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18 伯爵はアナベラの研究室へ

 その日の事。

 私の領地であるシュルーズベリーのとある一画。

 私が生まれ育ち、今は私の館であるシュルーズベリー・エステイトにほど近い場所にあるのが、アナベラ用に用意した屋敷です。

 そこは元々は私のおばあ様たる先々代伯爵夫人が晩年過ごされていた、由緒ある別邸なのですが、伯爵を継ぐ前の私は、ここで寝泊まりしておりました。

 勿論もちろん私の意思で、ではありません、お父様の命によってなのです。

 どうも自分の館で、私が錬金術の実験をするのが我慢ならなかったようですね。

 そんなこんなな理由で、私は若くして実家を半ば追い出されるようにして、別宅に移動させられたのですが、それはそれで私にはメリットのある事でした。

 なにせ実家ではこれでも錬金術の実験などは遠慮していたのです。

 それを家族に気兼ねせず思う存分出来る様になったのですからね!

 ……しかし結局のところ、別宅に押し込んでもお父様の気が済まなかったのか、結局は隣国の賢者の学院へと追放されるように留学させられてしまったのです。


 その賢者の学院で知り合ったアナベラ・ダルランが私が以前使っていた錬金術の研究室の主となっていました。

 久々に入ったその家に入った私を、出迎えてくれたのは錬金術でこしらえた泥人形マッドゴーレムです。

 これは力仕事だけでなく警備用もかねているので、見た眼はいかつい感じになっています。

 彼女の造ったゴーレムも久々にみるわね~。

 ああ見えて彼女はなかなかの腕を持っていますからね、でも私も負ける気はないのですよ、フフフ。


 綺麗に並んだ実験器具に、磨かれた壁や床。

 資料も整然と並んでますね。

 こういった事は資料を正確に探し出すのに必要な事なんですか、なかなか出来る人はいません。

 私もアナベラほど丁寧に資料を整頓していたりはしません。

 そのせいかたまーに資料を探し出すのに時間を食ってしまったりするのです。

 こういった地味で有りながら、大切な事をきちんと出来るのもアナベラの才能の一つなんでしょうね。

 なので、その部屋には『錬金術師』というイメージが持つ、怪しげな山師という印象は皆無なのでした。

 錬金術師という職業は魔術師の下位とみられることが多いのだけれど、本質的には研究者であるのです。


 そして入ってきた私に気が付いたアナベラは、かおを若干しかませると、


「アルシア、何の用?」


「こんにちは。あいからわずご挨拶ね、アナベラ」


「貴女に頼まれた売却用のポーションを作るのに忙しいんだけどね」


「あれ?そんなに忙しかったの?」


「……大体の作業は終わったので大丈夫よ、それで?何のようなの?」


 そう言いながらも手を止めずに、箱へ液体の入ったガラス瓶を詰め込んでいきます。


「それが完成したポーション?グレードは?」


「普通の――ノーマルよ、とりあえずね。アルシアだって用意した材料だとそれしか出来ない事はしっているでしょう?」


 そうなのです。まだうまく栽培に成功した薬草はセージを含めた少数であり、高位のポーションを作るには材料が不足しているのです。


 そのまま私が黙っていると、アナベラは大きな容器にいれた濃いコバルトブルーの透明な液体を、正確にガラスの小瓶に移していきます。

 うーん、さすが手際がいいわね。

 ノーマルグレードのポーションでさえ、需要は大きく錬金術師の良い金策となっているので、私も学院に在籍中は良く作った物です。

 アナベラの手際は、私と比べても遜色はないように思えます。


「あ、そうそう。そろそろマージョラムもうまく栽培できそうなの」


「マージョラム?じゃエーテルも作れるわね」


「うん、収穫したらアナベラの所に持っていくから宜しくね」


「だけど――あまり長い事、下位のポーションやエーテルだけを作らせないでよね。それだけを創るなら私じゃなくてもいいじゃない?」


「まぁその辺りは今は我慢してもらわないと。でも将来的にはエリクサーでも作らせてあげるから」


「へぇ、それは素晴らしいわね。まぁ期待しないで待ってるわ」


 と、いいつつもなんか眼を輝かせています。

 これは言葉とは裏腹に相当期待している気配がうかがえますね。

 ……出来るだけ早く期待を裏切らないようにしましょう。


「まぁそのうち、私が改良したポーションも作れるようになると思うから。もうちょっと治験を繰り返したかったけど、まぁ大体問題ないというレベルまでは達しているしね。今までは共和国でお金で治験者になってもらった貧民を対象に治験してたけど、さすがに領地でソレをするわけにはいかないし……。あぁ、昔は良かったわね。お金であとくされのない治験者が沢山確保できたもの。――健康状態の良くない者を多かったのだけが難点だったけど」


「……貴女ねぇ。おとなしそうなかおをしているくせにね。アルシアが学院で同期から距離を置かれていた理由の一つがそれなのよ?スグに人体実験しようとするなんて」


「だってソレが一番手っ取り早いんだもの」


 そうです、学院に在籍していた時分は共和国の貧民をわずかなお金で釣って、治験をいろいろとしていました。

 勿論もちろんすべてが合法ですよ?

 そのせいかどうか、著しく体躯からだを壊してしまった者も僅かですが存在はします。

 しかし、それはソレでそういう可能性もある、という事は事前に説明をしていたのです。

 といっても健康状態が悪い者も多かったので、実際は私の治験のせいでそうなったのかは不明なのですが。


「そもそも、貴女だって私の伝手で条件にあう治験者を用意してもらった事があったじゃない」


「そ、それはそうだけど……」


「お金を払って協力してくれる者を集い、薬を与え経過を観察する。そしてそこから得られたデータをもとに、薬を改良して、最終的には今までより安価で効果のあるポーションを提供できるようになるんだし、世の為人の為になると思うんだけどなぁ」


「……貴女ももう伯爵なんだし、ほどほどにしなさいよね」


 むぅ……。


「はぁ、伯爵なんてめんどくさいわねぇ……。将来的には私のレシピとデータをアナベラに引き継いでもらって――」


「それで、私はさらにアルシアに借りが出来るというわけね」


「えっ?」


 そんなつもりはないんだけどなぁ。

 でもアナベラはそんな私のかおを嫌そうな表情でじっとみつめるのでした。

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