理なのであれば、当方の人間を何人か、そちらの生産現場に受け入れてくれるだけでも良いのですが」


 それもノーです。

 普通に考えて作る現場を見られたら、簡単に再現できてしまいますからね。

 まぁそれでもキモである『依存性』の部分は容易には分からないと思いますが。

 あの材料の作りかた関してはアナベラにもナイショにしているのです。

 アナベラも『このよくわからない材料は何なの?』と言っていましたし。


「折角のお話では有りますが、お断りさせていただきます」


 本当は鼻で笑ってやりたい気持ちを抑えて、私は心底すみません、という顔をして言いました。

 上手く演技出来てますよね?


「……それは困りましたね、私もこんな田舎汲んだりまでわざわざ出てきたのです、手ぶらで帰るわけにもいかないのですよ」


 うーん、困ったな。

 この手の人々は一方的に断ると、敵に回る可能性が高いのです。

 イロイロと商売の邪魔をしてくる可能性が無いとはいえません。

 だけど、レシピを教えたり、人を受け入れたりするのは論外ですし、ダンバー商会との独占契約を反故にしてメルヴィルと独占契約を結ぶ、という選択肢もないです。

 さてさてどうしよう?

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