21 伯爵と謎の衣装箱
「うーん、こんな感じかしら?」
今日の私は書斎のレイアウトを変更していました。
勿論、私は指示するだけであり、実際に作業するのは使用人なのですがね!
私は、部屋を見回すと「よしヨシ」と自画自賛します。
と、その時です。
「あら?これは何かしら……?」
私は暖炉の傍にあるものを発見したのでした。
それは大きな衣装箱のような家具です。
こんなもの、ここにあったかな……。
善は急げ!とばかりに私は早速その衣装箱を調べる事にします。
それは木の箱で出来ているようですね、ホワイトオークかしら?
それは黒色に染められており、複雑な象牙細工がされています。
所々に補強の為か、金属が使われていますが、それも銀で出来ているようですね……。
なんということでしょう、錠前すら銀で出来ているではありませんか?
ま、まさかとは思うけど……もしかして、モシカスルとお父様の隠し財産!?
ふふふふ、年甲斐もなくワクワクしてきましたよ!
よくよく調べると箱の上部には同じく銀細工で書かれた文字のようなものがありますね。
読めないので当然、王国の言葉ではありません。
私はドキドキしながらも震えるような手つきで錠前を触ります。
鍵は幸いにも掛かって無いようでしたがなかなか開きませんね。
私は一旦箱から手を離すと「ふぅ~」と深呼吸をしました。
そして蓋を開ける手に力を込め、蓋が十センチ程持ち上がった所で、
「トントン」
と、部屋をノックする音が鳴り響いたのです。
私は思わずびっくりして衣装箱の蓋から手を放してしまいました。
「ガコン」
と、大きな音がして蓋が閉まると同時に、
「アルシア?いないのですか?入りますよ?」
と、いう声と供に扉が開きました。
入ってきた邪魔者は勿論お姉様です。
振り向くとお姉様はいつもの修道服姿で、私の返事も待たずに部屋に入って辺りを見回します。
「お姉様、何のご用事ですか?」
もぅ、お姉様はいっつも私の監視をしてるんじゃないでしょうね……。
そんな疑念が湧くぐらい、いつもイツモ決定的な場面で、お姉様は登場するのです。
「何の御用って私がアルシアの部屋にくるのはいつもの事ではありませんか」
といって何を言っているのかしら?
という目で私をみつめると、急にニコリとして、
「アルシア、部屋の模様替えをしたのですね。それでそんな場所で何をしているのですか?」
「あー、そうだ、お姉様――」
と、この箱の事を聞きかけた所で、再び「トントン」と部屋がノックされます。
それと同時にお姉様は扉に駆け寄ると、
「アルシア、アルジー達です。入れてもよろしいですか?」
「うん、入れていいよ」
私のその言葉でお姉様はアルジー達を招き入れます。
「アルジー、ウェズ、どうしました?」
いつものように仕事モードで話しかけます。
ふふふ、私の仕事モードもスッカリ板に付いてきたようです。
意識しなくても自然に切り替えられるようになりました。
そして、私と話すのはウェズです。
「はい、以前伯爵様から指示されました。王都以外の販路の拡充について纏めました」
をを!
随分とお仕事が早いです。
どれどれ、と資料を見る私ですが、いつの間にか隣にいたお姉様も資料を覗き込んでいますね……。
ちょ、顔近い!
って、これは……。
「スタッフォード侯爵領ですか?」
私より先にお姉様が反応しました。
「はい、スタッフォード侯爵領でしたら、北の地の大領地であり販路開拓としては申し分ない人口がおります。……私の知己がおり、そちらのコネも利用できるかと」
でも、スタッフォード侯爵領ってたしか……。
「でも良いの?スタッフォード侯爵領は貴方の……」
そう、ウェズの出身地です。
ウェズは両親の同意の得ない結婚をするために家名を捨てたっていったけど……。
「ティーナ様、私ごときに配慮は不要です。私はとっくに家名を捨てた身であり、今ではシュルーズベリー伯爵に仕える身ですから」
「……しかし本当に良いのですか?確かに今、ウェズは私に仕える身では有りますが、私としても家庭の事情はある程度汲みますよ?」
「……そのお気持ちだけ受け取ります。しかし、私は与えられた職務を全力でこなすだけです」
「……分かりました。では、この資料通りに進めてください。ただし、もし侯爵とトラブルがおきた場合は真っ先に私に相談を。宜しいですね?」
「はい、了解しました」
「アルジー、そう言う事だから。必要と思える手助けはしてあげてください」
「了解いたしました」
「後は何かありますか?無ければスグ職務に戻ってください」
私が解散を宣言すると、アルジー達はそそくさと出て行きます。
そして部屋に取り残されるのは、いつも通り私とお姉様。
「仕事に一生懸命なのは良いけれど、ウェズも心配ねえ。アルシア、大丈夫かしら?」
「うーん、私は当時の状況知らないから。実際どうだったの、お姉様?」
そうです、当時、私は王国を離れ、学院で思う存分実験などを繰り返していたのです。
……あぁ、思い返せば懐かしい日々。
と、今はそんな事を思い出している状況ではありませんね。
「当時の社交界ではすごい醜聞だったのよ。『スタッフォード侯爵の末子、謎の失踪。駆け落ちか!?』ってゴシップ紙を騒がせていたそうですし」
「そうなんだ」
「侯爵もかんかんに怒って勘当されたとか何とかって聞いたわ」
まぁ、そりゃそうよね。
子供の結婚は親が決めるか、そうでなくても最低限親の許可を取るのが一般的だし。
私やお姉様もお父様があんなことにならなければ、お父様が言われた相手と結婚する流れだったみたいだし。
……もっとも、その相手をお父様は相手の持参金の額で決めるみたいだったけど……。
伯爵家と縁を結びたい大金持ちというのは案外にいる者なのです。
特にわが家は王国設立時にまで遡れるぐらい歴史だけはふるーい家だし。
「まぁ、取り合ず本人に任せて、暫く様子をみましょう。もし販路拡充がダメでも罰なんて与えないから安心して」
「当然よ、アルシア。罰なんてトンデモないわ」
そう言ってお姉様はいつものように砂糖とミルクがたっぷり入ったお茶を私に差し出すのでした。
あ、箱の中身は大昔の請求書が入っていただけだったよ!
やっぱりお父様の隠し財産なんてあるはずないよね!
しってたし!